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無題

ねえ、あなたは今元気ですか。苦しくはないですか。今のオレみたいに苦しくはないですか。
一人で泣いてはいませんか。ばれてしまわぬように隅っこで、声を押さえて膝を抱えて泣いてはいませんか。

彼ならわかってくれるかもしれない。彼なら何も言わずに話を聞いてくれるかもしれない。ただの戯言に相槌をうって頭を撫でてくれるかもしれない。

でもきっと、そんなわけもなく。打ち明けられることもなく、あなたは中学時代を過ごしましたね。嫌われるのが怖くて、ひとりなのも嫌で、でもどうしようもなくて。結局あなたは一人を選びましたね。

ねえ、あなたは今元気ですか。一人ではないですか。あなたのとなりには手を握って一緒に歩いてくれる存在がいますか。暖かな仲間たちがいますか。あなたはもう、寂しくはないですか。

でもどうか忘れないで。過去の彼らも本当は同じくあなたを愛していました。あなたは最初からひとりなどではなかったのです。

オレは苦しいです。苦しい感情しか受け取ることができないのです。もうオレには幸せはやってはこないのです。だから、どうか、どうか。

あなたは、しあわせになって。


膝を抱えて僕は眠る。とくん、とくん、心臓が泣いていた。僕の不格好な瞳の代わりに泣いていた。




昔の少年

いつも、いつも、君が来るのを待っていました。待ち遠しかった、ああ早く君は僕の元に来てはくれないのか。

「練習、してるのになあ」

ほら、今日も僕は笑ってるよ。君は、僕の笑顔が好きだと言ってくれたから。どんなに苦しくても、息ができなくても、僕は笑ってるよ。ううん、もう笑う以外の顔を忘れちゃった。ねえ、僕ってどんな顔してたの。

「もう、わかんないなあ・・・」

じゃらり、揺れた首輪は思考を止める。考えることすらもう許してくれない。ねえ、もうこのままじゃ僕はもう君すらも思えない。忘れてしまう、忘却の彼方に。もう何人も、忘れて、忘れた。

「エイト、会いに来てくれないの・・・?」

毎日毎日、来る日も来る日も、僕は冷たい床に爪で傷をつけた。名前だったり、言葉だったり、とにかく忘れないように。けれど、その爪も剥がれてそれすらもできなくなった頃、僕は大人になりました。僕はあの日に死にました。もう僕は、君を思う僕ではないのです。

なんだか、寒い。


「ジャック」

もう彼は呼びかけても答えない。ぼうっと遠くを見つめ、ぽつり、ぽつり、と何かを呟くだけ。それはもう、言葉ではない。自分には聞き取ることはできそうにない。そっと頬を撫でる。ゆる、と虚無のすさんだ色が滲む、綺麗な青色だったはずの瞳が自分を捉えた。けれどすぐに、その瞳は自分を認識しなくなる。

「ジャック・・・」

ぎゅ、と抱きしめる。子供の頃会った時よりも、彼はずっと大きくなっていて、自分の背もとうに越していた。けれど、食べ物もろくに喉を通らなかったのか、やせて、子供の頃に見た快活な少年とは全く違う姿で。身動きを取らない彼に、ただ誤る。それしかもう、俺にできることはなかった。

すまない、すまない、すまない。

迎えに来てあげられなくてすまない、もっと早く、来ていればよかったのにな。そうすればお前は、前のように俺に笑ってくれたかもしれないのに。

抱きしめていた体をそっと離す。そして唖然として、絶望した。

「、ト」

ああ、どうして、どうして。俺は本当に、お前に酷い仕打ちをした。俺はお前を、縛って、殺したのだ。

ぽつり、ぽつり、とつぶやいていたのは俺の名前。抱きしめて、離した彼の表情は、ゆるりと笑っていた。過去に見た彼の笑顔が、そこにはあった。冷たく、寂しく、絶望と共に、ただそこにあった。

泣いた。


昔の少年

甘いだけの話

「ねえルルーシュ」
「何だ」
「抱きしめていい?」

わざわざ聞くな馬鹿!
(というコンセプトの話。たまにはこんなのもいいよね息抜き小説)

「お前ああいう時は了解取らずに好き勝手やる癖に、なんでこういう時だけそうやって聞いてくるんだ」
「ああいう時?」
「…」

確信犯だ、ルルーシュはできるだけ表情を崩さないように、けれど口元を引きつらせながら思った。ベッドに座って本を読む自分の後ろに回り込んで耳元で囁くスザクの顔は既に我慢するとかそういうものではない、やる前提で話しているのにも関わらずどうして。ねえ、と意地の悪い笑みをこぼしながら笑うスザクの声にどんどん羞恥がこみ上げてくる。こんな感情を抱く位ならいっそ無理やりやってくれた方が、少しの事でも策をぐるぐると考えてしまうルルーシュには幸せだった。もう無視してしまおうか、とスザクの言葉を無視して本のページをめくる。ぺら、スザクの声はそれにかき消されて途絶えてなくなった。

「………っ!」
「…」

けれどスザクは何も反省した訳ではないようで。無言のまま、後ろから腕を回しゆるりとページをめくるルルーシュの手に自分の手を絡めた。やんわりと指を撫でまわすような動きにルルーシュは思わず小さな声を上げる。わなわなと震える唇をスザクは見逃す訳もなく首元に顔を近づけてやんわりと噛む。がり、という音と走った痛みにルルーシュは目を見開いた。

「何して、」
「ルルーシュが僕の事を無視するから」
「な…」

知るかそんな事!寂しそうにそう零したスザクは、そのまま手を止める事もなく指をつう、と撫でていく。首元に近づけられていた唇は、噛んだ後首筋を舌でねっとりと舐め始める。どんどん粘着質になっていく行為にだんだんとルルーシュはこの後の自分の末路を理解し始めた。拗ねたスザクはきっと自分を辱めて辱めて地の底まで落とすつもりなのだ、甘い声で囁きながら。ぎゅ、と目を閉じてルルーシュは震える唇で息をふ、と吐いた。こんな事されれば自分も嫌でもその気になってしまうというものだ。覚悟を決めなければならない、そう思って。

とん、持っていた本を手放して、それはゆっくりと床に落ちた。
これは了承の合図。

すぐさま腕で抱きしめられて、ベッドへと倒れ込んで、また指に手を絡められて、上からキスを落とされて、そのまま。本はぺらぺらと窓から入り込む風に靡いてページをめくり続けていた。



甘いだけの話

こんな雨の日には

(なんかバイクって言ってるあたり7なんでしょうかね)

ぽたぽた、雨が灰色の空から降り注いでコンクリートを濡らしている。所々だった斑点は次第に大きくなり、あたりを黒く染め上げた。屋根からつう、と伝う雫は庭に咲いた小さな花の命を輝かせる。

「なあ」

わりと大きめの声で呼びかけた。しかしその声はシンプルな空間に反響して、尚更それがいかに無意味な行動かを自分に知らしめているよう。それに懲りず、おれは視線は窓の外にぼんやりと向けたまま呼びかけた。もちろん返事はないけれど。

自分が今背を向けている、黒いパイプのベッドに横たわっているのはおれの友達。唯一のおれの話し相手。いつも夜更けまでおれとくだらない話をしてくれて、たまに料理まで作ってくれて、出かけたくないとごねるおれに懲りずにバイクに乗せてやるから、と外へと誘ってくれた。おれの大好きな友達。けれど最近になって、いや実のところ一ヶ月位、彼は目を覚まさない。いつものように夜まで話して、もう眠いから寝る、とおれの頭を撫でて目を閉じた彼は、そのまぶたを持ち上げない。

最初の方は肩を揺らして起こそうとしたけれど、寝てる時は起こすなと言われていたからやめておいた。ずっと雨ばっかりの窓を見てるだけにしておいた。だからさあ、こんなに偉いおれを早く褒めてよ。

「じめじめしてるし、こういう時こそ一緒に風呂じゃなかったのかよ」

だから、なあ、起きろよ。

雨はやまない。ざあざあ、ざあざあ、一体どこの誰が泣いているというのだろう。泣きたいのは、おれのほうだ。窓にぼんやりと映っている自分の顔は既に涙でぐちゃぐちゃに濡れていたけれど、雨で気づかないふり。

ざあざあ、ざあざあ。けれど白い人形みたいな彼は、汗一つかかずに静かに眠っている。ざあざあ、ざあざあ、ああうるさい。邪魔しないでくれよ、もしかしたら、彼が、何か話しているかもしれないのに。雨音で何も聞こえやしないだろ。


こんな雨の日には

 

せめて贈るなら色のない終りを

(ほんのりJ8、完全に雰囲気小説)

どうしてこんなにいらないことをするのだろうと思った。何故このタイミングで俺達を陥れるのだろうと思った。もう、朱雀軍のほとんどの候補生は死んだだろうに、記憶に残っている友人達はもういないというのに、何故俺達だけになって。

「綺麗だねぇ」

小さくシンクが空を仰いで言った。それに続くように、みな閉じていた瞳を開いて、空を仰ぐ。荒んで色すらも失いかけた瞳は空に咲いた大輪を映してきらきらと光った。シンクの隣に立っていたケイトが明るく笑った、こんなのすごく久しぶりな気がすると。

「朱雀にも、花は咲くのですね」
「そうみたいだな」

トレイもキングも頬を緩ませそれに見とれる。ぼろぼろの俺達の居場所を、わざと明るみにだすように鮮やかな色が照らし出していく。ばちばち、光っては陰り、光っては陰り。

「オレはこんなん見たってなンも思わねえけどな」
「「お前は馬鹿だからなあ」」

ナインの言葉にセブンとサイスが二人で突っかかる、けれどその表情はひどく穏やかで。クイーンもエースもそれを見て静かに笑うだけだ。どん、どん、と存在を主張するように大きな音が心臓に響く。血に染まった大地が揺れて、鳴いている。その地面を撫ぜてデュースが微笑んだ、幸せです、ありがとう、と。

幸せなわけ、ないじゃないか。

「せっかくなんだから、全員揃えば、よかったね」

ケイトが残念そうに声を上げた。目線は空に奪われたまま、声だけが自由に宙を飛ぶ。そうだねぇとシンクは間抜けに声を出し、みなくすくすと笑った。仕方がないですよ、また皆でみましょう、と誰かが言った。見られるわけがなかった。俺達にこの先の未来があるわけなかった。なんでどうして、そこまで盲目でいられるんだよ。俺はこんなにも悔しいよ。

「エイト、」

そんな顔しちゃ駄目、後ろから両手で目を塞がれた。暖かい、今まで何度人を殺してきたかもうわからない真っ赤な手で塞がれた。背中に感じるのは男の暖かい体温で、耳元に感じるのは男のゆるりとした何処か冷たい声。

「ジャック」

ひとつ、名前を呼んだ。両手で後ろから回された男の腕を掴んで、ぎゅうとしわができるほどに掴んで呼んだ。なあ、俺は苦しいよ、悔しいよ、何一つあがけない自分が憎いよ。唇をぐ、と噛んで無言で叫ぶ。どん、と未だ音を上げて咲き続ける花を音で感じて、みんなの幸せそうな小さな命の音を聞いて。

「わかってるよでもね」

笑わなきゃ、駄目でしょ?見えない男は静かに笑ったのだろう。その二つの青い瞳に色を映して、皆の感情を代表するかのように笑うのだろう。腕を掴んでいた手を緩めてやんわりと唇を開いた。意味を理解したのか、男は小さく笑ってそこに口付ける。とても、冷たかった。

「あ、フィナーレかな」

一人が声を上げた。わあっと声が上がった。心臓を打ち付ける音は次第に大きくなった。鳴く大地も、閉じた両目に感じる体温も、苦しい男の笑みも。

「死ぬ前に、見られてよかったじゃない」

ああ、なんて酷い。

大人は、戦争という地獄に俺達を縛り付けて、水の代わりに血を与えて、玩具の代わりに武器を与えて。最後にこんなにも鮮やかな死を祝う花を咲かせて俺たちを殺すのか。なあ、だから笑わないで、みんな泣いてくれよ、苦しいって。

けれど誰も泣かなかった、みんな笑っていた。儚い偽りの幸せを映して、兄弟達はゆるりと笑っていた。どうして、どうして。俺はとてもじゃないが笑えない。


せめて贈るなら色のない終りを

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