宇宙兄弟
ヒビト×紫三世

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Side紫

ついに年貢の納め時が来た。
ミヤッチの無茶振りからの、南波兄のよろしく発言。これはやばい。
こんな一瞬で俺とヒビトとのアレやコレやがバレたのか。それにしても勘良すぎだろう南波兄。
いよいよ俺も腹を括る時か?
いやしかしこんなカフェのど真ん中で?
しかも肝心の本人はいないし!

そんなことを考えて何も言えなくなっていたら、ムッタが照れ臭そうに椅子に着席した。
「すいません、つい…」
「あ、いや」
俺は組んでいた足を戻し、椅子に座り直す。すると、
「ヒビトという奴はですね、」
ムッタが語り始めた。
……いや本当に、どうしたらいいんだ俺は。隣でミヤッチが笑いを押し殺しているのがわかる。呆気にとられているケンジ君には大変申し訳ないが、俺も状況がよくつかめない。
「あいつは兄の俺にも本当によくわからない奴なんです。こう…突拍子もないというか、何を考えているのかわからないというか!」
ムッタは俯き加減で何かを思い出しているようだった。突拍子もないのはこの兄も一緒だ、その言葉をぐっと飲み込む。
「…わかります」
「ですよね!」
熱を帯びてきた語り口調のまま、彼は残ったコーラを一気に飲んだ。一気に飲みすぎたのか途中で炭酸にムセていたが、そんなことで止まる男ではない。
「読んでる途中の本の結末を先に言うし、俺が大事に取っておいたデザートを食うし、ホントにろくなことをしないっていうか…」
徐々に曇ってくるムッタの表情。だんだんいろんなことを思い出してきたのか、俯き加減でそのまま押し黙ってしまった。
しばしの沈黙。時間にしてほんの数秒だったが、俺にはものすごく長い時間のように感じる。
「でも」
そう言って、少しだけ照れくさそうな表情を浮かべると、俺のバカな恋人の兄は俺の方に向き直った。
「でも俺が言うのも何ですが、アイツは良い奴なんです。バカがつくくらい真っすぐで、あったかい奴なんです」
「…知ってますよ」
こんな家族に愛されて、ヒビトは育ったんだな。見た目はまったく似ていないけど、ムッタのなかには間違いなくヒビトと同じものがある。
バカの兄も、バカがつくくらい真っすぐな男だ。
いいタイミングなのかもしれない。ヒビトにはあとで謝っておこう。ここはまず男としてケジメをつけないとな。
俺は決心して口を開いた。
「ムッ…」
「だから紫さん、今後もヒビトの良き相談相手でいてやってください!いやぁしかし紫さんに恋愛の相談とかしてるなんて、すごく意外でしたけどねぇ!」
「………はい。」

ムッタの言葉に噴き出した冷や汗を、ブルースーツの裾でこっそりと拭う。努めて冷静に、俺はどんな時でもニンジャ紫。心の内を悟られてはならないのだ。