リレー小説

2009.2.5 Thu 18:23 :リレー小説
リレー小説4

その様を見送った後、リコリシアは直ぐ様カレルの元に駆け寄った。
「御主人様ぁっ…!御主人様ぁっ…!」
「アイリス落ち着いて。カレルなら大丈夫だから。」
リコリシアはアイリスを宥めると、胸の前で手を組んで歌い始めた。その歌声は高く澄んでいて、マリジュアナと並ぶかまたはそれ以上だった。
彼女の特性は歌のパターンによって表される。今は麻痺状態のカレルを解放するための歌を歌っているらしい。
ミストがその穏やかな歌声に微笑んでいると、ふと自分のポケットの中で携帯のバイブが鳴った。取り出してディスプレイを見ると、ミストはすぐに電話に出た。
「はーい、もしもーし。可愛い可愛いミストちゃんですよー。」
『…ふざけるな。』
「ははっ!試合の結果でしょ?X先生。」
どうやら電話の相手はXらしい。試合結果を聞くために連絡を寄越したのだ。恐らく電話の向こうでは、対戦表か何かに、他のチームたちの試合結果も書き込まれていることだろう。
「勝ちましたよ。カレルくんの一人勝ち!まっ、すっきりした勝利じゃなかったけど、大した怪我も出なくて安心ってとこです。」
『そうか。』
「だからもちろん私もピンピンしてますよ!あっ、今ホッとしたでしょ〜?先生ったらかーわいっ!」
『切るぞ。』
荒々しく電話を切る音が響き、からかいすぎたかと少々心配するミストだったが、次の瞬間にまたXからの着信が鳴った。
『…これより指示を出す。一度広間に戻って来い。』
恐らく言い忘れていたのであろう、少々恥ずかしげにしている先生の姿が目に浮かんだ。だからそこが可愛いんだよなぁ…と呟くと、先ほどと同様に荒々しく切られ、それ以降かかってくる気配はなかった。
思わず緩む頬を押さえつつ、ミストは携帯を閉じ、治療を終えたリコリシアと回復したカレルに今聞かされたことを報告した。
「めんどくせぇ……」
「お前、回復して一発目がそれかよ……」
眠そうに欠伸をするカレルに対して、呆れたようなリコリシアの一言。そんな二人に近寄るミスト。そしておもむろにカレルを蹴り飛ばす。
「ガハッ!いってぇ!お前何すんだよ」
「何すんだよはこっちのセリフだ!マリジュアナちゃんまで巻き込みやがって!」
「あぁ、あれか……明らかにリーダーマリジュアナさんだったし、あれ位のパフォーマンスした方があの二人にも良かったでしょう?」
ひそひそとリコリシアがアイリスに聞いてみた。
「あれ、絶対殺し合わせる気だったよねぇ……」
「だったらあんな曖昧な操りも、降参すれば許すなんて囁いたりしませんよ」
微苦笑しながら答えるアイリスはとても人形らしく無い顔をしていた。
ミストによる私刑、もとい問い詰めが終わり、一同は集合場所に戻る事にした。
広場に戻った3人は 辺りに生徒が全然いないことに驚きつつも、Xのところに向かった。
Xは不機嫌そうに顔に皺をよせて切り株の上に腰掛けていた。
「念の為に聞いておくが、お前らはφブロックでの勝者なんだな?」
泣く子も黙りそうな重低音でXが尋ねた。
「もー先生ったら疑り深いんだからぁ!安心してください、ちゃんと勝ちましたよー!なんなら、救護室に行った私たちの相手に聞いてみてくださいよ?」
至って明るく言うミストを、Xはもうたくさんだ、といった風に手で制した。
「わかったわかった…ただの確認だ」
「ところで…先生、なんで周りにこんなにも生徒が居ないんです?」
カレルが尋ねると、Xの顔がひくっと引きつった。その様子にビビりつつもリコリシアは言った。
「あの…もしかして遅かったりしました?」
「…その逆だ」
「え?」
「お前らが早すぎると言ってるんだ!!」
「ひっ、すいません!」
急に声を荒げるものだから、リコリシアは心臓が止まるかと思うほどびっくりした。だから、隣でミストが相も変わらずニコニコしているのを見て我が目を疑ったりもした。
「え!じゃ私たちが一番乗りですかー?」
「残念だが、お前らで四組めだ」
「ちぇっ、なーんだ」
つまらなそうに言うミストに顔を強ばらせながらも、Xは続けた。
「勝ったお前らには次の試合に進んでもらう。本当ならこのまま連戦して貰いたいところだが…それでは生徒が可哀想だという意見が出てな」
俺はそんな風には全く思わんが、という顔でXは言った。
「と、いうと…?」
おずおずとリコリシアが促すと、Xは小さくため息をついた。
「日を跨いで続きを行う。今日はもう帰っていい。」
つまらなさそうに頬杖を付きながら言うXを見て、三人は顔を見合わせた。
帰っていいと言われても、時刻的にはまだ日中。太陽は空の中央でさんさんと輝いている。今日は一日中実習だと思っていたので、帰っても特に予定は無いのである。
しばらく三人は考え込んでから、答えをまとめたのか、各々で頷いた。
「私は明日に備えて、魔術の対応について簡単に調べておこうかしら。」
「じゃあ俺は人形たちを改造しておくか…あ、アイリス、怪我は?」
「私は大丈夫です、御主人様。」
「じゃあ私は少し訓練してくるかなー。射撃室空いてます?」
「…あぁ。」
「よし、じゃあ皆で明日頑張ろー!」
「……。」
三人は各々別の目的を持ち、明日の抱負を語ってから別れた。
カレルは人形の改良をするために実験室へ。アイリスはカレルに言われて、自宅に他の人形たちを取りに戻った。リコリシアは情報収集のため資料室へ向かい、ミストは射撃室に直行した。
そんな勉強熱心な生徒たちの後ろ姿を見送ったXは、げんなりした表情で「アイツらにはコンビネーションを磨くという思考は無いのか…」と口の中でぼやいていた。



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