泣きそうになるのは多分、とても優しいからだ。



この記事は男女のめくるめく恋を綴ったものではありません。男男の恋情のもつれからくる女々しい話です。ご注意を。









風呂上がりにコーヒー牛乳をおじさんよろしく立って飲んでいたら、不意に後ろから抱きしめられて、コップを落としそうになる事件が勃発した。

「へっ、うぇっ、な、なに?」
「はは、ごめん。なんとなく」
「ちょお、コップやばいって。滑らす」
「ん」

僕の手からするりとコップを取り上げてテーブルに置いてくれるのはいいけれど、触れ合った面積から体温を感じてむずむずする。離れたい。でも今日のみやくんは無下に出来ないというか、ちょっと我慢してやるか仕方ねえなという心が僕に生まれたので、何も言わずそのまま立ち尽くして、

「なあ、なんか指輪とか欲しない?誕生日やろ」

そんなことを言うので、僕は首を横に振った。ガラじゃない。

「やっぱりなぁ。じゃあ何する?」
「べつに、なんもいらん」
「なんかない?何買ったらいいかわからんし」
「ない。欲しいもんは自分で買うし、こんなん言いたくないけど、お前からいろいろ貰ってるやろ。物じゃないもの、とか」

言ってから激しく後悔した。
だって、後ろで笑うから。で、内蔵潰す勢いで抱きしめてくるものだから、足の甲を踏んづけて腕の中から逃げた。内蔵出す気か!
このやろう。しかも嬉しそうに笑うな。恥ずかしいだろうが!!
自分でもクサイこと言ったと思った。でも答えとしては正しかったのだろう。正解だ。あーはなまるはなまる。

「あの、一回だけでいいから正面でハグ、宜しいですか」
「え、いやや」
「一回だけやから!!」
「なんやろ、更に嫌に」

なってきた。と続けるつもりが強行突破、みやくんが強引に抱きしめてきたので、体育会系のノリでがっちり抱きしめ返してやった。服一枚あるだけで、マシなものはマシなんだなあとどれくらいぶりかに抱きしめ合って思った感想がそれだった。

「たまに、やから許してな」
「しゃあないな。たまに、やったらええよ。」

いっぱい、いっぱい、
我慢させてるのは知っている。
でも僕が本気で嫌がることは一切しない、そんなみやくんは本当に優しい。
だから僕はいつも抱きしめ合うとき、ちょっと泣きそうになる。

人の体温や体液が激しく苦手な僕は皮膚と皮膚が触れ合うのも苦手だし、キスもセックスもダメだ。きもちわるい。ただ、人様がしていることに嫌悪は抱かない。AVも昔は見てた。自分に降りかかるのがダメなんだろう。

「えぇ、匂い嗅ぐのやめて気色悪いわー同じ匂いやろ」
「せやから堪能しているというか」
「変態か」
「なんとでも」
「いつもごめん」

はっきりと言えないのは僕の弱さ。

「それこそ、俺もおまえからいっぱい貰ってて、無理強いしてまで欲しいものとかないし」
「うん、ありがとう」
「最近素直やな?ちょっとこわいわ」
「うるさいなもう!!」

逃げ出した。







体を重ねることが愛を確かめ合うことだと言うのなら、僕たちは何で確かめ合うのだろう。たまにするハグなのか、日常の幸福なのか、確かめ合うことすら不要なのか。泣きそうだ。これは、とてもまぶしい恋だ。