それはこの間の日曜日の話である。

雲空のぽ子は母の運転する車に乗っていた。
助手席には父が、雲空の隣には妹が車に揺られている。

そう、その日は家族でドライブをしていたのだ。

細く長い山道が続き、車は重そうな体を引きずるようにしてかけ上がっていく。
時々走る速度が落ちる。
今にも壊れそうだ。
乗っている全員が危機感に襲われる。
朝に入れたガソリンはまだ満タンだ。
いつも以上に音をたてながら走る車。
雲空にはそれが助けてと言っているように聞こえた。

木々の間に見えた景色は段々と広がっていき、無事目的地に到着。
車は安心したかのように、振動を止める。
次に車のドアが開いた。
外は穏やかな風が吹いている。
寒い日が続いていたので外出に抵抗はあったが、珍しく気持ちの良い風だ。

ちょうどその日は晴れており、休日ということもあって他にも人がいた。
とは言うものの、両手で数えられる人数なので決して多いとは言い難い。

山の上では見上げる程大きな大きな風車が建っていた。
街中から見える風車なのだから、そこで街を覗けばありとあらゆる場所が見える。
自分の家が小さすぎてわからない。
この街はこれほどまでに狭かったのか。

展望台に登って見渡す。

だが、悲劇はそこから始まるのだった。

「ねぇのぽ子、ジャンケンで負けた方が滑ろうよ」
妹の視線の先にはすべり台がある。
そのすべり台、公園のものと比べると長いことは一目で解る。
それに加え、街が見渡せるような高さにあるすべり台だ。
そこから滑ったら山の斜面に向かって転げ落ちていきそうだと雲空は思った。
勿論終点は平らな砂場。
しかし周りには転落防止の為か緑のネットが張ってある。
冗談はよしてくれ。

だが条件はジャンケンでの敗北。

勝てばいいのだジャンケンに。
雲空は意を決し拳を差し出す。
掛け声と同時に腕を引っ込め、次にもう一度拳を突く。
妹は手を開いていた。

妹はニヤリと口元を歪める。
雲空はそんな彼女と目の前にある絶景に震えた。
手のひらを伝う汗。

座った背中に走る衝撃。

加速する。
動く景色。
ーいや、動いているのはー

なお、ここで伝えておくべき事実がある。
雲空は極度の運痴なのだ。

地面は近くなる。
手すりはあるが手が付けられずブレーキがきかない。
そこで足を広げるという選択肢があれば、今ほど痛い思いをしなくてすんだかもしれない。

猛スピードで先に地面に着いたのは…。


尻だった。


その時足は棒のように真っ直ぐで、尻を打った後は前のめりになったという。
勿論、意識はあった。

雲空は笑っていた。

ケツが痛いと訴えながら。