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0355

朝焼けを手に、うろこ雲の列車に乗る。

1217

幼い頃

猫を追いかけ

狭い土地にぎゅうぎゅうに建てられた

家と家の間を 

走り抜けたことがある 

猫はいとも簡単に 

塀の上を走るのだが 

私はそれができずに 

裸足で砂利の上を駆けた 

いま 

大人になり 

君に手を引かれ歩く 

東京の街で 

また 

あの頃の感覚が

強く呼び戻されるのだ

切れ味の悪いであろう万能包丁を買い、100円ショップを後にする。生まれて初めて握った凶器はとても軽かった。見上げた世界がポリゴンの集合体に見え た。この武器は強い。安いがこんなに尖っている。今の僕はとても強い。停めてあった自転車を全部薙ぎ倒し、笑顔で街に繰り出す。

グンキートス

午後5時ちょうどを過ぎた頃、僕は家を出る。出かけ際にふと気付いて、トイレの戸を開け窓を確認する。一人暮らしなので、戸締まりはしっかりするのだ。散 歩中の犬に微笑み、買い物帰りの主婦とすれ違い、ゆるやかな丘を越えたら踏み切りを渡り駅の向こう側へ行く。駅前のタバコ屋でフロンティアを二箱買い、タ バコ屋のビニールを手に雑踏をくぐり抜け、忌々しい風俗店を横目に左へ、左へ。[すずらん通り]と古い電球で照らされたアーケードへ入り、しばらく歩いて アーケードを抜け、今度は右に曲がると、駅前の大通りに出る。人ごみを避けるために賑わいを見せる前の飲食店街の中を通って来たのだ、もう6年目になるの で、身体にルートが染み付いている。
築15年のビル、一階はビデオ屋。僕が暮らす住宅街から歩いて15分程の場所にある。ここの二階の一室で君が ピアノを習っているのを知っている。レッスンは5時30分からなのだが、君はいつも5時に到着すると講師が到着してレッスンが始まる迄の30分を事務員と 話して時間を潰すのだ。いや潰すといった言い方はおかしいだろうか、そのために早く来ているのだから。事務員は女性で、年代は50代ほどであり、彼女のよ き理解者である。
6年前に君を知ったとき、君はまだ小学生だった。同級生より頭ひとつ分突き抜け、背負うランドセルがひとしお小さく見えた君はと てもスタイルが良くて、僕はびっくりしたものだ。しかしそれからあまり背が伸びずに、結局今は標準より少し高いくらいだろうか。依然として容姿は可憐であ るが。
それから高校生になり、いつのまにか卒業を控える君は、来年の大学入学もあって自分の容姿のことを気にしているのだ。君が学校帰りに駅前の ドラッグストアに寄り、やれ化粧品だ小顔だの美容関連のものを買っていくのを知っているが、どうだろう。君はもうそろそろ自分の魅力に気付くべきである。 僕は、君が髪の色を変え目の上を真黒にして街を歩く姿を見るのが耐えられそうにない。考えられないのだ。
それでもどんどん美しくなろうとして変 わっていく君には、最近恋人ができたみたいで、君は自らの時間を割いて恋人のために充てているのを知っているが、僕にはその相手がどうも君に不釣り合いな 気がしてならない。君は初めてのことで心を躍らせて、自分や周りが見えなくなっているのである。どうだ、君のまわりの女の子は、あんなに低能な男と交際し ているか?よく考えてみるといい。君の恋人は毎晩ゲームセンターや雀荘に入り浸り、時にはパチンコやスロットなどで金を捨て……それだけならまだしも、君 の他に女がいないとは限らない。君はそんなことにも気付かないのか。鋭い君の事だからいずれ気付くであろう。傷付く前に別れるべきだ。
そうこうし ているうちに君が奏でる美しい音色が流れてきた。ハノンはもう6年変わらない音階だが、日を増す毎になめらかになっていく君の指の動きが目に浮かぶよう だ、ああ。エチュードは新しい曲に挑戦することにしたのだね。ショパンは僕も好きだ、君もショパンが好きでよく弾いてるみたいだから嬉しいんだ。あいにく 僕はピアノが弾けなくてね、だから君に、僕のためにピアノを弾いてほしい。君が4歳の頃から練習を重ねたそのピアノを僕のためだけに弾いて欲しいんだよ。
そのためにこの前ピアノを買った。

海の日のこと

「ずっと一緒にいたいね」

「うん」

「大好きだよ」

「うん」

「大好きじゃないの?」

「ううん」

「好き?」

「うん」

「でもきっと」

「うん」

「僕の方が好きだよ ね」

「……」

「ちがうの?」

「ううん」

「どっちでもいいね」

「うん」

「じゃあ、せーので飛び降りるよ。」

「うん」

「せーのっ」
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