*2024年3月12日 13:35σ(・∀・)ノ


「死んで」
 竹浦はただ一言ぽつりとそう言った。
 尾形はそう言われても仕方のないことをしたはずである。したはずなのに、心が痛んだ。死にゆく心をそのままに、やせ我慢のような形で「そうかよ」と言った。
 マッチポンプ。いやなんだろう。もっと当てはまる言葉がある気がする。自傷。自分が傷付くとわかって行ったこと。自業自得。いや、これでもなくて。もっとぴったりな言葉がどこかにあるはずなのだ。
 尾形はもう自分の気持ちがすっかりわからなくなっていた。元からわからなかったのに、輪をかけてわからなくなっていた。何を望んでいるのか。何が欲しいのか。何がいらないのか。わからない。わからないのに、ただ一つわかるのは竹浦が自分のものじゃないのは嫌だ≠セった。
 それでも、竹浦のことが好きなのかどうかはわからなかった。
 好きな気がするし、嫌いな気がする。愛しい気もするし殺してしまいたい気もする。どっちつかずでわからない。竹浦と言葉を交わしてしまうと、その天秤はぐらぐらと揺れる。豊満に酸素の与えられた炎のように一気に燃え上がることもあれば、砂に突っ込んだように一瞬で消えることもある。竹浦に対する尾形のこれは、もうほとんど衝動に近かった。
 愛されたいのに、愛される資格はないと思う。その権利を自分で奪っていく。そうして「やっぱり自分は愛されなかった」と自嘲するのだ。実際、愛されないように手を回しているのは自分なのに。
 手放しで愛されるなんてありえない。自分が愛されるには、打算がないといけない。それだったら、まだ信じられる。打算がないのなら、信じられない。価値がないからだ。のうのうと生き、生き物を殺し、人間を騙し、生きながらえようとする醜い人間だ。そんな自分に愛される価値なんかはどこにもない。
 だから、何かの間違いで愛されてしまったら困るのだ。今までの自分の前提が崩れてしまう。だからわざと嫌われるようなことをする。その方が精神的に安定する。愛されたら、足元がぐらつく。
 嫌って欲しい。心の底から嫌って、同じくらい愛して欲しい。同量の感情を持て余して、天秤にかけて、その時々の感情で揺れ動いて欲しい。殺して欲しい。殺してやるから。
「――もし、お前と引き換えに世界が滅亡すると言われたら……」
 と、黙ったはずの竹浦がこんなたとえ話を始めた。ン、と耳を傾ける。竹浦はよく突拍子のないことを言う。これもその一環だ。次にどんな言葉が出てくるかわからないから、続きが気になるのだ。
「俺は躊躇いなくお前を差し出すよ。お前を差し出して、世界を救ってやる」
 尾形は笑った。正真正銘、ぴかぴかの嫌味だ。
 けれど、正せばその二択を迫られねば、竹浦は尾形を殺さないということだ。尾形は笑う。なにが何やらわからない。愛ではない。でも殺意ではある。それでも、竹浦は尾形を受け入れ続ける。




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