この小説は18禁表現が含まれます。閲覧は自己責任にて、お願いします。
「なら、慰めろよ」
きっかけは、たった一言。
恋人でも無い、ただ慰め合うだけの関係。
好きも愛してるも無いのに、何故、乗ってきたのかは、わからない。
ただ、男同士でも、案外、簡単に、そうなれるのだという事と、自分が慰めに対してでも、高ぶる事が出来るのかと、自分自身を自嘲した。
「んっ・・・そ、だっ」
「ここ?ここがいいの?」
「やめっ!」
ギシギシと鳴るベッドが卑猥さを誇張して、行為を更に興奮で煽る。
「もっ・・・」
「もう?もうちょっと頑張ってよ」
「ば、かっ」
「っ、ひどいなぁ」
余裕ぶってるように見せている割に、互いに限界が近いのは感じていて。
「ぁ、いっ!」
「っ、」
俺が達した後に、中で、生暖かい感触が広がっていく。
ずるり、と中から、圧迫感が無くなり、乱れた呼吸を整える前に、ずしりとした体の重みが伸し掛かってきた。
「どけよ」
汗ばんだ体が重なり合う感触が気持ち悪い。
「いいじゃん」
「重い」
「つれないなぁ」
俺の上に被さっていた体が、ごろりと横に寝転んで。
「律、シてる時は可愛いのになぁ」
「っ、うっさい」
むくり、隣の影が動いたかと思うと、顔が近付いてきた。
後、数ミリで、くっつきそうになった、その時。
「大悟」
俺が名前を呼ぶと、ぴたり、動きが止まった。
「・・・おしい」
「おしい、じゃねぇよ」
吐息が掛かる、その距離で止まったまま、互いに動く事は無くて。
「大悟」
再度、名前を呼ぶと。
「・・・あ〜はいはい。どきますよ」
さも、仕方ないといった雰囲気を、全面に醸し出しながら、大悟が俺から離れていく。
「何か飲む?」
「茶」
「相変わらず渋いな」
ぎしりと、ベッドを、わざとらしく軋ませながら降りて、台所に向かう大悟の背中を目線だけで追った。
大悟と俺は、所謂、腐れ縁ってやつで。
こういう関係になって決めたルールに、キスはしないというものがある。
俺は体さえ満たされれば満足だったし、それ以上は求める気も無い。
そのルールがあるから、大悟も名前を呼べば、キスをする事も無くて。
そんな大悟との関係も、もうすぐ一年程、経とうとしていた。
だけど、最近、隙あらば、キスを仕掛けてこようとする大悟に、正直、面倒臭さを感じ始めてきた。
「ほら」
ねっころがったままの俺の額に、こつり、冷たいペットボトルの角が当たる。
「どうも」
それを受け取りながら、体を起こして、茶を飲むと、幾分か体内がスッキリとしたように思えた。
「今日は帰るの?」
わざとらしく聞いてくる大悟に、若干、苛つきながらも。
「今日も帰る」
俺も、わざとらしく返してやった。
「泊まってけばいいのに」
「やだよ。お前、しつこいもん」
「それは律の中が良いのが悪い」
裸のまま、真面目な顔で答える大悟を、鼻で笑いながら。
「意味わかんねぇ言い訳してんじゃねぇよ」
俺はパンツを手に取り、着替えを始めた。
俺が服を着ていく様を、ねっころがりながら、両肘をベッドに付き、眺めている大悟に、何が楽しいのかと、疑問に思う。
「じゃあな」
完全に着替え終わったところで、別れを告げ、玄関に向かおうとすると。
「送るよ」
大悟が、のそり、と体を起こした。
「裸でか」
「着替えるに決まってるだろ」
「いらねぇ」
「もらっとけ」
会話をしながら、パンツを履き始めた大悟を横目に、俺は。
「じゃあな」
尚も着替えている大悟を無視して、一言、告げ、玄関を出た。
そのまま、自分ん家に向かいながら、歩いていると、疲れた体に当たる風は心地好いもので。
「そろそろ、終わらせるかな〜・・・」
独り言と溜息が、俺の口から漏れた。
「俺、気になる人が出来たから」
あれから、一週間程、経った頃、大悟からメールが来た事をきっかけに、大悟の家に行って、何気ない会話をしている時に、俺は大悟に、そう告げてみた。
「え?」
「だから、今日、大悟とはヤらない」
きっぱりと言った俺に、面くらったように間抜けな顔をしながら、大悟は暫く俺を見て。
「・・・そっか!律、良かったじゃん」
自分の頭の中で整理が出来たのか、笑顔を浮かべながら、そう言った。
「あぁ」
「どんな人?」
「何で大悟に教えなきゃなんねぇんだよ」
「固い事、言うなよ。気になるじゃん」
「言わねぇ」
「何でだよ。協力しようと思ってるのに」
「いらねぇ、失敗したくねぇし」
「失礼だな」
悪戯をする時の様に笑った後、大悟は。
「じゃあ、今日は、お祝いだな。赤飯は無いけど」
「いらねぇよ」
尚も笑いながら、俺の前のテーブルに酒を並べ始めた。
次々に並んでいく酒に眉を顰めながら。
「誰が、こんなに呑むんだよ」
問い掛けた俺に。
「律とオレに決まってるじゃん」
さも当然と言わんばかりに、大悟は答える。
「呑めねぇよ」
「呑んどけよ」
大悟は、ぷしゅ、と炭酸の弾ける音を立てて、缶を開けると、それを俺に差し出してきて。
「今日だけだからな」
仕方なしに、その缶を受け取りながら、一応、忠告をする。
「わかってるって」
本当かよ、と突っ込みたくなるような軽い調子で答えた大悟も缶を開けて、互いに酒を呑み始めた。
それから、俺の気になる人の話をする事も無く、大悟のドジ話やらを聞きながら、時間を過ごしていたものの、気が付くと、俺はベッドの上に居た。
どうやら余り酒に強くない俺は、呑んだまま潰れてしまったらしく、重い頭を動かして、携帯の時計を見ると、夜中の2時をさしていて。
「おい、大悟。帰るから、鍵」
ケータイの明かりで、大悟が隣に居る事に気付き、起こしてみたものの。
「・・・ん〜?律、今、何時?」
「2時。起きろよ」
「も、いいじゃん。泊まっていけよ」
半分、眠っているような声で答えたかと思うと、俺に腕を伸ばし、抱き締めるように体を横にして、寝転ばせてきて。
「お休み、律」
むにゃむにゃとした声で言った後、また寝息を立て始めた。
「勘弁しろよ」
そう呟いてみたものの、大悟の体を外す体力も無く、酒が残っているせいで意識も薄れてきて、閉じていく瞼に抗えず、眠りに誘われる事にした。
「あ、律。起きた?」
再度、目覚めた俺の目に飛び込んできたのは、タオルで頭を、がしがしと拭いている、裸の大悟だった。
「最悪だ」
「何でだよ」
「寝起きで大悟の裸なんて見たくもねぇ」
「シャワー浴びたから」
「パンツくらい穿けよ」
「見慣れてるだろ?」
「そういう問題じゃねぇ」
「良いじゃん。律も浴びたら?」
「いや、帰る」
未だ頭の重みを抱えながら、気怠い体を起こして、立ち上がろうとした俺の腕を、大悟が掴んできた。
「何?」
「フラフラしてるんだから、もう少し休んでいけよ」
それが、大悟の優しさとは理解出来ても、鬱陶しさは拭えない。
体調のせいもあってか、大悟が酷く面倒に感じて。
「前から思ってたけど、構い過ぎ」
つい、本音を零してしまった。
「律?」
「大悟と俺は、そういうのじゃねぇだろ」
「そういうのって何だよ」
「付き合ってる訳でもねぇのに、干渉し過ぎんなよ」
俺が、そう言葉を吐き捨てた瞬間、大悟が、顔を顰めて、手の力を緩めた。
そんな大悟から顔を逸らし、掴まれた腕を振り払った後。
「帰る」
一言、告げて、玄関に向かう俺の背後に。
「悪かったな」
そう小さく呟いた大悟の声が聞こえたが、構わず、俺は、玄関を閉めた。
それから、気が付けば、1ヶ月程、経っていて。
一週間に一度は必ずあった大悟からの連絡は、あれっきり無く。
当然といえば、当然な状況に、大悟とは、このまま終わっていくのだろうと思っていた。
もう少し、言い方があったかも知れない、と、最後の別れ方に若干の後味の悪さを感じながらも、遅かれ早かれ、大悟との関係を断ち切ろうとしていたのだから、これで良かったと思う自分も居て。
大悟の居ない日常に慣れてきた矢先、俺の携帯に一通のメールが届いた。
『家で待ってる』
短い文章の大悟らしくないメールを、始めは無視してやろうか、と思ったが、そのメールに、どことなく違和感を覚えた俺は、久しぶりに大悟の家を訪ねた。
呼び鈴を押した後、直ぐにドアは開かれ。
「久しぶり」
力無く笑う大悟が、少しやつれたように感じながら、招き入れられるまま、大悟の部屋に上がった。
「で?用事は?」
以前と同じ場所に腰を下ろした俺が、そう問い掛けると、大悟は俺の隣に座り。
「なぁ、律。慰めてよ」
以前、俺が言った言葉を、大悟が俺に投げ掛けてきた。
「は?どうしたんだよ、大悟」
「律、慰めてくれよ」
そう言うと、大悟は俺の体を背後にあるベッドに押し付けながら、抱きしめてきて。
「ちょ、待てって、大悟」
「無理。待てない」
「落ち着けって」
「落ち着いてる」
強引に、俺の体をベッドに引き上げ、馬乗りになって、両手と両足で、動きを封じ込めた後。
徐に、俺の首筋に舌を這わせた。
「んっ」
服の中で大悟の手が肌を撫でて、その勢いのまま、服が脱がされていく。
「大悟っ」
「我慢できない」
必死に止めようとする俺に、大悟が、急くように行為を進めて。
「ぅあ!」
乳首を捻られ、思わず、声が漏れた。
急速に、熱を上げさせられる体に、抵抗すら出来なくなり、口に手を当てて、快感に耐える事しか出来なくなっていく。
「律」
「んっぁ」
大悟は、舌での体への愛撫を止めて、俺の名前を呼ぶ行為を何度か続けるものの、久しぶりの感覚に、喘ぎ声だけが口から漏れていく。
気が付けば、お互い裸になっていて、大悟の指が、俺の物に触れて、後ろの穴に指が入っている状況で。
「だい、ごっ!キツ、いっ!」
くちゅくちゅ、という音が、前なのか後ろなのかも、わからない状態に、耳を塞ぐ事も出来ず、大悟の肩を必死に掴んでいた。
「律、気持ち良い?」
「もっ、むっ、んぁっ!」
大悟の上がった息と、汗ばんだ体が、少し離れたかと思うと。
「っ、うぁぁ!」
痛みを伴うような圧迫感が、俺を襲った。
「はぁ、律。いい?」
「っ!だっ、んぁ!」
俺の返事を待たずに、動きを再開した大悟に、がくがく、と揺さぶられるのを必死でついていきながら、大悟の物を覚えている体が、強い快感を与えて。
「も、むっ、あぁぁ!」
いとも、呆気なく達してしまった俺とは対照的に、大悟は収まる気配すらない。
「っ、ごめん、律。付き合って」
「だい、ごっ」
達した直後だというのに、尚も強い快感を引き出される感覚に、眩暈すら起こってくる。
いつまでも終わらない快感に、もういっそ気絶した方が楽な程に感じていた時、漸く、大悟が中で達した。
大悟の物が抜け、互いに息が乱れたまま、無言の状態が続く。
力が入らない体を、ぐったりとベッドに預け、指を動かす事すら億劫に思えるものの、このままでいる訳にもいかないと体を起こそうとすると。
「律、ごめん」
力無くうなだれた大悟が目に入った。
「どの意味だよ」
渇いた笑いを浮かべながらも、俺の頭には疑問しか浮かばない。
何で、襲われたのかも、大悟が、何で、こんなにしつこかったのかも、理解が出来ない。
「律が・・・好きなんだ」
「は?」
大悟からの、あまりにも急な告白に、思考が停止した。
「律から言われて、色々、考えた。律は、オレの気持ちに気付いてないし。確かに付き合ってないし。律には気になる人も居て、オレが迷惑になるかもしれないとか・・・でも、オレ、やっぱり律じゃないと無理だ。律の事、抱き締めたいと思うし、キスだってしたい。律、オレを彼氏にして欲しい」
「ちょ、待てよ、大悟」
「待てない。充分、待ったし。律は、オレが嫌いか?」
「嫌いじゃねぇけど・・・」
「なら、オレを選んでよ、律」
縋るような目線を向ける大悟に、言葉を発せずにいると。
「・・・嫌なら突き飛ばしてくれ。そしたら、もう律とは関わらないから」
そう大悟が言ったかと思うと、徐に顔が近付いてきて。
急な決断に、体が動かずにいると、大悟の顔が、後、数ミリでくっつきそうになったところで、ぴたりと止まる。
「今度は止めないからな」
大悟の呼吸が唇に当たる距離に戸惑いを隠せずにいると。
「っ、」
唇に柔らかな感触が当たった。
それは直ぐに離れ、大悟の真剣な瞳が、俺を射抜く。
「・・・本当に良いんだな?」
確かめるように問い掛けた大悟は、動かない俺に、再度、顔を近付けて。
今度は止まる事無く、唇を合わせた。
「んっ」
大悟の舌が、俺の舌を、からめとり、吸って、歯の裏側をなぞっていく。
抵抗しなければ、と思うのに、大悟の舌の動きに翻弄され、体から力が抜けていき、頭がくらくらとして、呼吸の仕方さえ忘れそうになる。
大悟と俺の唾液が混ざり合い、飲み込め無くなった時、漸く、大悟の唇が離れて。
「はぁ、んっ」
もう終わったかと思えば、今度は角度を変え、まだ貪ろうとする大悟に、力無く、拳をぶつけると、大悟は完全に、俺から離れた。
「も、苦し・・・」
息も絶え絶えに伝えると、今度は、俺を力強く抱きしめた後。
「だって、やっとキス出来た」
切なさを含んだ大悟の声が耳を擽って。
「っん」
思わず、上擦った声が漏れた。
「律、可愛い」
「っ!」
直後、頬に大悟の唇の感触がした後、耳に大悟の吐息が掛かったかと思うと。
「律は、もう、オレの物だよな」
少し掠れたような大悟の声が耳元で聞こえてきて。
大悟とは終わりだとか、俺は物じゃねぇとか、そんな言葉を返そうと思ったのに、嬉しそうな大悟を前に。
「・・・あぁ」
つい、ふて腐れたように返事をしてしまった。
「やっと、律を捕まえた」
それでも、嬉しそうな大悟に、まぁ良いかと思えてきた俺は、さっきから気になっている事を口にした。
「大悟」
「何?律」
「何か当たってんだけど」
裸のまま居たせいで、大悟の変化に、目敏く気付いてしまう。
「うん。律、もう一回しよ?」
「も、無理っ」
「今度は優しくするから」
「大悟!んっ!」
俺の言葉を塞ぐように口づけをした大悟は、肌を撫で、唇で体への愛撫を始めて。
「や、んぁ、あっ」
そうなると、もう喘いで流されるしか無くて。
大悟は、今までの分を取り返すかのように、体を刺激しながら、口づけを与えては。
「んぁ!そこっ、やっ」
俺の感じる所を責めていく。
「律、好き」
「も、いいっから、は、やくっ」
キスだとか、さっきの行為に、体が敏感になっていて、早く入れて欲しくて、ねだる俺に。
「もう?」
大悟は笑いながらも、後ろの穴に物を当てて。
「良い?律」
「んぅ、ああぁ!」
俺の返事を待たずに奥を犯した。
「律の中、凄く気持ち良い」
「あ!だ、いごっ!んぁ!」
奥を抉られる快感と、その合間に塞がれる口についていくのが精一杯で。
「んぁ!も、むっ!あぁっ!」
「律、一緒にイこ?」
「ああぁぁぁ!」
直ぐに達してしまった俺の奥で、大悟の物が震え、達した事を感じた。
「んぅ」
達した直後だというのに、大悟の物が抜かれる瞬間ですら、喘いでしまうほど体の敏感さが引いていかない。
大悟は、そんな俺を一度、抱き締めた後、体を離し、ベッドから降りて、どこかへ向かう。
もう、顔を動かす事すら億劫で、目を閉じて、ぐったりとしていると。
「はい」
頬に冷たい感触が当たって。
何だ?と目を開けると、茶のペットボトルを差し出している大悟の姿が映った。
「ありがと」
素直にペットボトルを受け取り、上半身を起こして飲むと、体の中に水分が浸みていくように感じる。
「律、大丈夫?」
「大丈夫じゃねぇよ」
心配そうに俺を見つめる大悟に、笑いながら答えてやると。
「ごめん。嬉しくて・・」
「馬鹿」
「うん。わかってる」
しゅん、と項垂れたように情けなく俯く大悟に笑ってしまう。
大悟は、怖ず怖ずと顔を上げて、俺を見上げて。
「・・・今日、泊まってくか?」
そう、問い掛けてきた。
俺が、どうするかな、と考えていると。
「律?」
不安そうな大悟の声が、俺を求めているようで。
「今日は・・・泊まってやってもいい」
体を動かすのも怠いし、キスもしたし、もう良いか、と、そう答えた俺に。
「本当か!?」
大悟が大袈裟に喜んだのを見て、笑ってしまう。
「嫌なら帰るけど」
「嫌な訳ないだろ!何か、夢みたいだ」
「何だそれ」
俺の言葉や態度に一喜一憂する大悟は、俺への想いを示しているようで。
認めて折れてやってもいいか、なんて思う。
「じゃあ、今日は、いっぱい律を感じられるな」
「・・・勘弁しろよ」
素直になんて、未だ、なれないけど、こんなにも、大悟が嬉しそうにするなら、少しずつ、受け入れてやってもいいか、なんて、顔が緩んだ。