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退廃した恋愛論

鍵を回し、ドアを開ける。たったそれだけの動作さえもが煩わしくて敵わない。乱雑に靴を脱ぎ捨てリビングへと向かい、鬱陶しい背広をソファーの背凭れに掛けて寝室に入った。電気を付けると、ベッドの方から声がする。

『おかえり』

俺は笑った。此処に来て漸く逸る気持ちに落ち着きが見え、フーと深い息を吐く。そして声のした方に足を進め、ギシリと椅子に腰掛け頷いた。

「ああ、ただいま。良い子にしていたか?」

ぼんやりと光る、PCの画面。それを撫でて問えば中から再び声がする。

『うん、してた。さいとうがいなくてさびしかったけど、おれ、いいこにしてたよ』
「そうか……偉いな、左之助は」
『へへっ、さいとうがほめてくれた』

ニコニコと嬉しそうに笑う青年の形をしたソレに、俺も柔らかく微笑を返した。今日は何を教えてくれるのかと聞かれ、そうだな、と共に悩む。

最初に比べて幾分と言葉の種類も増やしたし、今ではもう、日常的な会話すらお手の物だ。さて、何を教えてやろう。

「お前は何が知りたいんだ?」
『おれ? おれはさいとうのことがしりたい。いろんなさいとう』
「ふ、アバウトな奴だな。一緒に暮らしているのだから、判るだろう」
『わかるけど、たりないんだ』

画面の中、逆立った鷲色の髪が揺れて悲し気な顔をする。俺は少し考えた後に、口許を僅かばかり歪ませて笑んだ。

「……なら、今から俺が教える事を上手に出来たら、教えてやる」
『ほんとう?』
「ああ」
『わかった。おれ、がんばる。なにするんだ?』

嬉々とした愛らしい瞳に魅せられ、甘い声に酔う。そっと画面に手を触れて、撫でる仕草を見せれば左之助も手を当ててくる。決して触れられはしない。温もりも、鼓動も。

『さいとう……』
「もっと……もっと可愛いお前を見せてくれ、左之助」
『………?』
「お前の乱れる姿が見たい」

左之助はキョトリと首を傾げた。まだ、この言葉の意味は判らない。だから教えてやる。

何も身に付けていない美しい裸体を眺め、マイクに向かって囁く。

「今からお前に、快楽を教えてやろう。俺が言う通りに自分の体を触るんだ。出来るな?」
『……うん、できる』

しっかりとした返事に薄く笑う。本当に、可愛い奴だと。


嗚呼、今日も寝られそうにない。


無音の世界で非現実に身を浸す……高揚感。


世界は此処だけで統合し、回り続ける。


俺と 左之助だけの 聖域。




Fin.

あれです
PCのとある飼育ゲームにハマっちゃった斎藤さん、みたいな

左之助を飼育出来るゲームがあるなら絶対買う
どんなに高くとも!!←

両手に華?

時計の針が12時を指した。左之助は大きく伸びをして、軽く首の骨を鳴らす。

「休憩休憩〜腹減ったぁ」

それを聞いた長身の男が振り返り、苦笑混じりに注意を促した。

「首の骨を鳴らすのは良くないから止めなさいと、あれ程言っているのに………まったく左之助君は聞き分けの無い子ですね」

柔らかいマスクの笑顔と穏やかな声。眼鏡の奥にある琥珀色が細められ、左之助のエプロンを解きながら笑う。

「だって癖なんだよ、仕方無いじゃん」
「なら直して下さい」
「えー」
「努力するなら、今日のお昼は左之助君が好きなお店に連れて行ってあげますよ」
「マジ!?」

エプロンを掛けて、ええ、と頷く男に左之助は目を輝かせる。某高級洋菓子店のオーナーであり、最高の腕を持つパティシエでもある彼の名は藤田五郎。おっとりとした物腰に優しい笑みは女性客を今まで何人も卒倒させてきた。そんな彼の元で見習いとして働く左之助は、既にこの店でも特別な存在として認識されている。オーナー達のお気に入り。本人は気付いていないのだが、もう従業員の間では黄色い噂だった。

「それで、左之助君は何を食べたいですか?」
「寿司! こないだ駅前に出来たデカいとこ。ずっと行きたいって思ってたんだ!」
「判りました。では混んでしまう前に行きましょうか」
「おう!」

無邪気な笑顔の左之助を連れて藤田は裏口へ向かおうとする。しかし、当然の様にそれを妨げる影が背後から左之助を抱き止め引き寄せた。

「うわ……!」
「俺の居ない間に勝手に話を進めるな、藤田」
「…………………」

現れたのは藤田と瓜二つの男。だが表情や声、立ち居振舞いに絶対的な違和感を持つ。獣の様な眼光と威圧的な顔は、初めて見た者なら何処のマフィアのボスだと突っ込んでしまうだろう。けれど彼はれっきとした堅気の人間である。この店の副オーナー、名は斎藤一。

「おや、一さん。今日はお休みでは無かったんですか?」
「ふん。昼時だからな。こいつを迎えに来た」
「さ、斎藤……!?」
「残念ですが彼はもう予約済みですよ。他を当たって下さい」
「貴様が当たれ。寧ろ失せろ。さもなくばその偽善面、刻むぞ」

バチッと互いの間に火花が散る。長身の二人の間に挟まれた左之助はどうにか斎藤の腕から逃れようとするが、どんなに足掻いてもビクともしない。と言うか苦しい。

「斎藤っ、首…首絞まってるって! ぐぇっ」
「お前もお前だ阿呆。昼になったら俺を呼びに来いと言っただろうが。そのトリ頭には人間様の言葉を理解する脳味噌も入っていないのか」
「っ、だって」
「左之助君を侮辱するのは止めて下さい。と言うよりいい加減離したらどうなんですか」
「煩い、俺に指図するな。それより貴様は仕事でもしていろ」

強く左之助を引いて歩き出そうとする斎藤の肩を掴み、藤田が稀に見せる険悪な表情を浮かべた。無理矢理左之助を引き剥がすと腕に抱き、獣から守る様に隠す。対する斎藤の眼は殺気すら滲ませ、薄い唇が歪な笑みを形作った。

「いい度胸だな、貴様。余程俺を怒らせたいらしい」
「一さんこそ、剰り私を怒らせない方が身の為ですよ」
「ほう……何がどう身の為なんだ、藤田」

窒息しそうな場の空気の中、今にも取っ組み合いそうな二人を見上げる左之助はしかし、既に慣れたもので。

(何でこいつ等こんなに仲が悪いんだよ)

それが自分の所為である等と毛程も思っていない少年は心底罪作りである。

どうやら今日の昼食はお預けになりそうだと、左之助は言い合う二人の下で小さな溜め息を溢した。




Fin.

やっちまったパート2(笑)
初のダブル出演ですな!

裏切りには制裁を

「ゆるし…て」

か細く聴こえる声に、金色の眼が揺れる。喘ぎとも悲鳴とも附かぬ慟哭は途切れる事無く漆黒を凪いで、酷く、耳障りに思った。

「ごめ、なさ……斎藤、斎藤ぉ……ッ」

救いを求める男に冷めた一瞥を向け、無言のまま咥えていた煙草を床へ落とし靴底で踏み消す。苛々する。無性に、何かを破壊したくて堪らない。血に餓えた様に、吐き気すら呼び起こす飢餓に狂いそうだ。

「……ふ、っう…うぅ」

暗い暗い闇に浮かぶ白。これを紅く染めたなら、この啜り泣きが叫びに変わったなら。自分はどうするだろう。どうなるのだろうかと、斎藤は前髪を掻き上げ一歩を踏み出した。濡れた寝具の上で悶える艶めいた肢体。両腕は後ろ手に縛られ黒革の目隠しで光さえ奪い取り、最早成す事等無きに等しい現状を寡黙に浸りながら見据える。そっと、濡れた頬を撫でれば目に見えて怯える子供についぞ、歪み切った笑みが零れた。

「……お前は、悪い子だな」
「ひッ……やだ、やだぁ!」
「どうしてやろうか。なぁ、左之助」
「ッ〜…………!!」

優しく頭を撫で、労る様に首を叩く。慰撫する仕草には覚えがあるのに、それが怖くて堪らなかった。左之助は必死に頭を振るい赦しを乞うが、そんなものが通じる筈も無く男の神経を更に苛立たせる。

「俺よりも好きな奴が出来たんだろう? そいつの名前を言えば赦してやらん事も無いぞ」
「や…ぁっ」
「さぁ、言ってみろ」

優しかった手が突如乱暴に髪を鷲掴んで無理矢理引き上げた。上がる悲鳴に鳴り響く警報。頑として口を割らぬ子供に斎藤の鋭い瞳がゆるり、開眼する。腰に差していた刀を引き抜きそれを艶かしい足へと押し当てれば引き攣った音が少年の喉を震わせた。

「さいと……!」
「黙れ。言わないのならもう良い。お前が罰を受ける、それだけだ」
「な、……で………?」

何で、と叫ぶ左之助の声が雑音の様に聴こえて、刀を握る手に力が籠る。

「安心しろ、殺しはしないさ。だが貴様には最早、歩く為の足等必要無い。煩わしいだけの声も、俺を見ないその腐った目も………俺では無い男に縋ったその腕も」

全て全て、己を不快にさせるだけ。だから要らない、必要無い。ならば処分すれば良いのだ。斎藤は刀を振り翳し、躊躇い一つ見せずに白い足目掛けて刀身を振り下ろした。




******




「……と言う夢を見たんだが」

穏やかな昼下がり、紫煙を燻らせながら淡々と告げた男に傍に居た少年は心底嫌そうな顔を浮かばせ、飄々とした横顔を睨み付ける。

「なんて夢見てんだよテメェって爺は。頭大丈夫か?」
「失礼な奴だな。見たくて見た訳じゃ無ぇんだ、知るか」
「にしたって穏やかじゃねぇだろ。一々聞かせんなよな、そんな話」

軽く斎藤を小突いて立ち上がる左之助は呆れた顔を隠しもしない。斎藤はふんと鼻を鳴らし、また無表情で煙草を口に付けた。深く吸って、吐く。それを繰り返していると、左之助が声を掛けてくる。

「んじゃ、俺遊びに行ってくっから。夕飯には戻る」
「……………ああ」
「変な妄想してねぇで仕事しろよ、警部補様」
「貴様に言われては俺も終わりだ、阿呆」

舌を出す左之助を見送り、一人きりの静かな部屋で窓を見詰める。妄想か。斎藤は小さく、だが声に出して笑う。

最近頻繁に『遊び』に行く恋人。相手を聞いてもはぐらかすばかりで答えない。煙草を消し、緩やかに視線を己の右手に落とす。隠す様に丸められた縄と黒革の布がその存在を主張した。

「………早く、早く帰って来い。左之助」

強くそれを握り、青く晴れた空を見上げ、金の眼が歪な輝きを帯びて揺らめく。



夢は現


それは始まりと同義であり、合図でもある



Fin.

やっちまった

溺愛嗜好群

「なぁなぁ斎藤ー、まだ一区切り付かねぇのか?」

涼やかな資料室に響く、つまらなそうな声。机に向かい書類を確認している警官の背から被さる様に顔を覗かせた女は、声同様につまらなそうな顔をしている。早く構えと急かされて、男は溜め息を吐き首に回された細い腕を叩く。

「もう少しで終わる。それまで待っていろ」
「どんくらい?」
「まぁ、これの整理が終わったらだな」

示された書類は結構な分厚さ。それを見て、左之は眉間に皺を寄せた。斎藤の骨張った肩へ顎を乗せ、ブツブツと文句を垂れる。

「ぜんっぜん少しじゃ無ぇじゃん。なーもー帰ろうぜ、んなもん明日で良いだろ」
「阿呆。昨日そう言って放置したのがこの書類だろうが」
「そうだっけ?」
「……………」

やれやれ。首を傾げる女の愛らしい仕草に再び嘆息し、猫が甘える様に擦り寄って来るのに構わず書類を捲った。流麗に紙の端へ署名していく斎藤の指を眺め、左之は大人しく抱き付いている。

背中に当たる胸が一々気になってしまい、斎藤自身一応冷静さを保っているが正直複雑だ。据え膳食わぬは何とやら。珍しくソノ気な女が自ら誘って来ていると言うのに、これでは生殺しではないか。

「まったく、だから昨日の内に終わらせておけば良かったものを」

御飯御飯と強請られ催促されて、根負けした己が情けない。しょうがないだろ、可愛いんだから。甘やかしたくなるし、構ってやりたくなるのも仕方の無い事だ。

「ね、斎藤」
「何だ」
「チューしよ」
「…………は?」

呼ばれて僅か振り返れば当然すぐ傍にある顔に一寸気を奪われる。子供の癖に、こんな時はやけに大人びた顔をするのだこの女は。判っていてやっている辺り質が悪い。斎藤は呆れた様に眼を細めるが、左之はニコニコと笑んだまま。一層豊かな胸を押し付けて、再度狼の耳へと誘い掛けた。

「一回だけ、な?」
「馬鹿を言うな。早く帰りたいと言っていたのは貴様だろう、だったら邪魔せずに大人しくしていろ」
「えー。接吻くらい大した邪魔になんねーよ」
「それで終わるお前ならばな」

言ってまた顔を書類に向ける。左之は暫しの間不貞腐れていたが、諦めたのかスルリと離れて仮眠用のソファーに寝転がった。毛布を被って背を向ける様は拗ねた証拠。斎藤は煙草を咥えようとした処で少しばかり思案して、再三の溜め息を吐き煙草を箱へ戻すと立ち上がる。書類を束ね封筒に入れてから、丸まっている女へと歩み寄った。

「おい、トリ娘」
「……………」
「拗ねてる暇があるなら立て。帰るぞ」
「………だって仕事」

もそっと毛布から顔半分を覗かせた左之に封筒を見せ、家でやると言外に告げる。途端嬉しそうに移り変わる表情は、狼が大好きなモノだ。これ見たさ故に甘やかしてしまう。

いそいそと起き上がろうとした左之の上。背凭れに片手を着き身を屈め、その紅く色付いた唇を拐った。

赤くなる女に余裕の自分。
矢張りこうでなくては、面白くない。

「っ…カッコいい事すんな、馬鹿」
「したいと言ったのはお前だ。そら、さっさと行くぞ」
「むー………」

手を引いて立ち上がらせ、頭を撫でる。今宵は満月。月と女を肴に酒を飲むのも良いなと、斎藤は帰りの道程で愉し気にそう考えた。




Fin.

ちょっと気分が良かったので書いてみた
甘い〜

彷徨い子

判っている。否、気付かされたと言うべきか。こいつが俺に重ねているもの。そして望んでいるもの、に。

「斎藤、」

甘えた声で擦り寄る様はまるで愛情に餓えた小動物。僅かに濡れた瞳を見下げ、俺は身の内で燻る歪んだ感情を抑えるのに下らぬ葛藤を強いられる。何時も、何時も。吐き出した煙草の煙が苦く喉を焼いた。そっと触れる指先に、眼を眇る。

「なぁ、斎藤」
「……………」


再度俺を呼ぶ声は弱々しく、だがその意味を判っていても俺の口は音を発さない。そう、判っているんだ。こいつが今、俺に何をして欲しいのか。嫌と言う程に思い知らされている。けれどそれは、俺が望むものでは無い。

「何で…」

泣きそうな声に、耳だけは研ぎ澄まし、目線を窓の外へと向けた。視野の端で揺れていた鷲色が引いていくのが見える。

「何で、冷たくするんだよ…」

その言葉に内心で嘲笑う。何でか等、疾うに知れた事だ。

「前は優しかったのに、どうしていきなり……」

気付いたからさ。貴様の思惑、魂胆に。気付かないままでいたならば俺はきっと今も、お前の望む通り動いている。

お前が俺に、重ねているもの。その鬱陶しい赤色の持ち主だった男。お前が俺に望んでいるもの。奴と同じく等しい、優しさと…慈愛。

吐き気がするぜ。

「さいと、っ」
「黙れ」

短くなった煙草を灰皿に押し付け、低く唸れば。怯えた顔を隠しもせずに俺を見詰める眼が歪んだ。その目、に、囚われる。

無言のまま近付き乱暴な動作で押し倒すと、小さな悲鳴が聞こえたが。構うものかと内側で吼える獸に倣い、その首へ手を掛ける。

……代わり等、御免だ。俺は奴の代わりとしてこいつの傍に居たい訳じゃ無い。奴が慈愛で貴様を飼い慣らしたなら、俺は狂気で貴様を縛り付けるだけ。その心さえも、喰い尽くす様に。

「矢張り、お前は阿呆だ」

グッと手に力を籠め、気管を圧迫する。あの時あの場所から抜け出す事も出来ずに彷徨い続ける愚かな子供を、その総てを、気が狂う程に欲しいと思った。咳き込む様に開かれた口へ己の唇を深く重ねて、笑ってしまいそうになるのを隠す。


これを穢せば、俺の餓えは満たされるだろうかと、思いながら。




Fin.


何故私の書く斎藤は
毎度余裕が無いのだろう…
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