2018.7.31 [Tue]
敵はどこに
しかし、意外にも少女は起き上がった。
「敵兵……こちらを狙っている」
負傷した様子すらなく、平然としている。
魔術師は驚いた。
確かに先ほどの攻撃を受けて倒れたはずだ。
だが目の前の少女は、顎の辺りで切り揃えたまっすぐな黒髪が
倒れたはずみに乱れた以外は、至って平気な顔をしている。
少女が着ている黒いワンピースの胸の一部分が破れていた。
先ほどの攻撃魔法が当たりはしたが、何らかの方法で防いだようだ。
魔術師の判断は早かった。
少女が生きているなら、人数に加えて作戦を立てるまでだ。
「防御魔法は私が張る。それと、索敵と反撃だな」
「多分向こうから撃ってきた」
撃たれた胸を手で押さえながら、ある方向を少女が目で示す。
枝葉を繁らせた木々がある、身を潜めるのに好都合な場所を――。
2018.7.31 [Tue]
戦場の非情
魔術師は倒れた少女よりも、
どこかで自分を狙っているはずの敵にまず意識を向けた。
今の狙撃には、防御なしで受ければ人を殺せるだけの威力が籠っていた。
あの少女は、「戦いは得意ではない」と自分でも言っていた。
先日の戦でも目立つ動きをしていた様子はない。
さして高い戦闘能力も持たない兵士。
それが先ほどの攻撃をまともに受けた。
おそらくもう生きてはいないだろう。
2018.7.31 [Tue]
不得手
小盾の氷魔法を解除しながら、魔術師は思った。
「(慣れない)」
「自分の魔力はこの地との相性が悪い」と、王にも伝えたばかりだ。
氷の魔力が扱いにくかった。
しかし、そうもいっていられない状況だ。
いつ次の攻撃が飛んでくるかも知れない。
今使える限りの魔法で何とかするしかなかった。
2018.7.31 [Tue]
初対面 1
「あなたは私より強いのか?」
「いいえ。戦うのは得意じゃない」
意外そうな顔をする魔術師に、黒衣の少女は言った。
「でも、あなたが私を倒すことはきっとできない」
地表近くに浮かぶ月に似た色をした少女の瞳が、ゆるぎなく魔術師を見つめる。
その自信はどこから来るのだろうか。
2018.7.31 [Tue]
凶弾 3
「すまないが、ちょっと聞きたいことが――」
魔術師の言葉は、出し抜けに飛んできた“凶弾”に遮られた。
彼女が話しかけた黒衣の少女が、声もなく打ち倒される。
「(敵襲――!?)」
魔術師は拳を強く握った。
彼女は倒れていなかった。
とっさに無詠唱で発動させた防御魔法が、
敵の遠隔攻撃魔法を食い止めていた。
「くっ……!」
魔力を緩めると、胸の前の空中に浮かんでいる小さな氷の盾が
ぼろぼろと崩れ落ちていく。
「(遠距離からの狙い撃ちか!)」
攻撃魔法を放ってきた相手は、明確にこちらを狙っていた。
彼女たちがいる所はもう敵陣に近い。
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