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Rainy -1-(*)




ぐちゃりぐちゃり。
地に溜まった水を踏
むと、なんとも言い
知れない音が響いた
。目を伏せ、葉の上
に滴る水玉を見つけ
、気付かぬうちに立
ち止まり、次に気付
いた時には私はしゃ
がみ込みそれに手を
差し出していた。 
留まる雨水があまり
に綺麗で思わず、私
の細胞の一部にした
い、なんて思ってし
まった。     


「何してんの、あん
た」       


ふと視線を上げると
、透明の傘を肩に掛
け、怪訝そうに私を
見下ろす男の子と目
が合った。丁度私と
同い年くらいの今時
の子。だけど、身に
纏う雰囲気や表情は
それらの子とは違っ
ていて。それに、危
険極まりない今この
状況の私に声をかけ
るなんて、この子も
相当変わってる。 


「…何してるように
見える?」    

「……、雨の中ずぶ
濡れで雑草に触ろう
としてる女」   

「…まんまだね」

「事実だろ」

「まあね」


心地の良い会話が雨
音に掻き消されるこ
となく流れてゆく。
眠ってしまいそう 


「おい。そこで寝る
つもりかよ」   

「…自然を感じたく
て」       

「こんな道端で?」

「……、じゃあどこ
で寝ろと?」   

「俺ン家」


自分で何を言ってる
のか理解しているの
だろうか、この人は
。ずぶ濡れで得体の
知れない今、初めて
会った女を自分の家
に招くなんて。まる
で次の授業なんだっ
け?に対する答えの
ように、あたかも当
然の如く言いのける
この人は、やっぱり
変わってる。   

だけど何より、そん
な奴に付いて行って
しまう私のほうが、
相当変わってる。 



Rainy -2-(*)




気付くと雨は止んで
いて、私は巨大な建
物を目前に背を反ら
した。背景に見えた
灰色の空が、私には
あまりにも眩しくて
、晴れになったら私
はどうなっちゃうん
だろう。そんな馬鹿
みたいなことを馬鹿
みたいに真剣に悩ん
だ自分に気付いた。
そのせいかどこと無
く雨が恋しくて、涙
が出そうになった。


「何してんの、行く
よ」       


数分前会ったばかり
の彼は私の手首を掴
むと、早々に歩を進
めた。      
まさか本当に連れて
来るなんて。という
かむしろ危ないのは
私の身なんじゃない
だろうか、エレベー
ターの中、ふと思考
を巡らせた。けれど
結局は私の意思で来
たのだし、私なんか
をどうこうしたいと
思う奴なんて、居る
ものなら是非お会い
して名刺交換でもし
たいものだ。   


「ねえ、私もう眠く
ないよ?」    

「何、もう帰りたい
の?」      

「……、」


帰る?どこに?それ
を探す術なんて、私
にはないのに。そう
思うとなんだか胸が
締め付けられた。そ
の理由すら、私には
分からない。今はそ
れでも良かった。 
きっかけなんて、ほ
んの些細なことなの
かもしれないけど、
ここまで来たら意地
だ。もうどうとにも
なれ。半場やけにな
りながら私は彼の後
を追い、ある一室に
通された。どうやら
彼の家に着いたらし
い。       


「……、最上階…」

「…まあね」


彼はとくに自慢する
わけでもなく、むし
ろ表情は淀んでいて
影が掛かっていた。
私はそれに、見てみ
ぬふりをした。それ
は私が知る必要のな
いことで、背けるべ
きことだから。  


「親は?」

「しばらく帰ってな
い。なんなら泊まっ
てけば?」    

「……、は?」

「別になんもしねぇ
よ。そんな趣味ねえ
し」       

「…どういう意味」

「そのままの意味」


なんなんだろうかこ
いつは。そういえば
初めに会った時も随
分と偉そうな態度だ
った。話していると
、だんだんと苛々が
積もってゆくのを容
易に感じ取れた。 


「ほら」


ふと呼び掛けられ彼
の方を振り向くと、
視界の全ては白い布
で覆われ、彼を捕え
ることは出来なかっ
た。そしてそのまま
彼は私の頭をタオル
で掻き乱し始めた。

大概彼は自分勝手だ
と思う。こんなこと
を無意識の内に平然
とやってのける。も
しかして手慣れてい
るのだろうか。…現
代は末恐ろしいなあ
。        

ふと目をベランダに
繋がる窓へと移す。
雨はまたゆっくりと
降り出した。暗くな
ってゆく空に、今度
の雨はしばらく止み
そうにないと感じさ
せた。      



Rainy -3-(#)




こぽこぽこぽ。口内
から空気が上へと
上昇していくのが
はっきりと目に映
る。深い深海に向か
って、ゆっくりと沈
んでゆくその少年は
、もがき、苦しむ仕
草も見せず、ただ自
身の成り行きを沈み
ながら見詰めるだけ
。可哀相な子。呼吸
の仕方すら忘れてし
まったのだろうか?

嗚呼そうか、そうだ
ったな。     
何物でもないあの子
は、俺自身    




「雨、嫌い?」  

「、は?…なんで」

「だってさっきから
ずっと外睨んでるし
」        

「…あぁ、嫌い」 


濡れると酷く煩わし
く、じとじととして
苛立ちが起きる。少
なくとも俺には雨を
好きになるなんて、
到底無理な話だ。 


「…私は好きだけど
なあ」      

「……なんで?」 

「なんだろうね。な
んか、…切なくなる
からかなあ」   

「なんで切なくなる
んだよ」     


「…いつも、車の音
とか、誰かの話し声
とかいろんな音が嫌
でも耳に入るのに、
雨の日は水の跳ねる
音とか、微かに車が
通る音しかしないん
だよ?一人の世界に
入るには充分だわ」


そう言うと、彼女は
軽く俯き目を伏せた
。俺は再び外へと視
線を移す。雨粒がぽ
つりぽつりと、窓を
叩き出していた。 
雨は強くも弱くもな
く、ただひたすら地
へと真っ直ぐに落ち
てゆく。重力に逆ら
うことなく、あたか
もこれが当然だと言
うように。ただ落ち
てゆく。     


「…一人が好きなの
か?」      

「…うーん…」  

「あぁ、あれか、あ
えて自分が泣きたい
ってやつか。女って
すぐ泣きたがるよな
、映画とかで」  

「人によるでしょ。
私は泣きたいわけじ
ゃない。ただ切ない
、てのが好きなだけ
。てゆうか、」  


彼女はそこで一旦言
葉を区切る。俺はそ
れを怪訝に思い、ふ
と彼女へ目を向ける
と、真っ直ぐに俺を
見詰めていた彼女と
視線が交わった。昼
前だからと言って室
内の電気を消してい
たせいか、彼女の顔
は少し影っていた。


「女っていう一つの
言葉でまとめないで
」        


彼女は悲哀混じりの
表情を浮かべながら
も、俺を真っ直ぐと
見据えた。その視線
に俺はただ動揺した
。けして彼女をけな
したわけじゃないの
に、彼女は俺を軽く
睨みつけながら一言
言い放った。   
不覚にも心臓がどく
り、と鳴った。  

人の目をこんなにま
っすぐに見たのは、
何年ぶりだろうか。
彼女の目があまりに
も綺麗で、目を逸ら
すことが出来なかっ
た。       


「…あんたは特別だ
って言うのか?」 

「人は、一人一人が
誰かの特別よ」  

「誰か、て誰。俺に
そんな相手は居ない
よ」       

「…じゃあ私があな
たを特別に思ってあ
げる」      

「……意味、分かっ
てんの?」    


今度は俺が彼女を睨
んだ。軽はずみで出
た言葉なんて、信用
ならない。もとより
彼女のことは何も知
らないのに信用なん
て出来るはずもない
けれど。心の片隅で
俺は彼女を知りたい
と、思い始めていた
。        


「分かってるよ。で
もそのかわり、あな
たも私を特別に思っ
てね」      

「……、俺なんかで
いいのかよ、そんな
の」       

「あなたがいいの」

「、……なんで」 

「意味なんてないよ
」        


そう言うと彼女は優
しく、優しく微笑ん
だ。初めて見た彼女
の表情に、初めて、
彼女を可愛いと思っ
た。       





ただただ、沈むだけ
だった。このままで
もいいと思っていた
から。だけど今の瞬
間、もがこうと足掻
く自身の腕が、見え
た気がした。   




to be continue  

Rainy -4-(*)

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