パンケーキ


マエノスベテ5
2022.8.22 23:08
話題:創作小説

33
 話を逸らしてしまったけれどもし浮気や不倫だったとしてもそれでいて彼女の事態になにか関係があるのかと言えばそれも確かに謎だった。
不倫には当てはまらないし、浮気という意味が、客を招いては逐一起きるだろうか?
指名ナンバーワンホストじゃあるまいし。
 何か夜の店などはされてますかなんて聞いて良いのだろうか。聞かない方が良い気がした。そうであっても違っても、人によっては不快感を表すだろう。
「なんにしたって、言葉不足過ぎますね……暴力と一緒だ」

友達(オタク)が好きなアニメで確か似たような話をしていた。言葉が通じないからとりあえず行為に持ち込もうという、実にカオスな話だった。
ぼくはまるで興味がなかったけれど。
「分かってくれ! が口癖でした。私は何もわからなかった」
「仕方がありません。誰だってわからないことがあります、災難でしたね」


そうして少しの間話をして、そういえば、彼が戻るのが遅いということにふと気がついた。

「あ、すみません、ちょっと様子を見ても良いですか」

2019/04/27 15:14











 彼、を探しに廊下に向かうと廊下の先、玄関の方に困った顔のまま立っていた。
そして何やら大柄の男と対峙している。
「あぁ!? 男を知らない、と思ったのに! 経験なく男を知らないと思ったんだ俺は!」
「……何語を話してるんだ?」
……。
彼はとても冷静に、そして困惑を示していた。

「誰だコイツは!」
「はぁ、招かれただけですが」
「ちょっと男を知らないと思えば、いつのまにこんな奴を!!」
「さぁ、知らないのは知らないでしょうけど、望みが叶うことはリスクや不具合も叶うことです。それが摂理というもの」
「俺は経験豊富なんだ、そんなやつは計算だと見抜くことができる」

彼はちらりと、ぼくを見た。

「この頭の可哀想な彼が、家に入りたいそうだが」
彼が、マエノスベテだろうと、なんとなくぼくは察した。
2019/04/27 15:37













35
 マエノスベテが居る空気を察してか、彼女はその場に出て行かなかった。
それで余計にマエノスベテは怒った。
「居るんだろう! なあ、いるんだろ!!」
しばらく叫ぶ間、ぼくと彼がどかずに居ると舌打ちしてドアを強く閉めていったが、なんだったんだという話になりかけたところでブォオオオン! と激しい爆音!が聞こえてきた。
「どうやら前時代のなかにいるらしい」
彼は肩を竦めて、近くの小窓を覗きに行くのでぼくもついていく。そのときになって彼女も我に返りぼくらの後ろから窓を見た。
バイクに乗った5、6人が、家を包囲していた。
「出てこい! 出てこないと恥ずかしい写真でもなんでもやってばらまくからな」
 そんなことを叫ぶのはどうなのかという点についてはこの際触れないで置くが、これは一体、どういうことなのだろう。
彼女は出ていくかどうか少し迷っているようだった。
「な、なんて茶番……」
彼、は呆れたようにため息を吐く。
彼女は悲痛そうな顔で呟いた。
「彼、が孤独な理由と、ウチに転がり込んできた理由のひとつはこれだったのです」
 そういえば、マエノスベテについてぼくらは特に細かくは聞かされていなかったことを思い出した。出てくるまで集団で包囲する発想はまるで犯罪者の扱いだ。
「逆に出ていきにくいな、これは」
一人ならともかく、そもそも他のは誰だ。
出てこないことに腹を立てているマエノスベテは、手にしていた拡声器を口に当てた。

「おーい! お嬢さんやー! 死んじまったかい?」
程なく、玄関のチャイムが鳴らされる。
「ウシさん! うるさいですよ、またアンタんとこのツレさんが騒いどります」
ウシさんは、二階からばたばた降りてくると廊下に立ち尽くす彼女を見てじっと睨んだ。
あんた、なんとかしなさい、という無言の威圧だ。

「う……」

彼女は「嫌だな、出ていきたくない」という表情だったが、近所からもお前が止めろと訴えが来て、部屋からもこれなので、とうとうドアを開けた。2019/04/29 23:34







36
 ドアを開けたものの、その先に居たご近所さんは、生け贄待ってましたとでも言わんばかりの笑顔で彼女の背を押し、マエノスベテへ差し出そうとした。
「いやいや、お待ちかねですよ」
喧しいと言っていたときのキツさはどこへやら、それはとても柔らかなふるまいだった。
彼女は逃げる術も無いため、そのまま部屋から出される他はなかった。
いいのかいと、彼、へ聞くとだからといって事情もわからないので入りようがないと言った。ぼくも、特に事情を知るわけではないが他人を見るたびにウワキダ、フリンダと騒ぎ立てる精神の持ち主なだけに、下手に接触していいのかと少し迷ってしまった。

「なにか、用事ですか、あなたは出ていったはずです」
「出ていった? ううん、あのときはカッとなっただけなんだ。悪いことしちゃったなぁ」

男はやけににこにこして彼女に歩み寄った。
「ほんとかよ……」

後ろ、玄関の中から見守りながらぼそっとぼくが言い、彼は、あの包囲網で言われるとなあ、と苦笑いを返す。
「ごめん、きみを愛してる」
「そう。さよなら、それと」
 彼女は何からどう突っ込もうか2秒ほど迷ったようだったが別れを述べて、ついでになにか続けようとした。彼が少しむきになったときだった。
誰が呼んだのか、奥の道から赤いランプをつけた車が走ってきた。

「うわっ、また来る」
そうして彼は慌てて仲間たちと撤退した。
「お騒がせしました」
彼女はそうことわると、なるべくさっさと家へ戻って来た。
どうにか今は距離を置いている状態だが、しかしこの囲い込みはあまり変わらないらしい。
「私が心配だと言いますが、今思うと彼は、もう少し別の心配からすべきだと思います」
「なんというか、遠いところからもわかる、すごい人だな」
「えぇ。エレイさんも思いましたか」
「彼とは何か、暴力沙汰があったような感じがするね」
「まるで見てきたようなことを言うんですね」
「なんとなく、そんな雰囲気があるというのかな、言ってもわからないと思うよ」
「そうですか……まぁ、そのようなものです」
ぼくにしたのと同じような話の概要を彼女は軽く彼に語った。
「私は、私が何も知らないからだと自分を責めていましたし、近所からも、慰めよりも、その倍、バカだと言われました」

「確かに漫画や動画などを見たって、不倫、浮気、と用語説明がされるわけでもない。知っている人向けのコンテンツだ。
僕もたまに、浮気や不倫がなんのことかわからないときがあるし、ああいうのは話し半分くらいにしか見ていないよ。
しかし目が合い会話をするだけであらゆるものが許せないというのは、異常、やり過ぎだな」

2019/04/30 00:04

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