8割程既にデキてる鬼柳×クロウから始まる話。
時間軸は満足同盟とVSダークシグナーの辺り、今回は町長さんいません。
途中、睡姦とも屍姦とも判断付かない部分がありますので要注意。
この世のすべてを闇に変えるダークシグナーの影響によってメリバエンドです。
というエア新刊。そんな話そんざいしないよ〜
ちなみにタイトルはめっちゃ笑う所。
久しぶりに更新しに来て謎のモノを投下して私は去っていきます。ごめんね、もったいない精神。
暑い夏が今年もやって来た。廃ビルが立ち並ぶサテライトは気温の変化に弱く、夏は異常に暑くて冬は非情に寒い。瓦礫に囲まれた区域は風が通り抜けず、コンクリートの建物は太陽の光を受けて熱を持ち、地面からはゆらゆらと蜃気楼のように熱がたち込めていた。エアコンなんて高価なモノがサテライトに住む人間の手元にあるはずがなく、冷房機器と呼べるものは遊星が拾ってきて修理した扇風機が不安定な電気供給の元で稼働しているだけだった。例えソイツが弱々しい力で生ぬるい風を掻き回すだけだったとしても扇風機は暑いサテライトにおいて大変ありがたーい存在であったはずなのに、何の気を損ねてしまったのか先程から羽を回さなくなってしまった。遊星はこのクソ暑い中ジャンク漁りに出かけてしまい、まあそのジャンクの山から拾い出してきたのがこの扇風機なんで彼の趣味に文句を言うつもりは一つもないが、もう一人の大男は「こんな暑いところに居てられるか」と怒りながらどこかへ行ってしまい、今はクロウと二人きり。クロウはアジトの中をウロウロと歩いているが俺はもう何もやる気が起こらない。日光が当たっていない壁へと近づき、ごろりと寝そべって比較的冷たく感じる床へ背中を押し付けて熱を逃がすことに必死だった。
用事が終わったのか涼しいところを探すクロウをチョイチョイと手招きをして隣に座らせた。手には水が入ったマグが二人分。オラよ、と額に押し付けられたぬるいマグを受け取って寝ころびながらそれを口にした。
「水分とらねーと熱中症になるぞ」
「え?『ね、ちゅーしよう』って言った?もしかしてチューのお誘い?」
「言ってねぇししてねぇし、頭湧いてんのか」
「えぇもう暑すぎてぐらぐらに沸騰してますよー」
ぐいぐいと一気に水を飲み床へマグを置く寸前で彼に取り上げられた。床に置くなって事だろうか。ごろりと再び仰向けに寝転んで、世界が反転する途中で見えた青空が気になって窓の外へ目を向けた。灰色のコンクリートの壁の間から見えるどこまでも透き通る青い空。広大な空はこの狭くて苦しいサテライトをどう見つめているのだろうか。俺達はこんな濁った場所で燻っているわけにはいかないんだ。ふわりと流れ込んできた心地よい風のように、俺達チームサティスファクションは腐敗したサテライトを一つに纏めて新しく蘇らせるんだ。最初はそう意気込んでいたんだ、始めはな…。
窓の端から白い雲が顔を覗かせた。モクモクとたち込めていくその姿はきっと入道雲だろう。再び冷たい風が吹き込んだ。隣で座っていたクロウが洗濯物を取り込みに立ち上がり、俺はその背中をじっと見つめていた。もうじき雨が降るだろう。
クロウが洗濯物を抱えて戻ってきた。ばさばさと床へ放りこみ、再び俺の横に座ってそれらを畳み始めた。当然のように俺の隣へ戻ってきた姿に何だか嬉しくなる。それと同時にこみ上げてくる苦しい感情。
「おれ、雨って苦手なんだよな〜」
「俺も嫌いだよ、洗濯物乾かせねーし」
「違うって、こう…なんか……どう言えばいいんだろ」
「何言いたいんだよ、やっぱ頭湧いてんな」
「あのさ、クロウはさ、ずっと俺と一緒に居てくれる…よな?」
上半身を起こして、洗濯物を畳んでいた彼の手を握りしめた。この気持ちはどうしたら晴れるのか。太陽のような彼なら明るい光で不安定な心を正しい方向へと導いてくれるのではないだろうか。そんな勝手な期待を彼に寄せてしまう。大好きだクロウ、何もない俺にとって唯一なんだ。うまく言葉にできない俺は震えそうな手で逃さないと掴む事しかできない。
ザァ…と聞こえてきた雨の音。何かを言おうとして口を噤んだクロウ。俺に何を言おうとした。揺れる灰色の瞳を覗きこむ。
「俺も、一緒に居たいと思っているよ…」
「く、クロっうぷっっ……」
一瞬だけ合わさった視線は瞬く間に逸らされ、そっぽを向いたクロウの口からこぼれ出てきた言葉に鬼柳は身体を勢いよく起こした。そのまま飛びつこうとするが、鉄砲玉のクロウ様の早さには敵わず顔面に夏の熱気を吸い込んだほかほかのタオルが押し付けられ、再び地面へと押しつけられた。気持ち良い温度が心の中へじわじわと染み込んでいく。ああ、やっぱ俺の太陽は希望の光はクロウなんだ。覆い被さるタオルを少しズラして彼を盗み見ると、めずらしく頬と耳を赤く染めて左手で顔を隠して、なんて可愛い表情をしているんだ。
2016-8-11 23:07