happy blue moon


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2015.3.12 Thu :両想い
恋する音楽


「…っん」


ちゅ、という微かな音をたててその熱はそっと私から離れた。

頭上からは小さく、甘やかに彼の溜め息が零れて。
それがまた、私の胸をドキンとさせた。


ドキドキドキドキ…

鼓動が高鳴るって、こういうこと。
ドキドキするってこういうことなんだって、彼はいつもいつも、苦しいくらいに私に知らしめる。


(蓮くんってば、ズルい…)

心の中でせいいっぱいの悪態をついて、チラリと視線だけ上げてみれば、彼のスッとしながらも男性らしいラインを描いた首筋と綺麗な口許までが見えたところで、視線は一気に急降下。

その唇が自分のそれに今の今まで触れていたなんて、そう意識してしまったらもうダメだ。


好きなひととキスをするって、はじめてのキスってどんな感じかな?
なんて、ずっと夢見て憧れてたけども。

これは、何…?
何回してもぜんぜん慣れない。


頬が熱い、耳まで熱い。
胸がきゅってなって苦しい。


なのに、なのにっ!!
人のことこんなにしてるこの人ときたら、やたら涼しい整った表情のままときまして。


(何か、ちょっと悔しい…)

そう思って、ささやかな反撃とばかりに香穂子は、ポスンと目の前の月森の胸に顔を埋めるように、身を委ねた。


「っ!? 香穂子?」

「………………」


少し慌てたような声が降ってきて、視界の端で綺麗な指の大きな手が空をさまようけども、それはみんな知らないふり。

どうせ今なら、この赤く染まった顔も見られないと、彼の背中に手を回してぎゅっと抱きついた。

どくん、跳ねた彼の鼓動がほんの少し速くなって走り出す。


(二人きっと、今、同じくらいだね?)


それが嬉しくて思わず小さく笑えば、観念したかのように彼の手が私の頭の上にそっとのった。

寄り添う温もり。
こんなにも一番近くにある音に耳をすませて…

あなたの音を感じていたい。
私の音を伝えていきたい。

重なるあたたかなリズムの心地よさに目を閉じて。
今だけはまだ、もう少し、こうしてそばにいてね──

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