初くろたん小説!と、ともに最終回記念。かなしいです、日丘先生の描く漫画大好きだから余計に。
今回はまだ付き合ってない宇佐十。
そのうち付き合ってる二人も書きたい。
「十色くん、コーヒーが切れちゃったみたいなんだけど。」
「あ、なら僕が買ってくるよ黒葉くん。」
「そう?ありがとう、十色くん。さすがオレの下僕だね。」
感謝されることが嬉しかったのか、ニコニコと黒葉を見た十色は、軽やかに事務所を後にした。天羽探偵事務所の日常は、この理不尽極まりないやりとりが大半だ。たまに俺と黒葉が喧嘩して十色が慌てるってのが追加されるけど。バイトの時はほとんど来れてないし、だから今日ここに来れたのも結構珍しい。
いつものソファーに座り込み、手帳をチェックしていると、珍しく黒葉の方から俺に声をかけてきた。きっと喧嘩ではないだろうから顔を上げる。
「うさっちさ、かなり十色くんに気に入られてるよね。」
「あ?」
意味がわからない。十色に気に入られてるのはむしろ黒葉の方だろう。あんなにも素直に好意を振りまいているのは、十色とストーカーの女くらいだ。
それに、俺は一度十色を殺しかけた。勘違いではあったものの、殺されかける恐怖をあいつに植え付けてしまったのは俺。許されるはずがない。守ると言いながら手にかけようとしていたのだ。好かれるわけないだろ。
「だって、うさっち十色くんに言われてたじゃん。殺人だけはしないでって。」
「あぁ、あいついい奴だよな。俺にそんな言葉をかけてくれてよ。」
「あ、そっか…うさっちは知らないんだっけ。十色くんの昔話。」
黒葉の言葉を目を見開いた。十色の話、そういえば聞いたことなかった。あいつ、なにか俺と会う前にあったのか。
あのさ、数ヶ月前の通り魔殺人ってあったでしょ、女子高校生が殺されたやつ。あぁ、犯人が自首した…あれか。あの女の子は、十色くんと両想いの子だったんだ。ふぅん。あれ?興味なかった、まぁいいや。それでさ、犯人の男子高校生、そいつ、十色くんが親友だと思ってた男なんだ。それで、十色くんに好きな子とられて逆恨み殺人、しかも十色くんにその罪を被せようとした。親友くんは、十色くんのことを親友だなんて思っていなかった。…なんだ、それ。
「もう、うさっちでもわかるでしょ。どうして、殺人だけはしないでって言われたか。」
「…おれが、ころしたら、十色はなにを信じればよくなるんだ。」
「さぁ、知らない。ただ、そうなった十色くんは、オレの手に負えない、かな。」
十色は、俺のことを親友だと思っているのか。試すために殺人を知らないようにいったのか。そして、あいつは…あいつの抱えた闇の深さはどれだけなのか。
知らないことだらけだ。もっと十色と一緒にいたい。もっともっと、あいつと。どうして、こう…俺は素直にならない。十色が俺をすきなんじゃない。俺が、あいつを好きなのに。
「うさっちー、うさっち、うさっちー?」
「うるせぇよ!…っち、まさかお前の言葉に気づかされるなんてな。」
「え、なにか言った?」
「なんでもねぇ!」
「ただいま、あー、また二人とも喧嘩してるの?ダメだよ。」
ガチャ、とドアを開けて入ってきた十色は、いつもの調子で困ったように俺たちに言った。それから、ドアを閉めて、くるりと振り返る。
「今日の天気予報雨なんだけど、十色くん降られなかったみたいだね。」
「うん、大丈夫だったよ。」
「残念。」
「ひどいよ黒葉くん!」
それも、いつものことなのにな。と我ながら子どもらしく拗ねてしまった。
「宇佐美くんもコーヒー飲む?」
「あぁ、頼む。」
じゃあ、待っててね。と十色がキッチンに行ったのを見送って、再びソファーに座りなおす。黒葉のいつもの黒い笑みを真正面に浴びながら。
「オレ席外そうか?」
「いらねぇよ!」
「え、宇佐美くんコーヒーいらなかった?」
ごめん、用意しちゃった。
十色は申し訳なさそうに俺に言うから、慌てて訂正するために立ち上がって肩を掴む。驚いて肩を震わせた十色に、また悪いって言って手を離した。ほら、やっぱりコミュニケーションはうまくとれない。黒葉がどんな顔してるか考えただけで最悪だ。
「…ありがとうな、十色。コーヒー。」
「んっ、ううん…だって僕助手だから。」
「下僕だよ、十色くん。」
あっ、そうだったごめんね黒葉くん。
あやまるなよ。
君はドジだなぁ、コーヒー淹れるのはうまいんだけださ。
ほんと?ありがとう、黒葉くんに褒めてもらえるなんて。
そんなに、黒葉がいいのか。
「俺の隣なら、助手になれるのに。」
はっ、として口を抑える。が、もうすでに遅かったらしい、お盆を落とした音が確かに聞こえた。恐る恐る顔を上げると、ひどく赤い顔をした十色がいた。
「あ、えと、…み、ミルクと砂糖もってくるね…!」
「待てよ、十色!」
「ッ…、」
逃げようとしていた十色の手を思わず掴んでいた。
「逃げるなよ、聞こえてたんだろ。」
自分でもわかる。怖い声で怖い顔なことくらい。でもこうでもしないと、十色の顔、見れない。
「…宇佐美くんの、助手になりたくないわけじゃないんだ。」
十色は、少し貯めてから顔を伏せ、寂しげに呟いた。
「でも、助手よりも…僕は君の、友達になりたくって。」
その言葉が耳に入り、理解するまでにひどい時間を要した。十色が、どんな気持ちで俺に接していたのか、ようやくわかった気がする。そんな十色に、助手になるように責めた俺の言葉が、今やもう恥ずかしいくらいだ。
恥ずかしさと、十色がちゃんと自分のことを考えてくれていた嬉しさで、俺は思わず十色を抱きしめた。
「っ、う、宇佐見く…」
「…っちくしょ、」
悔しい。自分さえよければと、いいや自分の隣にいることが正解だとたかをくくっていた自分が。
「宇佐見くん、これからも友だちでいてくれる?」
「当たり前だ、十色!」
そして、たまらなく嬉しい。もう目には十色しか映ってない。俺にとって親友として十色の隣にいれる意味は、なによりも大きいんだ。
「うさっちも十色くんもオレがいること忘れてんの。」
びく、二人して震え上がるようにゆっくりと首を回した。そこには、ボイスレコーダーとカメラを手にした黒葉がにやけ顔で座っていた。
「二人ともオレの前で弱みを出すなんて、」
「く、黒葉くん!」
「黒葉てめぇ!!」
俺たちが身を乗り出すと同時に、黒葉はそのカメラとボイスレコーダーを持ちその場から駆け出していた。
「う、宇佐見くんごめんねぇ!」
「こっちこそ周り見えてなかった!わりぃ十色、とにかく黒葉追うぞ!」
「うん、あっ、」
思わず十色の手を握ってたけど、今の俺にそんな意識はなくて、黒葉とこの探偵事務所にいる間は、まだまだ気持ちは伝えられなさそうだ。