リレー小説

2009.2.5 Thu 18:23 :リレー小説
リレー小説3

まず血の気の多いアルフレッドがカレルに向かって斬りかかってきた。その手に握られているのは無骨な両手剣。カレルは危なげなく避けたが…もし当たったら痛いでは済まないだろう。
「やはり貴方はファイターですか。実にわかりやすい」
「うるさい!」
再びカレルに向かって剣が振られる。が、カレルはこれも難なくかわす。
「クソ!」
アルフレッドが舌打ちする。
その横では、アイリスとエンツォが睨み合っていた。
「先程のご主人様に対するお言葉、撤回させていただきます」
「ははっ、君たち人形は本当に可哀想だね。主人がどんなに無能でも忠誠を誓わなきゃならないんだから」
完全に見下した態度でエンツォが言った。そしてその毒はアイリスの許容範囲をこえてしまった。
「…もう、撤回だけでは済ませませんよ」
エンツォ…つくづく人の地雷を踏むのが得意な男である。
かくして、ここでもプライドをかけた戦いが始まった。

傍らには固唾を飲んで見守っているリコリシア…と楽しげに話すミストとマリジュアナ。
「…ってなんであなたがいるの?!それにミスト!こんな時に何やってんの!!」
「何者も私の愛を阻むことはできない!そうだろっ」
熱っぽく語るミストをリコリシアは適当にあしらい、マリジュアナの方を見る。
「はいはいそうですね…で、あなたは?」
「あれは2人の勝負だから、私は手を出さない方がいいかなぁ、と」
愛らしい微笑みを浮かべるマリジュアナ。
「私が聞いてるのは、なんでここにいるのかってこと」
やや呆れながらリコリシアが言うと
「…居ちゃ、いけませんか?」
今度はなんとも寂しげな表情を浮かべた。リコリシアは「いけないもなにも私達、敵同士でしょうに」と言いかけたが、
「そんなことあるわけないじゃないか!君みたいなかわいい子にそんな顔は似合わないよ。さ、笑って」
またもや始まったミストの口説きを前に言う気が失せてしまった。
「もういいわっ。まったく何で私の周りにはこう非常識な奴らばっかり…」
ぶつくさと文句を言いながら、リコリシアは再び試合会場に視線を戻した。
そこに広がる光景は、相も変わらず押さず押されずだった。カレルはアルフレッドの攻撃を今は避けていられているが、人形使いの彼がこれ以上耐えられるかは…正直怪しいところだ。
そしてカレルの敗北はアイリスの敗北を意味する。術者が力尽きれば、人形を操れる者が居なくなるからだ。
アイリスとエンツォの方を見やると、激しい攻防が交わされていた。アイリスが攻撃すればエンツォは地面を軽快に跳ね、距離を取り、エンツォが攻撃を仕掛ければアイリスが避けるといった具合に。
確実に解るのは、このまま行けば体力の尽きたカレルたちの負けになってしまうであろうことだ。
しかし、誰がどう見てもそう思うことを、リコリシアとミストは否定してみせた。
「ね、マリジュアナちゃん。回復の準備した方がいいよ。」
その証拠に、ミストはマリジュアナの肩に手を置き、そっと囁いた。意味が解らないのか、きょとんとしているマリジュアナに、ミストはにこりと笑ってみせた。
「そろそろ、勝負も動く頃だよ」
ミストは誰にともなく漏らした。
「アイリス、踊れ」
「OK、マスター」
回避すら辞めたカレル、このままでは間違いなく両手剣の餌食だろう。
「はっ、血迷ったか!だったら終わらせてやらぁ!」
気迫と共に剣を振り降ろすアルフレッド。だが、相手はエンツォだった。
「何やってんですか!正気ですか!?」
「……悪い、何だこれ?身体が……」
何が起きたか解らないまま二人は同士打ちを続ける。
「良い見世物ですね、お二人さん。仲間割れですか、いやぁ愉快愉快」
「な!?テメェ何しやがった!」
気丈に吠え続けるアルフレッドだが、いつまで持つことやら。そんな彼にアイリスの痛烈な蹴りが入る。
「良かったねぇ、まだ胴体とおさらばしてなくてさ。感謝して欲しいねぇ全く。対人用に調整して無かったら死んでた所だよ?」
「御託は良いから、解放しろよ!」
さっきの物腰はどこへ行ったのか、エンツォも激昂している。
「そんなに解放して欲しいなら、死と言う解放を差し上げましょうか?」
妖艶な笑みを浮かべながら首筋に銀のナイフを添え、あっさりと告げる。
「そこまでで良い、アイリス。後は僕がやる」
そう言って手を上げる。
「面白い趣向を思いついた」
手を下ろすと、マリジュアナがカレルの所にやって来る。
「な、何をする気だ!」
マリジュアナ達の手にナイフを握らせる。支給された、人を殺せないナイフでは無い、普通のナイフを。
「マリジュアナに君達を殺させようかと。あ、手は動くようにしたから殺されるの嫌なら殺しな」
まぁ君達を自殺させても面白いよねぇと笑いながら操るカレル、それに娼婦の用にまとわりつくアイリス。
「…カレル、そこのへんで勘弁したら?これは実習なのよ」
「それにマリジュアナちゃんは君らに何もしてないでしょ?彼女まで巻き込むのはどうかと思うけど?」
リコリシアとミストが口々にカレルを窘める。しかし、いったんスイッチが入ったカレルはそんなことでは止まらなかった。
「こいつらと組んだのが運の尽き…可哀想だけど仕方がないことだよ」
くくくと笑い、指を動かす。すると、ナイフを握ったマリジュアナがゆらゆらと仲間の方に歩き出す。それを蒼白な顔して見つめるアルフレッドとエンツォ。
その様子を恍惚とした顔で眺めるカレルとアイリス。

もういい加減、力ずくで止めさせるしかないかとミストとリコリシアが動き出そうとしたその時。
どこから悲しげなメロディーが聞こえてきた。
その音はとても澄んでいて心地よいものだった。
思わずカレルも操る指を休め聞き入っている。
しかしリコリシアはとっさに耳を押さえ、ミストにも耳を塞ぐよう指示する。
ミストはいきなりのことで戸惑いつつも、何か理由があるのだろうと思い指示に従った。
と、突然眼前のカレルが苦しそうに呻いて倒れ込んだ。操るものがいなくなりアイリスも困惑をあらわにする。カレルの支配が解けたアルフレッドとエンツォは糸が切れたように地面に崩れ落ちる。
「口笛…」
ようやく耳から手を離し、リコリシアが小さく漏らす。そう、聞こえてきた旋律はマリジュアナの唇から奏でられたものだった。
「どういうこと?」
リコリシアにならって手を下ろしたミストが尋ねる。
「彼女が何だったか覚えてる?」
「ん?えーと…そうだ!笛吹きだ!」
ミストはそれで全てが飲み込めたようだった。
「そう、というわけよ。あのカレルの倒れ方からして…麻痺させるタイプのメロディーだったみたい」
「へえ、そんなのもあるんだぁ…あんなに綺麗な音だったのに」
2人が話している間にマリジュアナが仲間を治療したのだろう。先程とは違うメロディーが聞こえ、アルフレッドとエンツォがゆっくりと起き上がる。
「もしかして…まだやる気?」
ミストが恐る恐る尋ねる。するとマリジュアナは首を横に振り、言った。
「私たちの負けです」
「回復したのに?」
リコリシアも聞き返す。
「いいえ、あれは痛みを取っただけで傷はそのままなんです。あの、救護室に自力で行けるようにと。なんでも…敵の情けは受けたくないんですって」
マリジュアナは恥ずかしそうに笑った後
「それから…ごめんなさい。状況が状況だったとはいえ、カレンさんをあんな風にしてしまって…」
と申し訳無さそうに謝った。
「あんなの、自業自得だよ。マリジュアナちゃんが気にするけことないからね」
すかさずミストがマリジュアナを慰める。そのさまを、リコリシアは内心「食えない女」と見つめていた。
マリジュアナが口笛でカレルを麻痺させたあの時、彼女はカレルだけでなく自分達にも魔法をかけようとしていた。もしあのまま、気がつかず麻痺させられていたら…間違いなく自分たちが負けていた。次の試合には出られず、どちらにせよ初戦落ちだ。もしかすると彼女はそれを狙って…そこまで想像したリコリシアは、密かに身を震わせた。
「私は二人を連れて救護室に行きます。では、試合…ありがとうございました。」
丁寧にお辞儀をして、マリジュアナたちは寄り添うようにして去って行った。



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