※遊郭パロAの続きです。
※ぬるいですが他人×三成の裏描写がありますので苦手な方はご注意を。
己の部屋のみでまるで軟禁されたかの様に暮らす三成には今が何月かは分からなかったが、それでも左近の顔を久しく見ていないことは分かる。
おそらくは三月は会っていないだろう。
以前ならば少なくともひと月に一回は訪れていた左近が、である。
三成は決して出ることの出来ない窓の外をぼんやりと見つめ、明日は来るだろうか、明後日は来るだろうか、とそればかり考えていた。
左近とて三成に飽きたわけでは無かった。夏が近づくにつれ近隣諸国の動きが活発になり、その動向を伺う為に主の命により各地を転々としていたのだ。
そうして左近が三成の元を訪れたのは秋も深くなって来た頃だった。
「お久しぶりです、三成さん」
左近のこと、覚えてますか?
そう苦笑しながら問う左近に三成は頬を膨らませて背を向けたままだった。
「三成さん、こっち向いてお顔を見せて下さいよ」
少し強引に顔を向き合わせるが、三成は拗ねたまま表情を変えようとはしない。すぐにぷいとそっぽを向いてしまう。
三成が何故このように不機嫌なのか、理由は分かっていた。
嫌という位、分かっていた。
「………どうして三月も来なかった」
敷かれた褥の上で座る左近に凭れかけながら言った。まだ眉間に皺が寄せられていることから機嫌は治っていないのだろうが、声をかけて貰えただけでも良しとする。
「ずっと、左近が来るのを待っていたのに」
拗ねる三成の髪を指で梳きながら左近はすみません、と短く答えた。
肌触りの良い滑らかな髪は、以前は肩より少し下で切りそろえられていたのに、今ではもう少しで肘に届くかというところまで伸びている。
それ程の長い間会えなかったのだ。自惚れる訳ではないが寂しかったのだろう。
土産にと持参した干菓子も拗ねた三成に手をつけられることなく包みのまま床に転がっている。
「珍しいですね、黒の着物なんて。」
話をそらそうと、触れたのは三成の肩にかかった上等な絹の打掛。黒い地に白や薄桃の桜の刺繍が施されている。
左近は今までに数回、三成の元へ通っていたが黒の着物を身につけているのを見たことがなかった。
「よくお似合いですよ」
左近がそう言うが三成はきゅ、と下唇を噛み更に眉間に皺を寄せた。
また機嫌を損ねてしまったか、と思ったが三成の表情は不機嫌というより悲しみに歪んでいる。
「このような打掛、左近と会う時に着たくなかった」
そう言い顔を左近の胸元にうずめてしまった。当然左近からは三成の顔は見えず、表情を読む事も出来ない。何故か、と聞くと左近では無い他の客に貰ったのだと言う。
「あんなヤツ大嫌いだ。何か穢らわしいものを見るみたいに俺を見るんだ」
そのくせ、酷く三成に入れ込んでいるのだという。声が少し震えていた。
その言葉を聞き、体の中で何かがモヤモヤと渦巻くのを感じた。いい歳をして、悋気なのだろう。
何を、陰間の客に悋気などと馬鹿げたことだ。沢山の客をとる、というのがこの世界に生きる者の仕事だというのに。
左近は凭れかかる三成の打掛を脱がし部屋の隅へ放り投げた。
突然の事に驚き、身を起こした三成は投げ捨てたれた打掛を見、その後キョトンと左近を見つめてた。
「ああ、やはり貴方にはこちらの方が似合いますね」
打掛を脱いだことによって露わになった赤い襦袢を見て、左近が言った。それを聞いて何も言わない三成だったが、頬がみるみるうちに赤くなっていき、俯いてしまった。
おや、と左近が顔を覗き込む。
「何、赤くなってるんですか」
「うっうるさい!何でもない!」
ニヤニヤと笑いながら抱きつかれ体制を崩し、左近もろともドサリと倒れてしまう。そして、どちらからともなく唇を合わせる。
三成が好きなように深すぎず、舌先だけを絡めると鼻から抜けるような甘い声が上がった。
「機嫌なおりましたか?」
「ん……なおった」
その素直な唇に再び口づけをすると今度は三成の方から舌を絡ませてきた。
静寂な部屋に2人の唾液が混ざり合ういやらしい水音だけが響く。
ふと、三成の目にあるものがとまった。
「あ…、干菓子…」
それを発見すると三成はあわせていた唇をパッと離し、上向きから器用にくるりと反転するとほったらかしにされていた干菓子に手をのばした。
「三成さんは左近との口付けよりも干菓子がいいのですか」
折角心地よい口付けに酔っていたのに、とムッとする左近を見上げ笑い、頬の傷を撫でた。
「左近のが良いに決まってるだろう」
そう言い、再度唇を重ねあった。
その日、左近は夜があけるのを待たずに三成の元を去った。
やはり仕事が忙しく、やっと出来た合間に来たのだという。
相変わらず左近は、口づけを交わすくらいでそれ以上は何もしてこなかった。
(左近なら良いのに)
前にそう告げたこともあった。しかし、左近は笑うだけで、やはり何もしてはこない。
(やはり、身体が気持ち悪いのだろうか)
こんな痣と傷に塗れ変色しきった身体では。
ここ数日は特に殴られる事もなく平和に暮らせている。身体中に散る痣も大分薄くなったように思う。
(この痣が消えたら、左近は抱いてくれるだろうか)
そう考えていた時、何やら足音が聞こえてきた。
「旦那様、さぁこちらへ」
次いで女将の声が聞こえ足音が段々近づく。
そして襖が勢いよく開けられた。
そこに立っていたのは壮年の男。左近が通う前から三成の元を訪れていた馴染みの客である。
その姿を確認した途端、三成がうんざり、という顔をする。が、男は気にしていないらしい。ニコニコと笑っている。
「どうぞ、ごゆっくり」
襖を閉め女将が去ってゆく。
「やぁ、久しぶりだな」
男が優しい顔で微笑んだ。
「つい先日、お会いした所だと思いますが」
「まぁまぁ、そう言うでないよ」
男はツンとそっぽを向く三成の前にどかりと腰を降ろすと、部屋の隅に投げ捨てられたままの打掛に目をやった。
「あれは何だね、私が前に君にやったものだと思うが…なぜあの様に隅に追いやられているのかな?」
「……っ、あれは…!」
「駄目じゃないか、あれは君などが十年かかって男に媚び、稼いでも買えない程の代物なんだ。大事にしないと」
男はひょいと打掛を拾うと、それを再び三成に羽織らせた。
こうして微かに触れられるのさえ疎ましい。
しかし、相手は客だ。
三成はグッと唇を噛んだ。
「も、申し訳ありません…」
「悪い子にはお仕置きが必要だね」
その言葉と同時にパァン!という音が響いた。
驚いた三成は何が起こったのか分からなかった。
分からなかったが、じわりじわりと湧いてくる右頬の痛みに頬を張られたのだと漸く理解した。
ついで男は痛みに呻く三成の前髪を乱暴に掴み力任せに褥に押し倒した。
「……か、はっ…」
「全く、君は媚びる事しか脳が無いのだからもっと頑張らなくては。ま、そんな所が気に入っているのだがね」
ぐ、と後頭部を掴まれ顔面を褥に押し付けられ、代わりに尻を高く上げ突き出すような格好をとらされた。
これでは、声を出すどころか呼吸さえままならない。
「静かにしたまえよ。この間の様に、番頭に邪魔されては困る」
以前に無体を強いられた時、三成の余りの悲鳴に店先に控えていた番頭が制止に来た事があったのだ。そのことを言っていたるのだろう。
打掛と襦袢を纏めて捲り上げられ、男の皺々な手が露わになった三成の白い臀部を撫でる。
「君のことが忘れなれなくてね。漸く君に触れられると思うと嬉しくて仕方がないよ」
言葉だけならばなんて愛に満ちた睦言だろう。
しかし、違う。
この男は違うのだ。
男の両手に尻たぶを押し開かれ、可憐な後孔が露わになる。まだ何の潤いもないそこに男の熱く高ぶったものが押し当てられ三成は身を竦めた。
「―――ッ!!」
次の瞬間、未だほぐれておらず軋む入り口に容赦なく押し込まれる。
あまりの痛みにくぐもった悲鳴が響いた。
男は三成のことなど気にせずズンズンと腰を進め、激しく揺らした。
「んっ、んんっ……!」
零れる悲鳴は敷き布に吸収され声として発せられることはない。
激痛と苦しみと、背に覆い被さり荒い息をつく男の存在に、眩暈がした。
(左近、左近、左近…!!)
助けて、と願っても助けになんか現れるはずないのに。
悲しみが湧き、また涙が零れた。
「君を、身請けしようと思ってね」
激しい揺さぶりの中、男が告げた。
「女将には話はしてある。了承も頂いているんだよ」
だから決定事項なのだと、男は優しい声色で言った。
三成はもう悲鳴を上げなかった。痛覚も全ての感覚が麻痺し、ただ揺さぶられるばかりであった。
【つづく】
長い…;裏小説にあげれば良かった…;;
まだ続きます。