*2024年3月12日 11:30σ(・∀・)ノ


 杉本という男は、ビールの好きな男だった。
 杉本というのは本名ではない。小学校の時、黒板にカタカナで「好きな食べ物はオキホタル」と汚い字で書いたのが由来だった。その文字は全く「オキホタル」に見えず、字の角度もおかしければ要らない線を足されており、黒板には「オミホタル」と書かれているように見えていた。その最初の「オミホ」というのがむしろ漢字で「杉本」に見えるという話になり、そこから「杉本」と呼ばれるようになった。しかも「ホタルイカの沖漬け」のことを家庭内で「オキホタル」と呼んでいるらしく、正式名称ですらない。偶然が重なった末についたあだ名だった。
 そこからというもの、彼は本名で呼ぶと反応が鈍くなった。「杉本」というあだ名がよほどしっくりきたらしい。小学校の卒業証書授与では、杉本は本名で呼ばれてもすぐ立つことができなかったくらいだ。教師も「杉本」と呼ぶようになったし、今やこのあだ名の経緯を知らない大学の同級生までもが「杉本」と呼んでいる。
 杉本は、どこかへ行こうと誘うと「ビールが上手い店が良い」と言う。夏に会う時はもっぱらビアガーデンで、好きなビールは黒ラベル。それでも、昔の方が美味かった、などと言う。「濃くて、舌にヌタッと残る感じ。匂いも強烈で、青い稲穂みたいな匂いがした。今のは随分あっさりしている」と。
 缶から注がれるのも、サーバーから注がれるのも少し悲しいと言った。本当は樽をぶち抜いてそこから漏れたビールを口に直接飲みたいと。飲み切れなければビールに溺れて、身体中の細胞にビールを覚えこませたいのだと言う。これがこの男の死ぬまでに叶えたい夢らしい。
「気持ち悪い夢だな」
 居酒屋、二人用の狭いテーブルで酒を飲んでいる。対面に座り辛辣に切り捨てた男に、杉本はハアと息を吐いた。
「少尉に言われたくねえよ。最近まで、本当に少尉になるのが夢だったくせに」
 少尉と呼ばれた男は、またその話かと鼻を鳴らす。
 こちらもあだ名だった。幼少期、爆発的に流行った戦隊ドラマが軍隊を模したものだった。リーダーが赤の中尉で、他に少尉、軍曹、上等兵などのメンバーがおり、子どもたちはその「ごっこ遊び」に勤しんだ。そして、その戦隊ドラマで少尉役を務めていた俳優に似ているとかで、少年はそのまま「少尉」とあだ名がつけられた。そしてそれが、大学生になった今でも続いている。杉本と同じく大学の同級生も「少尉」と呼ぶし、この戦隊ドラマの俳優の話をすると、だいたいは「似てる!」と言って笑う。
「夢だった。だが、今や中尉少尉ではなく、二尉三尉なのだろう。私の憧れとは逸しているからな」
 そう言って防衛大学への入学を断念したのを、幼なじみの杉本は知っている。断念して、学力に見合う大学に入学。そうしたらスポーツ推薦で杉本も同じ大学に入学が決まっていて、また縁が延びた。幼稚園から始まり、小学校、中学校、高校、大学まで一緒だった。それぞれクラスは離れても委員会は一緒だったりした。もはや悪縁である。切っても切れないモイラの運命の糸みたいなものである。それでもきっと就職で離ればなれにはなるだろう。少尉は賢いが、杉本は勉強が苦手だった。だから杉本は部活ばかりに力を注いでいる。
「すみませーん、ビールもう一つ」
 ジョッキを空にしたらしい杉本が追加注文をする。店員は遠い。この男の声はガヤガヤしている居酒屋でもよく通る。
「お前は? 何にする」
「焼酎。水割りがいい」
「麦? 芋?」
「芋」
 そしてまた、店員が遠くにいるのに注文した。続けて、店員が厨房に声をかける。かえるの輪唱みたいに同じ言葉が続けられていく。
「焼酎好きだよね。ビールは苦手?」
「苦手ではない。ただ、炭酸がキツい。喉に酸を流し込まれているような気がする」
「それがいいんじゃん。喉を焼くのがさ」
 杉本の顔には傷跡がある。顔を横断する大きな傷である。この男は昔から無鉄砲で、川遊びに行けばどこから登ったか高い岩の上から飛び降りるし、気付けば山から転がり落ちているし、危ないと思えば子どもや猫を救うためにトラックの前を横切ったりする。防衛本能や恐怖心のスイッチがバカになっているのだと思う。その代わりに自分の芯だけがぶれずにあって、そのせいで自分の身を呈してしまうのだ。後先も見返りも考えず、目の前の人やものが傷付くのが嫌だとかそういう理由で。ただ飛び降りるのも山から転げ落ちるのは好奇心の一環だった。
 ちなみに、この頃は少尉も悪童で通っていた。杉本が顔に大きな傷をつける原因になった川への飛び込みにも、少尉は一緒にいた。同じように飛び込んだ。結果、杉本は顔を横断する大きな傷を作り、少尉は左頬にぱっかりと肌が割れたような傷を作った。
 店員が新しいジョッキを持ってくる。空いたジョッキは下げられた。
「……そういえば」
 アルコールで、酩酊する一歩手前だった。皮膚の内側が熱くてぽかぽかしてくる。これ以上先に進むと何も覚えていられなくなるかもしれない。杉本はそういう酒の飲み方をする男だった。
「大事な話があるって言ってなかったか。なんだった?」
 何の気なしに尋ねると、冷えたグラスを握った杉本は一瞬身体を強ばらせた。そして、グイッと大きくビールジョッキを煽った。冷えたジョッキに伝った水滴がテーブルに跳ねた。
「……が、……の……だけど……」
「は? 聞こえん」
「俺が、……のこと、……なんだけど」
「聞こえん!」
 普段、居酒屋を割るほどの大声を出すくせに。声の調節機能が壊れているのかと思っていたのに。
 杉本はジョッキを片手にしたまま少尉を見た。その目の焦点は絞られている。その目に射られて、少尉の胸はざわっと毛羽だった。端的に言うと、ドキッとした。
「……酔ったせいにしてもいい?」
「内容による」
「俺、少尉のこと、好きなんだけど」
 杉本は真っすぐに見つめている。
「酔ってたら笑い飛ばして、酔ってなかったら、受け取ってください」
 そう言った杉本が、ゴソゴソボディバッグから取り出したのは、小さな包みだった。包装紙でラッピングを施してある。少尉は受け取った。
「開けても?」
「え? うん」
 包みを開ける。包装紙を開くと、中には硬いビニールに包まれたハンカチが入っていた。タオル地ではない、大人のハンカチだった。シンプルで、隅に小さくヒヨコのアップリケがついている。
 かわいい。
「気に入った。ありがとう」
「ええ? 待って……俺の告白どこ行ったの」
 少尉は杉本をジッと見た。酔っているのは杉本の方だ。
「私は酔っていないから受け取った」
「……ということはつまり……?」
「私も杉本が好きだ」
 聞くや否や、杉本は席を立ちあがった。
 ガガッと椅子が床を擦るひどい音がした。
 周りの視線が杉本に集まる。
 しかし、立ち上がっただけで、杉本はすぐに座った。座って、はぁと頭を抱えた。
「ッぶね〜……抱きしめに行くところだった」
 実は少尉は、この男がかわいいことを昔からよく知っていた。
 大学に入ってからずっと、微妙な関係が続いていた。別に肌が触れ合ったりとか、そういう何かがあった訳ではない。でも高校の時よりもグッと距離は近くなって、よく目が合うようになって、触れることを躊躇うようになった。昔は肩に手を回すのも気兼ねなくできたのに、今は意を決すという前段階が必要になった。どちらかの家で雑魚寝をする時だって、できるだけ相手に触れないように配慮した。
 だからもう、時間の問題だった。どっちが言い出すか、とただそれだけだった。それが今日だった。
 幼稚園からの長い積み重ね。下手したら二十年ほど前から相手のことを知っている。
「少尉、……俺と付き合ってくれんの?」
 杉本は泣きそうな顔をして改めて問うた。
 かわいくて情けない男。それでも少尉は、この男のことをずっとかわいくてたまらないと思っていた。
「うん」
 と少尉が言うと、杉本は大きな両手で顔を隠した。
 そうしてやっぱり小さな声で「勃った」と言った。これははっきり聞こえた。少尉は大笑いした。



 大学三年生の冬のことだった。この時から付き合い始めたから、もしかしたら少しタイミングが遅かったかもしれない。
 就活が始まった。就職にまつわるゴタゴタで、日々を忙しく過ごした。
 杉本は杉本で、企業のスポーツ枠を狙うから部活には最後まで出る。実際に声はかかっているらしい。ほとんど形ばかりの筆記試験と面接がある。その対策を教授と練っている。
 杉本は推薦入学者用の寮に住んでいたが、少尉は大学の近くに部屋を借りていた。1Kだが畳数は多い。自然と、杉本はそこに入り浸るようになった。
 教授と何度か面談して、少尉は大学院に進学することになった。そして杉本は就職する。やはり道は違えることになった。
 杉本は「中華屋のジジイからもらった」と言って、ギターをもらってきた。それを部屋の中でかき鳴らしている。へたくそだった。そもそもそれぞれの弦のチューニングが合っていない。それぞれの弦を適当に鳴らすだけでも黒板を引っ掻いたような音がした。それに、杉本がギターを持つとウクレレに見える。
「どこの中華だ」
「あの、第二キャンパスの近くの。大盛が非常識な量で出てくるとこ」
「ああ、あそこ。なんでギターをもらうことになったんだ」
「え〜? わかんね……埃被ってたからあげるって言われた」
「ふうん」
 うるさいからやめろと言うと、やれやれという顔をして杉本はギターを隅に置いた。
 シンと整っていた少尉の部屋は、杉本の侵入を許した途端騒がしいほど物が多くなった。杉本の服はもちろん、トランプとか、ボードゲームとか、前までは持ち帰られていたものがそのまま置きっぱなしになった。ついに、この部屋は一人で目を覚ましても杉本を感じるようになった。このチューニングのままならないギターもその一つである。
 ベッドで寝転んで本を読んでいたら、横に杉本が乗って来た。少尉の背中を抱き、本を覗き込む。スウェット越しに体温が触れる。
「少尉」
「うん」
「就職どうしよう」
「何か迷ってることがあるのか?」
「うんー……」
 杉本は少尉の肩のへこんだところに顎を置いた。くすぐったくて身体をよじる。そうすると杉本はぐりぐりと顎を押し付けてくる。耐えられなくて本を閉じて、身体を横にした。ベッドの上で横になって、杉本と向き合う。
「だって、俺が北海道行っちゃったら寂しいでしょ」
「そりゃあ、寂しい。寂しいが、そんなことで左右されては敵わん。本当は北海道に行きたいのに、私を思ってここに留まられる方が嫌だ」
「なんで?」
「お前の人生を、私のせいで狭めたくない」
「お前のせいってねえ……そういうのよく言うけど、俺の人生って別に就職だけじゃねえし」
「と言うと?」
「お前も俺の人生なんだってこと」
 杉本は少尉に身体をすり寄せる。でも残念だ。今日はセックスをしない日だった。
 間接照明をつけた。この間接照明は兄からの贈り物で、少し前までは置物になっていた。これが置物じゃなくなったのは、杉本と付き合ってから、真っ暗にした部屋で杉本がよく転んだからだ。そのたびにボウリングの玉を落としたみたいな音がしておもしろかったが、階下の住人のクレームは恐れた。それから間接照明は置物ではなくなった。
「寝るだろう」
「うん」
「電気消してきて」
 促すと、杉本は素直に従った。部屋の電気を消すと、間接照明のぼんやりとした明かりが広がる。杉本は転ばず真っすぐベッドに帰ってくる。
 そうして二人横で並んで眠る。
 ベッドはセミダブルだが、身体の厚い男二人が寝るにはやっぱり狭い。狭いが、今度広くなることはないだろうと思う。
 院に進学して、杉本は就職で実業団チームに所属して、お互いの生活は変わってしまう。朝から晩まで決まった時間で過ごすということがなくなる。土日休みが当たり前ではなくなり、たまの休みが被って一喜一憂するようになる。そうやって日常が変わっていく。自分は耐えられるのか。
 ……いや、耐えられなくなったらやめればいいのだ。今じゃない。
 それでも、杉本が「お前も俺の人生」と言ったことは、素直に嬉しかった。交際はまだ半年にも満たない。けれど、人生の記憶の八割にお互いがいる。確かに、彼と一緒にいることは人生そのものであった。
 でもそれとこれとは違う。その思想は嬉しいが、実行に移してなお嬉しいかと問われると、そうではない。杉本の就職は選択できる人生なのだ。人生において自分で選択できる部分は、自分にとって取捨選択の余地がないものから優先して決めて行けば良い。たとえば、心から愛してやまないスポーツとか、磨き上げられた崇高な志とか、一度蹴りを入れたくらいじゃびくともしないようなレールの上を歩くことでも。そういったものから優先して決めていくと、枠から自然とはみ出していくものがある。そんな、杉本の枠からはみ出したものこそが自分であるという気持ちがある。杉本は、はみ出してしまったものを気にしてしまってはいけないのだ。

 何を幸せだと決めつけるではない。でも、今ある幸せからもう少し手を伸ばせばもっと心が震えるような感動があったとして、それを手に入れて欲しいからと身を引くことは、すなわち愛ではないかと思う。少尉にとっての愛である。
 そして、やっぱり、今交際を始めたのは間違いだったかもしれない、とも思う。もう少し早ければ。あるいは、もう少し遅ければ。遅ければ遅い方が良かったかもしれない。具体的には、杉本が就職を決めた後に。そうすれば絶対に杉本の選択を受け入れることができていた。その時の杉本の選択は、恋人という選択肢の介在しない選択であったはずだから。



 セックスする日は、水曜日か土曜日。両方でも良い。
 次の日が休みの日にセックスをしたい。さんざんセックスをして、気を失ったように寝て、次の日昼くらいまで寝るのが二人とも好きだった。
 この決まり事は交際後、初めてのセックスをしてから決めたことだった。
 初めてのセックスは大変だった。最初はじゃんけんでどっちをするか決めた。決めて、最初は少尉がネコをすることになり、一度してみたらどっぷりとハマってしまった。タチは経験しなくてよくなってしまった。尻の中のびりびりした部分を杉本の竿で貫かれるのが、神経をじかに嬲られているみたいでひどく気持ちよかったのだ。
 今日は火曜日。しない日だ。
 間接照明のついたリビングのベッドの上。薄い布団をかけながら二人で横になっていた。
 部屋の隅にはギターが立てかけられている。
「前世とかって、あったら信じる?」
 この男はたまに、こうやってロマンチストのようなことを言う。
 少尉は小さく笑い、首を振る。
「信じない」
「ええ〜っ。前世とかさーぁ、ロマンチックじゃん」
「いや、ないない。そもそも非科学的だ。輪廻とかも信じていないぞ。……それに、きっと前世だったら私たちは出会えていない。お前に惹かれない人生ならなくていい。今だけで十分だ」
 自分でも甘い言葉を言った自覚がある。杉本はキュッと喉を鳴らした。鳴らして、トロッとした目で少尉を見る。この男は時々甘い顔をする。顔の傷や所作の粗雑さが難を成しているだけで、元の顔の造りは端正で上品だから、その表情の甘さはより際立った。
「……エッチしたくなっちゃった」
 少尉はふはっと笑った。エッチ。かわいい言い方だ。たしかに自分たちのしていることは、セックスではなくてエッチなのかもしれない。なんだかままごと遊びのような響きがある。言葉に深刻さがない。
「今日は火曜日だが」
「わかってるけどお」
「準備もしてない。挿入は無理だ」
「じゃあ舐めんのはオッケーってことね」
 誘導した。杉本は素直に誘導された。挿入を伴わないエッチならいいよ、といった具合に。
 杉本は布団をまくり、下に潜った。少尉は身体を仰向けにして、少し足を開いた。スウェットに手をかけられたので腰を浮かせる。ボクサーパンツごと降ろされた。そして杉本は、ゆるく芯を持った陰茎をゆるゆると握る。杉本は頭からまた布団を被ってしまったので、何をしてるか見えない。視界から消え、何をしているかわからない状況が余計に興奮を煽った。
 風呂から上がって時間が経っていないので、陰茎はさらっとしている。先走りも滲んでいない。杉本は検分するように至る所に触れた。皮のゆるんでたまった部分、カリの窪み、先端の割れ目。そうして少しした後、先端が口に含まれる。あたたかくてぬるついた場所に声の混ざった吐息が出た。杉本は口に含んだものを舌でも形を確かめるようになぞった。もごもごと動かれる。その緩慢な刺激にじわじわと高められていく。ドロ、と先端に精液が滲むのがわかる。口の中で硬さを増していくというのは、杉本に興奮を如実に伝えているということである。あんなに柔らかかったのに、陰茎の皮膚はぱんぱんに張ってきていた。
 杉本は、刺激に対して単純な男だと思っただろうか。
 杉本のあの端正な顔に陰茎が頬張られていることを想像する。快活に、朗らかに笑う杉本。あの口に陰茎が含まれ、彼は欲に濡れた顔をしている。顔が見たい。どんな表情で陰茎を咥えているのだろう。杉本も興奮して顔を赤くしているのだろうか。それとも高めることに集中して、自分の興奮は表情に出していないだろうか。どちらにせよ興奮する。杉本が性的なことをしているという事実を思うだけで身体が熱くなる。
「あ、っああ、だめだ、いく……っ」
 杉本は同じスピードで同じ愛撫を続けた。ふにふにと睾丸を揉まれる。張り詰めた神経の糸を弾かれている。ずっとゆるい刺激のまま達するのは、無理に快感を高められてしまわないので満足感が大きい。じゅぷじゅぷと音がする。杉本の口から卑猥な音が出ている。それを想像するだけで、ずんと腰が重くなった。
 ついに少尉は精を吐き出した。びく、びく、と大きく腿が跳ねる。杉本は先端を口に含んで精液を受け止めている。
 少ししてから、ぢゅ、と先端を吸った杉本がボクサーパンツの中に少尉の陰茎をしまいこみ、布団をかきあげて顔を見せた。きらきらの笑顔だった。親に褒められるのを待っている子どものような笑顔。まぶしくてかわいくて愛おしい。
「気持ちよかった?」
 少尉は頷いた。
「私もしたくなってしまった」
「ん? フェラ?」
「……エッチを」
 恥を忍んで言ったのに。
 杉本はニヤッと笑うと「挿入は明日ね」と言う。そうして布団から少し出ると上半身を起こし、スウェットを貫かんとするほど硬くなった陰茎を少尉の腿に押し付けた。尻の奥がもぞもぞする。杉本の陰茎に手を伸ばすと、それに触れた途端手を払われる。
「出ちゃうからだめ」
 恨みがましい目で杉本を睨むと「俺のはほっときゃ治まるから」と言う。そういう問題じゃない。杉本は全く兆していなかった少尉の陰茎を高めて射精まで到達させたというのに。バランスが悪い。供給が均等ではない。
 さっき準備して来ればよかった!
 大学生なんてこんなものなのだろうか。二人の時間が多いせいか、無尽蔵に求めてしまう。でも嫌じゃない。杉本とするエッチは好きだ。昔から知っていると言っても後ろめたさなどはなかった。むしろ、もっと早く付き合っていれば、もっと早くからこういうことができたのに、と、そう思うほどだった。就職のことを考えると全く逆のことを考えるのに、自分の裏腹な気持ちにげんなりする。
 でもどちらも、根底にあるのは杉本のことが好きなだという事実だから、まあ、……仕方ない。




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