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『思い出に浸ると思うこと』

TOA/ピオニー夢


くだらないというもの程熱中するもので、かくいうあたしもそんな人間の一人ではあった。
毎日増えては減っていく法律を覚えようとしたり、議会に参加する議院の名前と誕生日を覚えようとしたり。

全部が暗記物なのは、あたしが唯一誇れることが暗記力だけだから。
だけど実は暗記しなくたって良いようなどうでもいいことを覚えるものだから、脳の許容量はいとも簡単に古い記憶を消し去ってしまう。
そして気がつけば雑学ばかりが記憶を占拠し、人の顔や名前が一致しないなんてことも起こり始めた。

さすがにそれはヤバイだろうと思い直して修正に取り掛かる。そうすると今度は基礎知識が消えてゆき、困ったことは無限にも連鎖を引き起こす。そうして、あたしが私塾の先生に忘れたことをまた教えてもらうのにかけた時間は多い。
でも、その先生も、残念ながらもういない。

そういえばあの頃やけにあたしに構ってくれていた少年は、もう実はかなり大人になっていて、それなりに周りの人にも慕われているみたいで何よりだ。
だけどあたしが遠い過去に抱いた初恋の想いは、もうない。
彼には想う相手がいたわけだし、あたしもその恋を応援してしまったわけだから仕方がない。

とはいえ彼の想いは結局実らなかったのだけど。


「何を思い出してるんだ?」


ひょいと視線だけを落としていた本を奪い取られ、視界が白と黒のコントラストから、やたら明るい世界に呼び戻される。あたしはそのことに一瞬戸惑って、そしてすぐに記憶を呼び戻す。


「大分昔の過去のことを、思い出してたの」

「あの頃は馬鹿騒ぎしてたよなぁ」

「先生は元気でなによりと笑っていたけどね」


そんな他愛のない話。
彼はやっぱり大人になっても明るいばかりの金髪で、眩しいほどの強さを持っている。


「そんなことよりほら、仕事してください。また参謀長官に泣きつかれちゃいますよ〜」

「いてっ!」


ぐいっと髪を引っ張ってやって、本を取り返す。
今はそう。遠い昔よりも、もっとずっと近い場所にいる。決してあの頃望んでいた場所ではないけれど、とても幸せな場所。


「ほらほら。この仕事が終わったら、二日は余裕ができるんだよ」

「お、マジか!」


さっそく仕事に取り掛かるその姿を見て、あたしは頬が緩むのを自覚した。
くるくる表情が変わるのは変わらないけれど、頼もしさはある。安心感も。だからきっと、あたしは長い間この人を想い続けられたのだろう。

ずっと傍でこの姿を、見つめ続けられるだろうか?

この願いが叶うのなら、あたしは喜んで彼のそばにいるだろう。どんな苦しみさえも、一緒に振り払っていける気がする。

思い出に浸ると思うこと。
ずっと変わらぬ何かがある。


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