「石田!石田っ」
「…長曾我部?こんな時間に何の用だ。」
夜も深く、皆が寝静まった刻に、三成の部屋に訪れてきた元親。
周囲を気にしてなのか、妙に小声で呼び掛ける。
取り敢えずは障子を開けた三成だったが、何の用なのかは皆目見当がつかない。
「星…見に行かないか?」
「星だと?」
尋ねて、帰ってきた言葉は突飛なもので、いきなりのその発言に 唖然とした。
「今日、いい天気だっただろ?だから、星も沢山出てて、すげぇ綺麗なんだ!」
「別に、星など見たくはない。」
たかがそんなことで、部屋にやって来るとは、全く意味がわからない。
「そんなこと言うなって…見たら、きっと考えが変わるからさ。」
然して興味もないので正直に答えても、元親は食い下がった。
「……好きにしろ。」
「よしっ!じゃあ行こうぜ!」
結局、元親に甘い三成は、その提案を受諾したのだった。
「!」
連れられて来た先は、少し高台の平原。
見上げた空には無数の星。
「なっ、驚いたろ?」
「ああ、確かに美しいな…」
一面の星空、とはまさにこのことを表しているのだと、今なら納得出来る。
「綺麗だよなぁ…そういや、石田。死んだ人って星になるって言われてるの知ってるか?」
「知らん。」
そんな夢にしか出てこないような話に価値は無いのだから。
「何かさ、そういう言い伝えがあるらしくて…俺も、死んだら星になるのかなぁ…」
「貴様は星になど、なれない。」
そう呟きながら、ぼんやりと空を見上げている元親をあっさりと三成は切り捨てる。
「何でだよ!」
「貴様は、星ほど小さな光ではない。それに、私の居る内は、貴様を星になどさせるものか。」
束の間機嫌が悪くなった元親だが、三成の言葉に目を丸くした。
「石田…」
「私の手の届かない所へ行くなど、認めないぞ。」
星になどなられては、姿も見えない。
声も聞こえない。
そんなのは嫌だ。
「じゃあさ、あんたも…俺の手の届かない所へ行くなよ?」
「当然だ。」
「へへっ…」
「……」
はにかむように笑う元親と、微笑を浮かべている三成。
心地好い空気が漂う中、突然元親が声をあげた。
「おおっ、流れ星!」
指差した先には、一筋の光。
「あっ、また流れた!」
そう言いながら、彼は目を瞑り、何かを願っている。
「何をしている?」
「願い事。流れ星に三回願いを呟けば、それが叶うって。」
「馬鹿馬鹿しい…」
星に願いをかけても、叶う筈は無いし、他力本願など真っ平だ。
己が望むことは、己で叶えるべきだと思っているから。
…それに、元親の心が流れ星に向かったのが、何だか面白くない。
「そうかぁ?俺は結構そういうの、好きだけどな。」
「……」
しかし、彼の横顔は、真剣そのもので、本気で願い事をしているのだと悟った。
それほどまでに叶えたい願いとは、一体何だろう。
「貴様の願いとは、何だ?」
「教えない。」
「何だと…?」
即答で拒否され、僅かに苛立ちが募る。
「教えたら、叶わなくなるかも知れないじゃんか。」
「む…そうか…」
何故かそれに得心した三成は、それ以上問うことはしなかった。
「そうだよ。あんたは何もお願いしないのか?」
「私、は…」
…己が最たる望みは、とうに叶わぬものと成り果てている。
だが、もうひとつ。
「私は、願わない。私の望みは既に成っているからな。」
「そうなのか?」
「貴様の傍に居ることだ。」
「へ…」
予想外の願いに、一瞬元親の反応が遅れ、それから段々と頬に朱が差してくる。
「だから、願わない。」
「そんなの…卑怯だ…」
「何が卑怯なのだ。私は本気だぞ。」
真っ直ぐに見詰める三成に、元親は言うべき言葉が見つからないといった様子だ。
そんな元親を引き寄せ、三成は一言、傍に居ろと告げる。
重なる陰を流星が祝福していた。
後書き。
白鷺様、はじめまして!この度は企画に参加してくださり、本当にありがとうございます!
婆裟羅三親で甘々とのことでしたが、ご希望に添えているでしょうか?
元親は伝承とかは信じるタイプだと個人的に思っているので、星の話になりました。
こんなものですが、よろしければお受け取り下さいませ。
それでは、本当にありがとうございました!