創作日和

「父上……」
「なんだい私の愛しい1番目の息子シャミー」
「その長い呼び方止めてください。て言うかこれは何ですかこれは」
冥王の愛しい1番目の息子ことシャミーは、父親の座る大きな茶色の事務机に畳まれている赤と白の服を示して言った。
「ああ、これか。これはクリスマスの服だよ。サンディとか言う斬り裂き魔が―――」
「ジャ○クネタを引きずってこないでください。そして俺が聞きたいのはそれじゃないです」
すぱっ、と見事なまでに父親の言葉を切り裂くシャミー。
「冷たいねシャミー……まぁいいけど。お前の言いたい事は大体わかる」
冥王はひらりと服を持ち上げて見せた。
スカート服と言うに相応しいデザインで、どう見ても寒さは防げそうにない。
「要するに、誰がこんなもの着るんだ、と聞きたいんだろう？」
「ええ。まさかとは思いますがゲイズではないですよね？9番目の弟の。あいつは確かに女顔ですが一応男ですからそういうのは謹んで……」
「お前、私を変態扱いしてないか？いくら私でも息子には着せんよ。好んで見たくないし」
そういう自分の父親に、シャミーはほっと安堵の息をついたが……。
「って、だったら誰に着せるんですか」
すぐに疑問が口から滑り出た。
ふふふ、と冥王がどこか怪しく笑う。
「ぬかりはないさ。呼んであるよ、私の愛しい娘をね」


「……お父様」
その数分後。
「来たか、入りなさい娘や」
にこにこと冥王が手招きすると、暗がりから少女が現れた。
大きな長い棒を持つ、桃色の髪と灰色の目が印象的な少女。
シャミーは目を丸くした。
「ま、まさか父上……俺の125番目の妹にそれを？」
「そのまさかだ。125番目の娘は可愛いし、すらりとしているだろ？ぴったりじゃないか」
「あの、何の話ですか？」
少女が問いかけると、冥王は変わらず笑いかけながら、
「今日はこれに着替えてもらおう」
そう言った。
少女は軽く小首をかしげる。
「何ですか？それ」
「クリスマスの服だよ。サンタクロースが着ているんだ。お前ならきっと似合うだろう。ささ」
「はい。お父様」
素直に頷き、冥王の手から服を受け取った少女は更衣室の方に消えた。


さらに待つこと数分。
着替えてきた彼女を見た二人は、同じように目を丸くした。
「ほう」
「……可愛い」
シャミーでさえ認めるほど、彼女にその服が似合っていたために。
「ありがとうございます。お兄様」
ぺこ、と彼女は行儀よくお辞儀をする。
「じゃあ今日はこの姿で人間界に行ってもらおうか、娘よ」
「構わないんですが……これだと要の勾玉が縫いこまれていないから人間の魂を送れません、お父様」
くるり、と回って言う少女に、冥王は微笑を返す。
「構わんさ。今日はクリスマスだからね。仕事の事を考えず行ってきなさい。そして人間界のクリスマスの感想をこの父に沢山聞かせておくれ」
「俺も許すよ、いっちゃん。今日は遊んでおいで」
シャミーもにっこりと笑って言った。
少女は戸惑うように二人を交互に見たが、やがて微かに唇に笑みを浮かべた。
「……はい」
白磁の頬を染め、本当に嬉しそうに、少女は言った。



*　　*　　*
おまけ：
「いっちゃん、その手に持ってるのは何かな？」
「鎌です。お兄様」
「うん、そうだね。何で鎌を持っているんだい？」
「送れないけどとりあえず魂は刈っておこうかと……」
「駄目。今日はいっちゃんは遊びに行くんだから。そういうモノは置いていきなさい。大体クリスマスに鎌なんてミスマッチだよ」
「何故ですか？」
「え？」
「何故“くりすます”に鎌はミスマッチなんですか？」
「え……えーっと…………………と、とにかくミスマッチなんだよ！こっちにしなさいこっちに」
「何ですか？この大きな袋は」
「サンタクロースがプレゼントを配るときに持っている袋だよ。今日はこっち。鎌は没収」
「……」
「どした？いっちゃん」
「この袋に魂を詰めれば持ち帰れますか？」
「………えーと、初めから説明させてもらってもいいかな？orz」




お兄様は大変。

◆冥界の大家族。
冥府の王を父としてその下に兄弟姉妹が125人います。
1番目の死神がシャミー。通称シャムまたはねここ。（シャム猫っぽいから。だがねここと呼んでも無視される）
125番目の死神はまだ生まれたてで小さくて素直な妹。名前はまだないのでいっちゃんと呼ばれる。（他の兄弟姉妹にはちゃんと名前があるので紛らわしくはない）

◆シャミーは苦労性。父親が次の冥王にするため英才教育をされてるから優秀だけど苦労性。
いっちゃんは溺愛されまくってるせいでちょっとだけ嫉妬したりしなかったりするが可愛い妹なので全部許してる。
そのせいで更に苦労性。