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君、忘れよ(6)-P

鼻歌を歌いつつ戻ってきた水谷の手には、水の入ったコップと風邪薬の箱と、見覚えのあるプリンがのったお盆。
「プリンくらいなら食える?」
「う…うん…」
受け取ってぺり、と蓋を剥がす。
当て付けに、なんて思ったけど、まさか目の前で食うことになるとは。

「でも栄口がプリン買うなんて珍しいねー、ちょうどよかったけど」
ひとさじ掬った手元を見つめる。
「…みずたにみずたに、」
「ん?なに、もひっ」
水谷は突然口に捻じ込まれたスプーン目を白黒させながらも、もぐもぐと咀嚼する。
「うまい?」
「う、うまいけど」
「お前これ好きだよな」
「…うん」
「もいっこあるから、やるよ…」
「…」
「…」

せっかくこんなこと言ってやったのに、何も反応がなくていたたまれなくなり、気を紛らわせようとプリンをガツガツ掻き込んでみた。
水谷はといえば目を点にしたまま、手持ち不沙汰とでもいいたげにもじもじと鞄をいじりだす。
なんなんだ畜生。

「…いらないならいいけど」
「…」
「…」
「…栄口のバカ!ケンカ中のくせに何買ってんだよーー!」
突然絶叫した水谷はべしゃっと何かを投げつけてきた。痛い。
「…これ」
オレが楽しみにしてた新譜のCD。
「…お前こそ何買ってんだよ」
「違うもん!別に栄口に買ってやった訳じゃねーし!ま、まあ、飽きたらお前に譲ってやってもいい、…けどっ!」
「どんくらいで飽きんの」
「…もー飽きた」
「封開いてませんけど」
「試聴で飽きた」
何で買ったんだよ、というツッコミは薬と一緒に飲み込んでしまおうか。

「水谷、食い終わったー。薬ちょーだい」
「おー、口開けて」
「は、」
ぽんと放り込まれた薬に驚くより先に、水を含んだ口に塞がれた。
「ん、」

「んん」


「んく」


「飲んだ?」
「…おま…」






そして2日後、水谷が熱を出した。仕方がないから看病してやろう。







ようやく終わりです…!
長々とお付き合いいただきましてありがとうございました(>□<;)

君、忘れよ(5)-P

ぬいぐるみが外れた衝撃で栄口が目を覚ました。
「…みずたに…」
「っ、な、何だよ」
文句言うか?バカにするか?
「みずたに、みずたに、」
栄口の様子に何となく異変を覚えて近寄ると、華奢な手が伸びてきてむんずと捕まえられた。
「わ、忘れ物取りに来たんだかんなっ、別に謝」
「ごめん、ごめんなさい、あやまるからかえってきてよう…心細いよう…」
ぼろぼろっと涙が落ちた。ギョッとする。
何、なんで!?

「ひえっ!だっ、あの、いや、か・帰ってきてるよ!?」
覗き込んで顔を見せてみたら却って逆効果になってしまったようで、頬を転がり落ちる涙の粒は数も大きさも増量してしまった。
「あわわわわ、な、泣くなー!ほれ!よーしよし一緒に寝たろーか!な!」
慌てて布団を持ち上げて、とりゃーと飛び込んでみせると中がもわっと熱い。
「は、何これ、うそ、熱!?」
急いで栄口のほっぺたに手をやると酷く熱い。これは心細くもなるはずだ。
栄口はきゅーと小さく鳴いて、さっきのぬいぐるみよろしく、今度はオレにしがみついてきた。
こ、子犬が!子犬がおる!!



ふわふわしたものが鼻先をかすめるこそばゆさに目が覚めた。
「…へぁっ!?」
帰ってこないはずの水谷に抱き竦められている。
あれ、どーなってんの!?オレら、ケンカしてたはずじゃ…。

そうやってわたわたしていたら水谷がもぞもぞ動き出した。
「ん…あ、どお?まだ辛い?」
最後に聞いた棘のある声ではなく、やわらかで耳が擽ったいような、水谷が人をうんと甘やかす時に出す声。
気遣わしげな顔で頬をふにふにと触る。
「ん〜まだ熱いな…栄口、昨日何か食べた?」
水谷はちょっと困ったように眉を下げて首を傾げた。
「た…食べた、…けど戻しちった」
「え゙!ちょ、やだぁそゆ非常時はケンカ中でも何でも電話してよ…!ったくもーこの子は〜〜!夜中に不安だって泣くくらいなら直接ゆえっての!」
軽く睨みながら頬の肉をむにゅーと掴んで、それから首筋にくちびるをあてられた。
「なっ、泣いてねーよ!」
「あんだけ可愛く泣いて縋っておいてよく言うよー。薬飲まなきゃな、なんか食えそうなもの探してくる」
そう言って、そんな馬鹿なと呆然とするオレに構わず起き上がると、ふにゃりと笑って布団をかけ直し、ぽんぽんとあやすように叩いてダイニングへと消えた。
どうしよう、久しぶりで免疫なくなってるせいかもしんないけど、なんかすっごい甘やかされてる気がする…。





続きます。
度々消息不明になってすみません(汗)

君、忘れよ(4)-P

なんとか動けるようになり、口を軽くゆすいで服を着替えた。
吐き気はおさまってきたが、寒気が酷い。頭が細い紐で縛られているようにギリギリと痛いのがまた辛い。

はぁ、どうせ水谷なんか帰ってこないだろ。
水谷の部屋のほうが近いから、そっちで寝ちゃおう…。

のそのそと重い体を引きずって勝手に部屋に入った。
布団に倒れ込むと水谷のシャンプーの匂いがした。
どんなに言っても高いシャンプーを譲らない水谷。
男なんだから髪の手触りやらまとまりやらなんか、どうだっていいだろうが…。
仕方がないから、二人で高いのを使うよりはマシだろうと自分だけ安物を使っている。
お陰で一緒に暮らしても、この匂いは水谷のものだと区別がついてしまうのが不愉快だ。
甘い花の匂いを纏った間抜けなぬいぐるみを、水谷に見立てて力任せにぎゅうっと締め上げた。



チクショー、昨日帰った時に英英辞書持ってくんの忘れてた。
またあの鬱陶しい小姑のいる家に戻らなくてはならない。
うっかり見つかったら「あんだけ大口叩いて飛び出してったくせに帰ってきてるよ、だっせー」なんてバカにされんだろうなー、あー絶対やだ超ムカつく。
でも辞書持ってこないと明日の授業で何もできない。

仕方なく帰り、恐る恐るドアを開いてみたら既に明かりは消えていた。
助かった、もう寝てる。
栄口の部屋の前を忍び足で通り過ぎ、自分の部屋に飛び込んだ。

さーて、辞書辞書…、
「う、うわっ!?」
電気をつけたら自分のベッドに人がいた。
驚きのあまり心臓が口からポーンと飛び出すかと思った。
さ、栄口!何でこいつここで寝てんだよ!オレが帰ってくんの見張ってたとか!?
だが見張っていたにしてはすっかり寝入っている。
愛しげに抱き締めたぬいぐるみに、丸い頬を擦り寄せている。
ふふん羨ましかろうと嘲笑うようなぬいぐるみの表情にイラッとして乱暴に毟り取った。
こんなもん抱いてんじゃねーよ!





続きます。

ぷはー(雑記)

ブログ整備を行いましたー!
・倉庫に過去ログ追加(「羊の爪」続き〜「廻廊で追懸けっこ」)。
・倉庫をノーマル(倉)-パラレル(庫)で分離しました。
・↑に伴い、「初」にサイトマップを追加。
・一年ぶりの模様替え!
半角文字のとぐろを巻くような羅列に眩暈がしそうでした。いえ、しました。
パソコンから見るとこんな管理画面なんですね…(年に2・3回しかパソコンから見ないから…)
文字数とか感覚が掴めなくて打ちにくい〜(>_<;)若々しい適応能力が欲しい!(笑)

君、忘れよ(3)-P

喉が焼けそう、目が回っているのか周りが船のように揺れているのか分からない。
必死で便器にしがみつく。なんて無様な恰好だろう、今水谷なんかが帰って来たら情けなさすぎてたまらない。
…でも、帰って来たら来たで、…いいかなあ。
あいつだって人の子なんだから、背中さするくらいしてくれるだろうから。
だけど今朝カップ麺のゴミが増えていたところを見ると昨日帰ってきてたみたいだから、今日はないかな…。
虚ろに考え込んでいたら、突然ぐっと喉が締まった。
咄嗟に唇を引き結んでしまったせいで、口の中が大変なことになった。
慌てて目の前の便器に吐き出す。
うわぁ、最悪、気持ち悪…。
その感触への激しい嫌悪感から、今度は神経性で戻してしまった。

ぺたんと座り込んで口元を拭うこともできないまま、便器を抱きかかえて呆然とする。
三回も戻したのにまだ治らない、大丈夫なんだろうか。
ただの風邪?本当に?
もしかして食中毒だったりしないだろうか、そしたら病院に行かないと、でもこの状態じゃ歩いて行けない…タクシーを呼んだとしても車内で戻したら迷惑すぎるよな、どうしよう、とりあえず薬飲みたいけどもう胃なんか空っぽだし、これから食べる気にもなれないし…。
不安だし、吐き気も寒気も治まらないしで目がヒリヒリと染みてきた。
くそ、水谷のバカ。
なんで帰ってこないんだよう…。





続きます。
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