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黒い腐臭 2
あのキャンプから戻って数週間。
その間は特に何もなかった。
課題をこなしたり、レポートを作成したり、バイトをしたり、遊びまわったりと平和な日々が続いていた。
事件から一ヶ月くらいたった夏休みの終わり頃。
俺は学生専用のアパートに住んでいて、AとBも同じアパート住んでいるんだが。
昼過ぎにBとAが俺の部屋を訪れ、ゲームをしたり漫画を読んだりとゴロゴロしていると、下の階の住人が俺の部屋へやってきた。
ドアを開けると下の住人が
「何やってるのか知らないけど、うるさいんだけど。」
「そんなに大音量でやってるつもりなかったけど、ゲームの音がうるさかった?」
「それとも俺達の声がうるさかった?」
「いや、そうじゃなくて。」
「さっきからお前ら、部屋の中を大人数でバタバタ歩き回って何してるんだよ。」
「別にバタバタ歩き回ったりしてないんだが…ずっとゲームやってたし…。」
「まあ気になったならすまん、静かにする。」
それで下の階の住人は帰ったんだが
「何か変だな?」
とは思いながら、AとBには下から苦情が来たので、ちょっと静かにしようと言っておいた。
三十分くらいするとまた部屋のチャイムが鳴った。
出てみるとまた下の階の住人で、今度はかなり怒っている。
「お前ら、いい加減にしろよ。」
「バタバタ歩き回ったり、ブツブツなんか聞こえてきてウザイんだけど。」
「こっちはレポートまとめてる最中なのに、集中できないんだけど。」
窓を締め切ってかなり静かにしていたのに、そう言われて何か釈然としなかった。
しかしまあ、下の階の住人ともめるのも嫌なので、こう返した。
「そりゃ悪かった、注意してたつもりなんだけど。」
「俺達これから出かける事にするわ。」
「それなら問題ないだろ?」
そもそもこのアパートは結構新しく、そんなに音が響く訳ない。
最初に注意された時以降、かなり静かにしていたのに理不尽だなとは思いながら、AとBに事情を話して出かけようと切り出した。
今から考えると、それまで結構騒いでもどこからも苦情がなかったので、この時に変だと気付くべきだったかもしれない。
時間は午後二時。
「とりあえずゲーセンとかに行って、暇つぶしでもしよう。」
という事になり、俺達はアパートを出た。
それからゲーセン行ったり、買い物したりと時間をつぶし、ファミレスで晩飯を食っていた。
すると今度はアパートの管理会社から俺の携帯に電話があった。
「不動産会社の者ですが、十四号室にお住まいの方でしょうか?」
「そうですけど、何ですか?」
「実はそちらの部屋がうるさいとの苦情がありまして、お伺いしたのですが。」
「ご不在のようなので、お電話致しました。」
「ああ、苦情来たので昼過ぎから出かけていました。」
「以後注意します。」
「またかよ…。」
と思い、俺がうんざりしながら答えると、不動産屋が変な事を言い出した。
「昼過ぎと言うと何時頃からですか?」
「確か二時か二時半頃だったと思うんですが。」
「それは間違いないですか?」
「注意して欲しいと苦情の電話があったのは、六時過ぎ頃なのですが…。」
今の時間は午後八時過ぎ、あれから一度も帰っていないので、どうもおかしい。
AとBに事情を話し、不動産屋には
「今から帰るので、部屋の前で待ち合わせする事にしたい。」
と言って俺達はアパートに帰った。
アパートにつくと不動産屋の女の人が待っていて、苦情の電話をしてきたのがやはり下の階の住人だったので、まずそこへ行く事となった。
出てきた下の階の住人はかなり不機嫌だった。
話によるとあれから暫らくは静かだったが、五時過ぎ頃からまたうるさくなり、注意しても誰も出てこないので、管理会社に電話をしたらしい。
俺があの時出かけたまま帰っていない事を話すと、最初は下の階の住人は疑っていた。
そこで俺達が買い物をした時のレシートやファミレスで飯を食った時のレシートの時刻を見せると、流石に下の階の住人は納得した。
「あの…もしかして空き巣ではないですか?」
「ああ、さっきまでうるさかったから、まだ部屋にいるかも。」
[マジかよ…お前鍵ちゃんと掛けたか?」
「俺はちゃんと鍵掛けたし、お前も見てただろ。」
「つーか、俺の部屋入って何盗むんだよ。」
「とりあえず部屋に行ってみて、確認すればはっきりするんじゃね?」
という訳で俺とA、B、それと不動産屋と下の階の住人で俺の部屋へ行ってみる事となった。
俺の部屋に着くと、やはり鍵は掛かっていた。
空き巣が鍵をした可能性もなくはないので、俺が鍵を開け、中の様子を見た。
しかし玄関から見た範囲におかしな所はない。
全員で俺の部屋に入り、部屋の中やユニットバスの中なども調べたが、やはり何もない。
部屋を出て行く前に飲んだ、ジュースのペットボトルとかもそのままで、人が入ったような痕跡はまるでない。
下の階の住人は何か釈然としない様子だったが、現実に俺の部屋に人がいた痕跡は全くない。
「どこか他の部屋の音を俺の部屋の音と勘違いしたのでは?」
などと話していると、玄関横のユニットバスの部屋から
…ズズズズズ…
…ガコッ…ガコッ…
と変な音が微かに聞こえてきた。
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呪われし勇者達の死ぬ程怖い話