happy blue moon


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2014.6.9 Mon :両想い
放課後の雨音


ポツン、ポツンと雨が打つ。

どんよりと垂れ込む灰色の雲の下、下校時刻となった星奏学院の周囲には色とりどりの傘の花が鮮やかに咲いていた。


「雨、止まないね」


練習室の窓を少し開き、外の様子をのぞいていた香穂子は、そう言ってちょっと息を吐きつつ、室内の彼の人に振り向いた。

彼の人こと、月森は答えた。


「今朝のニュースで、関東も今日から梅雨入りだと言っていた。しばらくは、こんな天候が続くだろうな」

「そっか…」


晴れない表情の香穂子に、月森は僅かに苦笑しながら手にしていた楽譜を傍らに置くと、窓辺へと寄った。

そうして、香穂子の背後から自分も同じように、外の様子を伺う。


「思っていたより空気が冷たいな。…香穂子、寒くはないか?」

「今はまだ、大丈夫。でも、外の空気ひんやりしてきたね」


夏服に衣替えした香穂子は、白地に淡いブルーのセーラーカラーが爽やかな半袖の制服姿。

それは、清涼感のある色合いでとても好感のもてるものだったが、今日のような陽気では少し寒そうにも見える。


『ちょっと止んでくれたらいいのに』と、窓枠に手をかけ曇天を見上げる香穂子のその手に、月森は自分の手を重ねて包み込んだ。


「!! れ、蓮くん?」


僅かに首だけ動かし、香穂子は後ろの月森を振り返れば、予想外に距離が近くて。

それだけで、月森の纏う薄い夏服のシャツごしに、香穂子よりも少し高い彼の体温が伝わる。


頬が、熱い。
包まれている手も何もかも、が。

トクントクンと鼓動が高鳴る。


それでも、月森から目を逸らすことができないでいる香穂子を、月森もじっと見つめていた。


鼓動にあわせて、ポツポツと雨粒が弾ける音が響く。


癖のない髪がサラリと揺れると、頭一つ分背の高い月森の顔がゆっくり、ゆっくり近づいて。

香穂子が瞳を閉じた瞬間、ふわりと柔らかく、温かな感触が口唇に重ねられた。





「雨、止みそうもないな」

「うん…」



降り止まぬ雨はヴェールのように二人を優しく包んで。


束の間、二人きりの時間。
雨音は甘やかな音を奏で続けるのだった。

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