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一人きりの少女の晩餐。

目の前に広がる赤い世界、誰が作ったのでもない、自分が創り上げたモノ。
思わず後ずさると、視界がぐにっと歪んだ。
やわらかい、そして暖かいものが足の裏に伝わった。
コレはさっきまで命あったモノ、私が奪ってしまったモノ。

見たことはある、触ったことだってある。
おそるおそる視線を落とすと、私が立ちすくんでいたのは人の背中の上だったことがわかった。
無造作に突き刺さっていた番傘を抜く、案外楽に取れた。
お気に入りの紫色が台無しだ、柄の部分を握ったら、ぬめっとした。
自分の手を広げてみると真っ赤だった、見ると全身真っ赤だった。

ああ、私は何ということをしてしまったんだろう。
何かを言おうとして口を開く、まさか言葉を忘れてしまった訳はない。
私はまだ狂ってなどいない、狂ってしまったのは世界の方だ。

「お腹空いたアル。」

言葉が出た、よかった。
よかった?
何かが間違っている。

「お腹が空いた。」

私はお腹が空いていた、とてつもなく空いていた。
この惨状を前にして、大量の死体を前にして、私はお腹を減らしていた。

「お腹が空いたアル。」

濁流のように、私の脳の中はそれいっぱいになる。
とりつかれたようにそれしか考えられなくなった。
お腹が空いた、空いた。
タイミングよく、お腹までなった。
私は本当にお腹が空いていたのだ。

さっきまで私は何をしていたのだっけ、何を思っていたのだっけ。
迫りくる空腹に私は途方にくれるしかなかった。
ふと何かが胸のあたりまでこみあげてくる、突然息急き切ったように涙があふれてきた。
まるで決壊したダムのように。
私は止める術など持ち合わせていなかった。

死体の山の中、私はとうとううずくまってしまった。
血の感触、匂いなどはとうに気にならなかった。
だって、私がこの山を築いたのだ。
この世界の王者は私なのだ、私が創設者。
でも、そんなことどうでもよくなっている自分がそこにはいた。

お腹がまたグーッとなった、腹ペコのそこに手をあててみる。
可哀相にぺったんこのそれは、やっぱり何だか暖かくて、無性に安心した。
安心なんて間違ってるのに、何が間違ってるのか私には何もわからなかった。

「お腹が、お腹空いたアル…。」

さっきから何度も口にしている言葉。
そんなこと言ったって、私は一人なのだから。
誰も食べ物なんて与えてはくれないのだけれど、ひたすらそう口に出した。
自分が声を発している、そのことが知りたかったのかもしれない。

私は小さい頃のように顔をぐちゃぐちゃにしながら、泣いた。
どうして、こんな時もお腹が空くのだろう、どうしてお腹が空くのだろう。
こんなにも私は汚れているのに、返り血に染まっているのに。
どうしてどうして。
どうして、この空腹は今までと変わらず私の前に横たわっているのだろう。

「お腹、空いたアル。」

それが無償に悲しくて、愛しかった。


■□一 人 き り の 少 女 の 晩 餐 。□■




書きたいテーマがあったのだけれど…見失ってしまった気がしてならない。
お腹空いた。

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