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What is connected(チェイン→スティ/血界)



※本誌ネタバレ






チェインがライブラの執務室に顔を見せたのは、スティーブンの顔の腫れが引いた頃だった。

「…ほんっっっとうにすいませんでした…っっ!!!」
「いや…もういいよ。(よく判らないけど)僕が悪いんだし、ね…?」

乙女心というのは何年生きようが難しいもんは難しい。判らないものは判らない。
スティーブンは今回それが嫌って程身に沁みたので、今度もしこのような事態が起こったらもう少し扉の前で待とう。そう固く心に決めた。


『実存帰還符牒』
諜報部の不可視の人狼である彼女達にしかれた、彼女達をこの世界に繋ぎとめる絶対的な救済システムだ。
これが確実に行われなければ彼女達の存在は加速度的に失われ、この世界から「いなかった」ことになる。
なので、この「鍵」を決めるポイントは、

「絶対に帰りたい」
「帰らなければならない」

ということだ。
「鍵」を決める際、チェインが真っ先に思い浮かんだモノ…というより、人物。

(スティーブンさん…)

白い肌に走る傷痕。垂れ気味の、自分と酷似した黒目。同じ黒髪。
穏やかな物腰に柔らかい笑み。優しく、静かに魅了する声色。
仕立てのいいダークグレーの細身のスーツを身に纏う、すらっとした体躯の男性。
我らがボスの副官的存在である彼。
真っ先に思い浮かんだ、「鍵」は彼に関する事柄にしよう。そう決め、では内容はどうしようかと自宅に帰る道中考えた。

「……………。」

汚。
脱ぎ捨てた着替え。溜まった洗濯物。散らばるゴミ。そして酒瓶。酒瓶。酒瓶。酒瓶エンドレス。
自分の部屋ながら汚い。めっちゃ汚い。ごっちゃごちゃの滅茶苦茶に汚い。まるで一人暮らしの独身男のような部屋だ。
いや、スティーブンならこんな部屋ではあるまい。ハウスキーパーがいるというのは知っているから、整理整頓された綺麗な部屋なのだろう。
なのに自分の部屋の有様と来たら。
それこそこんな部屋を彼に見られたら泣く。マジ泣きする。

(生きてけないわー…)

チェインは掃除が苦手だった。
というより、整理整頓が苦手だった。
散らかっていてもそれなりに、何処に何があるかぐらいは判る。自分の家だし。かえって整理なんかしたら「あれ、どこにやったっけ」ってなりそう。
スティーブンに見られたら幻滅されるか、呆れられるか。どちらにせよ、泣く。

「あ」

これだ。


そして、

「やばいやばいやばいやばいやばい…!!」

自宅に帰ったチェインは全力で焦りながらも部屋の片付けを始めた。
己の存在を限りなくゼロにした。今、急速的に自分の存在がこの世界から消えている事だろう。
つまり、符牒がスティーブンの手に渡ったということだ。
ということは、

「つーか、酒臭い!!」

ファブ○ーズ!!

もうすぐ来てしまう。
脱いだシャツやゴミを纏めて抱えあげたその時、

「ええと、こんにちはあ!!遊びに来ました…!!」

ガチャリとドアノブが回され、玄関のドアが開いた。
あまり見られない、非常に焦っている、何か大事なものを守ろうとする時の顔だった。
そんな顔が見られてラッキーとか、

「……………。」

考えられる訳も無く。
ゴミ溜めの自宅を見られた衝撃で、これ以上ないぐらいに叫んで一人掛けのソファを彼に向かって投げてしまった。

そして話は冒頭へ戻る。

汚いにも程がある、女の部屋とは思えないそれを見られたショックでパニックになり、エメリナに泣きついてしまったが。
結果。彼女によってスティーブンは「おしおき」されてしまった。

掻い摘んで言うと、ビンタである。

ああ、女ってもんはやっぱり不可解だ。
身をもって実感したスティーブンに、後日、我に返ったチェインは心の底から謝罪を繰り返した。

「本当に、本当にすいませんんん…っ!!」
「もう良いって。な?兎に角無事帰ってきたんだから、それでいいじゃないか」
「じゃ、じゃあせめて何かお詫びを…」
「お詫びって…それ寧ろこっちがすべきでは…」

しかし、チェインは「あの綺麗な白い顔に赤い手の平の痕がぁぁぁぁぁ」とビンタをかました本人であるエメリナの前で頭を抱えるぐらいだったのだ。
ちなみに言えば、エメリナもさることながら、オリガやジャネットもチェインがスティーブンに想いを寄せていることを知っている。(というか、この時点で知った)
まあもう一人はどうにもマイペースと言うかのんびり気質なので、首を傾げていたが。

お詫びを。何かお詫びをと繰り返すチェインに、スティーブンは困り果て…

「チェイン」

出来うる限り優しい声色のつもりで、彼女の柔らかな髪に触れた。
ぽふ、と頭に手を乗せ撫でる。

「ご苦労様」

こうなると、もう何も言えなかった。
頭を撫でられると子供ではないのに、何だか落ち着く。それがスティーブンだからだとチェインは思う。
伏せていた顔をあげると同時に、離れた手の、細長い指が視界の端に入った。

「僕へのお詫びは、『パーティを思いっきり楽しむこと』かな」
「……………。」
「お返事は?」
「…はいぃ」
「うん、いい子」

にっこりと微笑まれたらもうアウト。
また頭を撫でられ返事を求められ、頷くしかなかった。

ああ、でも。やっぱり。

(綺麗だなぁ…)

取り敢えず目の前で満面の笑顔を見れたから、よしとしよう。うん。
そう自分に言い聞かせチェインは、夜のパーティーを言うとおりに思いっきり楽しもうと心に決めた。
「好きなもの、たくさん作ってあげるかなー」という声にも甘えて。

 

実在帰還符牒。
その「鍵」は、絶対的な、自分を世界に繋ぎとめてくれるもの。

―Chain.―
鎖を、持ち続けてくれる人。

 


end.

七歳と三十八歳と三年(T&B本編派生長編より)



(20話派生未来捏造ストーリー
「水に沈んだ砂漠の下で」・番外編同タイトルとより一部抜粋。こちらのシリーズもいずれ本館に掲載します)


「やっほーバニーちゃん!!」
「こんにちは、バーナビーさん」
「…何故折紙先輩が?」


扉を開けて開口一発である。本来は、笑顔で辛辣な言葉を浴びせるのを最早楽しみにしてるのではないかと思われる美しく育った娘と一緒に来る筈だった元相棒は、何故か元先輩のイワンと共にやって来ていた。
仲良く手を繋いで。


「やだな、バーナビーさん。もう折紙先輩だなんていうことないじゃないですか」
「すいません、癖でつい。…というか、楓さんは?」
「ああ、何か急に仕事が入って来れなくなってしまったそうなんです。それで僕が付き添いと言う形で」
「おれ一人でも来れるよ?」
「うん、そうだね。でも楓ちゃんが心配するからね。虎徹君も心配させたくないだろ?」
「うん」


即答。やはり虎徹は虎徹。娘可愛いは一向に変わらない。
イワンはイワンで最近バーナビーが唐突に虎徹を抱き上げ抱きしめ、楓の飛び蹴りを喰らい見事に吹っ飛んだ光景を見て以来、彼女には逆らってはいけないと無意識のうちに思っている。
元仕事仲間から犯罪者は生み出したくはない。
そして虎徹君は守って見せます!楓ちゃん!ブルーローズ!
虎徹を兎の手から守ろう同盟を組んだ女性二人にイワンは固く誓い、部屋に入れてもらった今でも虎徹の手は放してはいない。


「いつまで手を繋いでるんですか。もう室内ですよ」
「はっ!す、すいませんつい…」
「ついって…」
「でもイワンおにいちゃんの手、あったかかったよ」
「じゃあ今度は僕と手を繋ぐ?」
「バニーちゃんの手冷たいから、や!」


ばっさりと切られた。


「と、とにかく豆まきをしましょうか!!」


天然って怖い。元仕事仲間であるキースもかなりの天然だったが、虎徹も大概天然である。天性の天然の無差別たらしだ。(自分もソレに掛かった口だが…)
そして今バーナビーが喰らったのは「必殺・天然ナイフ」である。命名:楓
やはり些かメンタルがガラス製である兎は床に「の」の字を書き始めた。これ自分がいなくても虎徹は自分の身は自分で守れるのではなかろうか。
そんなことを思ったが、何十回と怪しい&危ないおじさん、もしくはお兄さんに声を掛けられ果ては誘拐されかけているのだから、やはり一人にさせては拙いかとイワンは考え直し、持参した豆を枡にざらざらと入れる。


「これ、バーナビーさんの分です。落花生の方が回収しやすいと思ってこっちにしたんですが…」
「…有難う御座います」


日本の地方では落花生を撒く習慣があると事前に調査したのでイワンはこれを発注した。勿論自宅にも自分が食べるように取っておいてある。そして自分が撒くのは落花生ではなく大豆だ。(あれ?回収しやすいという心遣いはどこへ?)


「おれとイワンおにいちゃん一緒のだもんねー」
「ね」
「なんですと!?」


虎徹とイワンが持っている枡に入っているのは紛れもない大豆。
それはオリエンタルタウンの神社で御祓いを受けた炒り豆だ。元々鏑木家では毎年そうしていたらしく、楓もこの習慣を続けている。そして今年はイワンが是非とも!と懇願したので。


「神様にいっぱいお祓いしてもらったからね、ごりやくがあるんだよ!これで悪いの全部はらっちゃおうねっ」
「豆を撒いて祓うんですか…変わってますね」
「豆は、『魔滅』に通じるんですよ。魔を滅するということ、つまり鬼に豆をぶつけることで邪気を追い祓い、一年の無病息災を願うという意味合いが込められているんです」
「あ、そだ。豆をまくときは、『鬼は外、福は内』って言うんだよ?」
「成程。邪気を祓って幸運を招くんですね」
「じゃあやりましょうか」


和気藹々と、なる筈だった。
元気よく一握りの豆を掴んだ虎徹は、勢い良く、


「鬼はー外ー!!」
「いだだっ!!」


投げた。
何故に悲鳴?とイワンは首を傾げ、悲鳴の方向へ向くと、


「虎徹君!?何でバーナビーさんに向かって投げてるの!?」
「え?だって悪いの追い払うんでしょ?」
「いや、うん!そうだよ!?そうだけど、え、確かにちょっと邪な想い抱いてるけどこの人!」


子供と侮ってはいけない。虎徹の身体能力は生前とほぼ変わらないのだ。ただ体の大きさと体力が付いていかない時もあるが。
全力で投げたのだろう。かなりの痛がりようだ。


「だってね、バーナビーはこれまでいっぱい大変なことあったからよくないのがいっぱいついてるの。だからそれを全部追い払わないといけないんだよ」
「虎徹さん…」


ああ、僕の為にやってくれたことだったのか。
子供の力とは思えないパワーで投げられた大豆はやはり声を上げるぐらいには痛かったけど、それもこれも自分のためだった。
そう思うとバーナビーは目頭が熱くなるのを感じた。年を取ると涙脆くなりやすいとは聞いたことあるが、これしきのことで泣きそうになるとは、


(情けないなぁ…)


一生懸命に説明されたイワンも、「タイガーさん…」と呟いた。本当に変わらないのだ、虎徹と言う人間その心、そのものは。
他人の為に一生懸命になり、無償の優しさとぬくもりを与えるのだ。自分達は彼に償い切れない程の過ちをしてしまったというのに。


ああ、どうしよう。今此処に天使がいる。


「………って、楓が言ってたよ」


((はっきりと悪意が見えたぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!))








:すまん。兎いじめるのが大変好きなのだ。愛だよ!愛!!

彼シャツな話(クラステ/血界戦線)



女性向け、腐向け話






クラウスという人間は恋愛経験が乏しいために、スティーブンと「そういう関係」になってからは色々と自分の新たな面を発見してきている。
例えば案外嫉妬をする。
「充電」と称し抱きしめる。
ジッとしていられず後ろをついて歩く。
他人に服を着せるのが楽しい。
…何だか良く判らないが、自分はそういう人間だったのだろうかと考え自らダメージを食らうこともしばしば。



「……………?」

目を覚ますと、隣にあった筈のぬくもりは微かな体温を残して消えていた。設えの良いベッドが、身体を起こすと同時に軽く音を鳴らす。ダブルサイズのベッドはスティーブンが幾ら細身と云えども、筋骨逞しいクラウスと一緒に寝ると狭く感じる。
「新しいベッド買おうかな…」などとスティーブンが先日呟いていたのを、思い出した。(それでもくっついて寝るためあまり関係ないのではないかと思われる)
恐らくシャワーを浴びているのだろう。そう思い、ベッドの下に落ちていた自分のズボンを穿く。穿いた後で自分のワイシャツがないことに気付いた。更にここにいない彼の青いワイシャツはそのままある。スラックスも。
はて、と考えたところで寝室の扉が開いた。

「あれ…起きたのかい?」

やはりシャワーを浴びていたらしい。頭にタオルを乗せ、片手で緩く水気を拭き取りながら声をかけてきた。

「…スティーブン?」
「…あ、ごめん。適当に見ないで取っちゃったんだ」

恋人と言う間柄になって漸く気づいたことがある。彼は低血圧だ。そのせいか平熱も少々低い。それに加えて朝が苦手らしく、起き抜けは身体に力が入らず呂律も上手く回らず、まるで幼子のようだ。
それを云えば「とっくに成人した男に向かって言う言葉じゃない」と返ってくるだろうが、それが本当に可愛らしく見えてしまうので仕方ない。
起き抜けの寝ぼけた頭で、手探りでシャツを取ったのだろう。今、スティーブンが着ているのはクラウスのワイシャツだ。二人の身長差もさることながら、体格差も激しい。お陰でかなりサイズオーバーのように見える。袖からは辛うじて指が見え、丈は膝上何センチ?というところ。世間で言うところの「彼シャツ」状態である。
ソレを見て、クラウスは眼鏡を掛けつつ凝視した。
一般の成人男性よりは腕力はあるものの、スティーブンは一般的に見れば細身だ。一切無駄な脂肪の無い長細い足は流石高速の蹴りを攻撃主体とするだけあり「美しい」と形容すべきだ。ただ妙に白い肌が何処か艶かしく感じた。

なんだろう。
目のやり場に困る。というか裸はもう何度も見てきた筈なのに。何故だ。

クラウスが凝視した後、ぎこちなく視線を彷徨わせている頃、スティーブンもまた似たようなことを考えていた。
正しく、鍛え上げられた肉体だ。
全体的に逞しい筋肉に包まれた巨躯。堅い筋肉は、それでも温かく心地よささえ感じる。だから、最中縋りついてしまう。寝る時でさえ自分から擦り寄ってしまう程。

あんな身体に抱かれ続けてるのか。

元々受け入れる機能など無く、行為の後はいつもだるい。けれど(何か知らんが計算以上の反応が返ってきてしまうため、「この獣!」と言ってしまったのはいつだったか)紳士らしく気遣ってくれるのは有り難い。有り難いのだが、よくもまあ、身体がもつものだ。いっそ壊されてしまうんじゃないかと云うほどに揺さぶられることだって珍しくないのに。

(…って何考えてるんだ)



お互い似たようなことを考えていることに全く気付かなかった。





end.



山本と赤い隈取のある子犬の出逢いの章(復活×大神伝という俺得小ネタ)





ボンゴレ雨の守護者、山本武。彼には匣アニマルである次郎と小次郎の他にもう一匹の白い子犬を常に連れている。
見る者が見れば、ただの白い子犬。しかし見る者が見れば赤い隈取のような模様のある子犬。その子犬には不思議な能力があり、山本もまたその子犬と似たような能力を持っていた。そして、ツナ達と出逢ってからも彼らは降りかかる混沌の存在と戦い続けている。それが自分の使命だと言うように。




それはまだ、ボンゴレがどうのマフィアがどうのという目ま苦しい程忙しく、そして眩しい日々が始まる数週間前に遡る。
部活帰りの山本は帰路を早足で進んでいた。その先で見つけたのは、白い塊。

「なんだこれ」

触ろうとすると、いきなりその塊は顔を上げた。
そう。
顔があったのだ。
白い塊だと思っていたそれは犬だった。大きさは小型犬よりも少し大きいが子犬だと判断出来る小柄な身体には、何やら赤い模様が入っている。落書きだろうか。だとしたら酷い。

「どうしたんだ、お前。飼い主は?いねーの?」
「くぅん?」
「一人なのか?」

山本の言葉に肯定するように一声鳴いた。その声はどこか寂しそうで、身体で寂しいと表現したいのだろう。落ち込む仕草を見せる。何とも愛くるしいが、こんなに可愛いのに捨てられたのだろうか。それとも元々一匹だったのだろうか。

「一人は寂しいよなぁ」

スポーツバッグを脇に置いて、しゃがみ込み子犬の頭を撫でる。すると「もっと」と催促するかのように山本の手に頭を擦り付けてきた。かなり人懐っこいようだ。

連れて帰りたい。
このまま放って帰るなんて無理だ。出来ない。

「ちゃんと訳を話せば、親父だってわかってくれるさ!」

だいじょーぶだいじょーぶ!と自分に言い聞かせ、山本は子犬を抱きかかえた。お互い少し汚れていたのでさして気にしなかった。




帰宅後。
きちんと父の剛に説明した。出来れば山本としては子犬をここで飼いたい。共に暮らしたい。けれど他の誰かの元がいいのであれば一生懸命飼い主を探すつもりだ。

「いいぞ、家で飼え!」
「…いいの!?ほんとか親父!」
「男に二言はねぇよ!まあ色々買い揃えたりしなくちゃならんだろうが、取り敢えずはおめぇらとっとと風呂に入って来い!泥だらけじゃねーか」

剛の粋な計らいにより、子犬はめでたく山本と共に暮らすこととなった。
子犬は自分がここにいていいと判ったのか、包丁を持ったままの剛の足にタックルするように抱きつき尻尾を振りたくった。それを笑いながら引き剥がすと、タオルと着替えを持って抱きかかえたまま風呂場へ向かう。

「あはは、あわあわー」
「わふっ?」
「あー、口あんま開けんなよ、泡入るからな」

人間用のシャンプーでいいのかどうか考えたが、町内会の福引で貰ったシャンプーを引っ張り出し、わしゃわしゃと子犬を洗い出す。すっかり泡だらけになった身体をシャワーで洗い流すと、真っ白な毛並みがぺたんと潰れていた。何だか面白い。

「…あれ?これは、落ちねーのかな?」

赤い模様が、鎮座したままだった。そこにシャワーを当ててみるが流れる気配は一向に見られない。落書きではなく元からあるもののようだ。
それならいいかと一人納得し、自分も髪を洗い、身体も洗い流した後共に湯船に浸かった。子犬が溺れないように湯船に掴まらせるようにしながら膝を立てた足で支える。

「何かお前カッコいいのな。なんだっけ…えーと、隈取ってやつしててさ」

他の犬とはだいぶ違う容姿なのだが、山本は細かい事は気にしない性格だったため普通にスルーしていた。
彼にとって重要なのは今後の子犬との生活だ。

「一緒に暮らすんだから、名前いるよな」
「くぅん?」
「名前だよ名前。『お前』って呼ぶわけにいかねーだろ?」

さてどうしたものか。
どんな名前がいいのだろう。


小さいからチビ。大きくなったらなんと呼べばいいのだろう。
白いからシロ。…微妙だ。
顔と身体に刻まれた、赤い隈取のような模様。

「赤?」

赤。
紅。
くれない。
べに。

「紅(べに)…?」
「くん?」
「ほら、赤い模様入ってるからさ。だから『紅(べに)』でどうだ?」
「わんっ、わんっ!」
「うわぷ」
「わんっ!」
「はははっ!気にいってくれたか?」
「わふっ!」
「そっかそっか!ははっ、くすぐってーよ」

尻尾が千切れんばかりに振りまくって、紅と名付けられた子犬は山本に抱きついた。
そこでなんで気付かないのか。

紅は山本の言葉をしっかりと理解し、山本も紅が何を言っているのか理解していることを。





それがツナやリボーン達と関わる数週間前のこと。これ以後彼は知ることになる。
自分に強力な霊力が備わっていること。
紅がかつて地上を救った白狼、アマテラス大神の子であること。神の証である隈取が剛には見えていなかったこと。
突如現れた妖怪と戦う日々が始まることをまだ知らなかった。







end.

うん…俺得!和風な感じが絶対合うと思ったんだよ。ただたんに山本とチビテラスを一緒にさせたかっただけだったんだよ。そうさそれだけだったのさ!
原作軸(アニメ混じっても良し)で復活し始めた妖怪達を再び祓うため、タカマガハラから舞い降りたチビテラスと強い霊力を生まれ持った山本の妖怪退治。多分序盤は金属バットが山本の武器です。後に時雨金時になるんだ。
山本がカグラの生まれ変わりとか、誰かの生まれ変わりとかだったら懐かしいにおいがして更に懐くんだろうなぁ…いや、あの子誰にでも人懐っこいわ。


チビテラス:紅(べに)
復活し始めた妖怪達を察知し、祓うために地上に降り立ったアマテラス大神の子。いまだ子犬サイズ。様々な筆神と出逢い成長していくゲームと一緒だったりしたり。神器もどっかから拾ってくるんだ。
やっぱり何でも食べる。寿司も気に入りました。でも山葵はちょっぴり苦手っぽい。山本に一番懐いてる。
ちっさくても神様。犬っぽくても神様。まだ幼いけど無限の可能性を秘めた神様なのです。


山本
生まれつき強い霊力を持ってたりする。普段はたまに変なのが見えるなーとのほほんとしてます。(幽霊です)
たまに神社でお祓いの際舞を舞っている。かなり効くらしい。チビテラスの隈取がはっきりと見える一人。
妖怪達が復活してからはよく事情は判らないながらも金属バットで戦うようになる。無意識に霊力をバットに纏わせているのでかなり効く。チビテラスの言うことは何か知らんが判る。夜な夜な妖怪退治もしてるんで学校では相変わらず寝ていることが多い。




本当なんだこれ。



One sweet one time day(血界戦線)





ヘルサレムズ・ロッド。
一夜にして構築された、「異世界」を現実に繋げている霧けぶる都市。元紐育。
闊歩する人々も普通の人間とされる者は極僅かで、その殆どが異世界の住人だ。軍人でさえ軽く命を落とすその都市の食材は、まあご想像の通りだが普通の物ではない物がせしめている。(普通に食べられるのだからまた不思議だ)
だが、一般的に人間が食す食材も勿論ある。
だからこそ、スティーブンはホームパーティーを開いて友人と楽しむという時間を楽しみにしているのだが、その殆どが秘密結社ライブラ構成員スティーブン・A・スターフェイズとして命を狙われる日々。
彼も一人の人間だ。
見た目には殆ど表れないが、友人に命を狙われるという信頼を裏切られる度に、彼の心は傷を増やす。

それがピークに達したのか否か。

「………何やってんだろう」

今日は休みだった。加えてハウスキーパーのヴェデッドは子供達と出掛けていて、久し振りに一人の休日を過ごしている。のだが、現在キッチンには甘い香りがたち込めている。

料理は好きだ。それは自負している。
ホームパーティーの数々の料理だってヴェデッドと一緒に仕込み、作っている。
たまに、内側に溜まったものを発散するかのようにスティーブンは何かに没頭することがあった。
一日中本を読み耽り食事を摂ることを忘れていた時もあった。

そして今日は、

「これ…一人じゃ無理だな…」

シャルロットケーキ、ガトーショコラ、レモンメレンゲパイ、コーンミールケーキ、フルーツタルト。

どれもこれも見栄えが華やかで店頭に並んでいても可笑しくなさそうなスイーツの数々が、エプロンを身に纏ったスティーブンの前に並んでいる。
作りすぎた。
やりすぎた。
はあ、と溜息をつくしかない。

「取り敢えず冷蔵庫に全部ぶっこんどこう…そして明日持って行こう」

呟きながらエプロンを取り、そして思った。
何で丸一日かけてスイーツ作ったんだろう…。







翌朝。

「はい、時間ぴったり」
「お、…おは、おはようございます…!」

会合の時間ギリギリで扉を壊す勢いで雪崩れ込んできたレオとザップ。詳しく言えば、レオだけがぜーぜーと肩で息をしていて、ザップといえば例の如くクラウスに飛び掛り――

ごすんっ
ごっ
すとん

もう見慣れた風景だ。
が、その合間に可愛らしい腹の虫の音が鳴ったのを、スティーブンは聞き逃さなかった。そして発した本人を頭に乗せているレオも。

「あ〜…ごめんな、腹減ったんだな。って、あ」
「え?」

腹を鳴らした張本人である音速猿はレオの切ない声に反応することなく、真っ直ぐにスティーブンの胸元に飛びついた。
予想外のことに二人は顔を見合わせていたが、何やらすんすんと匂いを嗅いでいる。

「スティーブンさん、何か持ってたりします?」
「別にキャンディーぐらいしか…」

あ、キャンディーは持ってるんですか…。
時間に遅れると氷点下な視線を纏うスティーブンだが、妙にそういうものが似合うというのがレオの印象だった。

「もしかして…今日包む時に移ったかな」
「包む?」
「うん、ケーキをね。今冷蔵庫に入れてるんだけど」
「ケーキですか。そういやここ最近食べてないなあ…」
「お茶の時間になったらギルベルトさんが動くし、その時に一緒に出してもらおうか」



紅茶の芳しい香りが社内のキッチンから漂ってくる。
珈琲を飲み干して空になったマグカップをキッチンに持っていけば、やはりギルベルトがお茶の準備をしていた。

「おや、スターフェイズ氏」
「珈琲ご馳走様。相変わらず美味しかったよ」
「いえいえ、喜んでいただけたのなら本望で御座います」
「それで…その、ちょっとお願いしても良いかな」
「はい。如何致しました」
「クラウスに出すんだろ、それ。一緒にお茶請けのケーキでもどうだい?」
「いいですな。しかしケーキは…」
「冷蔵庫に入ってるよ」

スティーブンの言うとおり、冷蔵庫を開けると五つのケーキが並んでいた。どれも食べずとも味が伝わってきそうだ。

「これはこれは…どれもさぞかし美味しいのでしょうね。皆様にもお出ししましょう」
「助かる」

恐らく、ギルベルトはスティーブンの手作りだとは思ってもいないだろう。


「坊ちゃま、どうぞ」
「ああ。ありがとう……ケーキか」
「はい。スターフェイズ氏からの差し入れに御座います」
「美味しそうだ」

パソコンから顔を上げたクラウスは、目の前に出されたコーンミールケーキをどこか輝きを持った眼差しで見つめる。
常人ながら巨躯の彼だが、存外子供っぽいところがあるのだ。

「本当、すっごい美味しそうですね!」
「アタシ、フルーツタルト良いですか?」
「好きなの食べてくれ。沢山あるから」
「何か…今日はやけに甘い匂いすると思ったら…いや、美味そうですけどね」

(多分皆お店の物だと思ってるんだろうなあ…でも食べたら判るよな、きっと)

ギルベルトから頂いた紅茶を飲みながら、クラウス達がケーキを食べるのを見守った。
正直に言えば味はどうだったのか気になるのだ。

「……………。」
「クラウス?」

クラウスは由緒あるラインヘルツ家の生まれだ。もしかしたら口に合わなかったのかもしれない。
そんなマイナス思考が過ぎったのだが、

「スティーブン、これはどこの店で買ってきたのだね?今まで食べてきた中で一番美味しい」

(あれ?)

「ほんとだ!このガトーショコラ美味しいですよ!」
「えーと…」
「このフルーツタルトも…すっごく美味しい。どこですか?これなら毎日食べられます」
「え…と、ね」
「何だか珍しく歯切れ悪いすね」
「もし差し支えなければ、お教え願えませんか?」
「……………。」

ラインヘルツ家の一流のコンバットバトラーであるギルベルトでさえ、手作りの物だと気付いていない。
これは素直に喜ぶべきなのか。

「…ごめん、僕が作った」

何故か謝罪の言葉を述べ、真実を話す。
するとクラウスは三白眼の目を丸くして、

「キミが?」
「ああ…うん、判ってる。判ってるけど、つい…作りすぎちゃったんだ。何かこうムシャクシャしてたのか鬱憤を晴らすかのように丸一日没頭してたらこれだよ」
「そうか…素晴らしい才能の持ち主だな、キミは」
「至って普通の才能だよ…買い被らないでくれ」

そして次回を期待した眼差しでこっちを見ないでくれ。

とは、言えなかった。
しかし尊敬の眼差しが更に二人分(正確には一人と一匹)から向けられ、ギルベルトは「今度からは皆でお茶にしましょうか」と笑い、チェインは何やら顔を紅くして「また作ってきてくれませんか」と言い、ザップは「もっと食ってもいいですか」と言う始末。

「また作ってきてくれないか、スティーブン」
「…あ〜、はいはい。判ったよ。気が向いたらね」









後日。

「ここ最近アンタがいるとお腹が空いてくるのよ、スカーフェイス。そしてまたその甘ったるい匂いが違和感ないって言うのが何とも言えないわ」
「え、」
「お菓子の匂いですね…」

数少ない女性二人に指摘された時には、スティーブンの周囲は甘いスイーツの香りが漂っていた。





end.

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