*2024年4月18日 16:58σ(・∀・)ノ


「起きてください。ミスルン隊長」
 その声はハッキリとミスルンの耳に届いた。現在、おそらく深夜。目を覚ます、というよりも閉じていた目を開く、という自然さでミスルンは覚醒した。夢を見ていた気がするが何も覚えていなかった。
「カブルー」
「行きましょう。急いで」
「待て。どこへだ」
「どこでもいいです。離れられれば」
 起きたとわかるや否や、カブルーはミスルンの身体を半ば無理やり起こす。急げ急げとせかしてくる。ミスルンには、カブルーがなぜそこまで急かすのかわからない。
 ただ急かされるから、急かされるがまま上半身を起こす。
 パジャマから外へ出るための服に着替える。
 顔を洗えと言われるから洗う。
 トイレへ行けと言われるから行く。
 歯を磨けと言われるから磨く。
「準備はいいですか」
「うん」
 どこへ行くかは知らないが、これで仕上げだとばかりにリュックを背負わされた。しっかり前のめりになっていなければ、荷物の重さに耐えられず後ろに倒れてしまいそうなほどの重さのリュックだった。この中にハーフフットが入っていると言われても、むしろ納得するような重さである。
 それでも「行くぞ」と言われたら「はい」以外ない。ミスルンにとって、与えられた役目以外のものはすべて、どうでもいいことだからだ。
 扉を開ける。夜特有の寒さが肌を刺す。太陽の光に温められていない空気は意地が悪いくらい寒い。
「ミスルン隊長」
「うん」
「ついてきてくださいね」
「ああ」
 なにがなんだかわからない。わかることといえば、カブルーが焦っていること。まだ夜は深みを増していく途中だということ。とにかくリュックが重いこと。



 カブルーは街中へ向かっている訳ではないようだった。より闇が深くなる方へと向かっていく。
 切れかけの電球のように、まばたきをするみたいに街灯がシパシパと瞬く。外灯の先にある虫カゴで、夜になると光る虫を飼っているのだ。それがこの町の街灯を担っている。
「虫」
「ええ、虫ですね。最近あの方式を採用したんです」
「不便だ。魔法を使えばいい」
「そうでもないです。あのシステムは我々にとっても、虫にとっても都合がいいでしょう。ウィンウィンです。共存共栄というやつです」
「そうだろうか」
「そうに決まっています」
 カブルーは振り返らないまま、会話を続ける。それなのにむしろ、歩く速度は早まった。会話ができる距離ならミスルンがちゃんと付いて来ていると、見ずとも認識しているようだ。
 次第に、街灯は少なくなっていく。
 カブルーが街灯の少ない道を選んでいるのだ。
 レンガで側路を舗装してある道は終わり、砂利道は草で囲まれる。むしろ草の生えていた場所から草を引っこ抜いて、むりやり道を作ったような道を、カブルーとミスルンは歩く。
 ミスルンは風景を見ながら、前を歩くカブルーの後ろを付いて行った。
 ブーツが砂利を蹴る。踏みしめる。ザクザクと砂利同士がこすれ合う音がする。
 ミスルンも大きなリュックを背負わされたが、よく見るとカブルーも大きなリュックを背負っている。まるで今からダンジョンの深層に潜ろうとするのかと思うほど大きなリュック。それは尖った針で突けば中身があふれ出してしまうのではないかと思うほど、パンパンに詰まっていた。
「カブルー」
「はい」
「持ってやろうか。荷物」
 そうミスルンが言うと、少しの静寂のあと、カブルーは声を出して笑った。少し歩くスピードが遅くなった。
「あなたはそういう人でしたね」
 やっと振り返ったカブルーは、笑いながらそう言った。
 ミスルンは少しホッとした。起こされてから、なんだか鬼気迫った様子のカブルーしか見ていなかったからだ。
 しかし、それでもカブルーの足は止まることはない。砂利道は、次第に石のつぶが大きくなっていく。もうすぐで山道に突入する。
 カブルーの行動には謎が多い。
 夜中突然の、ミスルン宅への訪問。家主を起こし、着替えさせ、あらかじめ用意していたリュックを背負わせる。そうして、朝を待たないまま人目を避けるように外出する。
 しかし、その真相を知りたいという欲求がミスルンを動かすことはない。
 どうせ、意図なんてものはいずれわかるものだ。カブルーが隠そうと、吐き出そうと、いずれ明かされる。カブルーはそういうものを隠し通せるトールマンではない。
 二人は山へと踏み入った。
 遠くで狼の遠吠えが聞こえる。おそらくただの狼ではない。カブルーは一瞬ギクと身体を強ばらせたが、気にしていない振りをしてそのまま山道を進んで行った。
「ミスルン隊長」
「ああ」
「これから、何がしたいですか」
「? ……何がしたいとか、そういうのは私にはない」


(※書きかけで、あきらめた。←コピーライター? ミスルンが追放されると聞き居ても立ってもいられなくなったカブルーがミスルンを連れて駆け落ち/逃避行しようとするも、本人に聞いたらそれはまったくの聞き間違いもしくは一部分だけしかカブルーが聞いていなかったための誤解だと判明し安堵でふやけた表情筋がもどらないまま、元来た道を戻るカブミスの話になる予定でした)




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