yuko side
__
『おじゃま…します』
「そっち、座ってて?簡単なものでいいなら出すから」
『あ…お願いします』
ん、と頷き私の頭をぽんぽんして陽菜は台所に行った。
陽菜の部屋は、お世辞にも綺麗とは言えなくて、服やDVDなどが乱雑に広がっていた。
ソファーに座って待っていようかと思ったけど、せめて少しでも綺麗にしたくて、床に散りばめられた服を拾ってまとめ、DVDをBOXにしまう。
少しだけ綺麗になった部屋を見て、少しだけ嬉しくなった。
すると、次に目に入ったのは所々に落ちている紙。チラシかな、と思って拾って見てみると、中身は五線譜。音符が書いてあるものもあれば、何も書いていないものもあって。
中には歌詞のようなものだけが書いている紙もあった。そういえば、陽菜は何をしているんだろう。
その歌詞が、陽菜が書いたものであれば少しは掴めるかもしれない。
興味深々だった私は、陽菜が書いたであろう歌詞を読んでいた。
歌詞から読み取れたことは、陽菜は何かに諦めを感じている、この毎日は報われない、人生ごと終わりたい、そう思っているんじゃないかということ。
何をそんなにヤケになってるのかはわからなくて、他に手掛かりがないか落ちている紙を夢中で漁っていた。
「優子。」
陽菜が来ていたことも気付かずに…
「優子!」
ハッとした。
悪いことをしているとは思ってなかったけど、見上げた陽菜の表情は険しかった。
『ごめんなさい…』
「いいよ別に。ご飯、出来たから食べよ?」
さっきの表情とは打って変わって、優しく微笑んで私の腕を引いた陽菜。
けど、私は知りたかった。陽菜の歌詞の意味を。
『…陽菜は、死にたいの?』
初対面の人にこんなことを聞くのは間違っている気がするけど、私は陽菜を放っておけなかった。だって、自分と陽菜は似ていると思ったから。
何がそうさせてるかは違うと思うけど、それが諦めを招いている、そう思った。
「…。死にたいよ」
『どうして』
「陽菜、歌ってたいよ。けど、この世界は陽菜には厳し過ぎたみたい」
陽菜は、歌手らしい。
"諦めないで"その言葉は口から出かけて塞いだ。
陽菜は歌っていたいんだ、けれど売れないのに歌うことは出来ない。
歌を仕事にすることは出来ない。
陽菜はそれがわかってるから、悩んでいるんだ。
やっぱり私と同じじゃん。
私は目が見えなくなると言われた今、人に何をしてほしいんだろう…
「ゆ、こ…?」
『大丈夫。私がいる…』
きっと、抱き締めて大丈夫って言ってほしいんだと思う。そばにいるからって言ってほしいんだと思う。
私と陽菜が同じなら、私たちの求めているものも同じだと信じたい。
『私もね、むしゃくしゃして、泣いてたんだ。そしたら、陽菜が来てくれた。』
「…ぅ、ん…」
『だから陽菜がむしゃくしゃした時は、私がいるから』
陽菜が泣き止むまで、ずっと抱き合っていた。
泣き止んだ陽菜は、目を赤くしながら「どっちが大人かわからないね」と笑った。
"大人ってなんだろう"と問えば、"陽菜もわかんないや"って返ってきた。
「優子、ありがとう。」
『何もしてないけど』
「んーん。何かしてくれたから言ってるの」
嬉しそうに笑った陽菜はさっきみたく頭をぽんっとして私の腕を引いた。
「ご飯、食べよっか」
_____
貴女を、見ていたい___。