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街中の美人さん【TOX:アルバラ】




【街中の美人さん】


特別煌びやかな衣装を纏っているわけでもない。
個性的なメイクを施しているわけでもない。
ただそこにいるだけで空気が変わる、そんな人間が本当にいるのだ。
男だろうが女だろうが道行く人々誰もが振り返る、分類するならば典型的な美人のカテゴリーに入る、そんな人。
そのような人間が本当にいるのだとアルヴィンが知ったのは、皮肉にも幼い頃からよく知る従兄の理解し難い一面を見た瞬間からだった。


「アルフレド!トリック・オア・トリート!」

エレンピオスにあるマンションの一室。
朝一で従兄にどうしても自分にしか頼めない用事があるからと言われ、リーゼ・マクシアでの仕事を切り上げエレンピオスに帰ってきたアルヴィンは早々に帰ってきた事を後悔することになる。

先程の言葉を高らかに宣言し、目の前の従兄−バランは両腕を広げあからさまな動きでお菓子を催促する。
普段の冷静な脳であれば従兄のイタズラは洒落にならないだとか自分の方が年下なのだから菓子を貰うのは自分だろうとか様々なツッコミを繰り出すことが出来たかもしれない…が、今はそれどころではなかった。
とりあえず冷静な思考を妨げる原因である従兄の全身を見つめ、言葉を紡ぎ出そうと空気を手繰る。
だが出てきたのは言葉というより心の叫びだった。


「…おまッ…何て格好してんだよ!!!?」

ぜーはーと息を切らせながらやっとの思いで声にした俺を、バランはさも不思議そうな眼差しで見つめてくる。

「何…って…仮装?ハロウィンだよ、知らないの?」
「ハロウィンは知ってる!」
「じゃあアルフレドも一緒に」
「着ねぇ!!!!」


当然のように仮装と言い張るバランに一瞬自分がおかしいのかと勘違いもしたが、明らかにこれは仮装ではなく、女装だ。
そう、バランが纏った服は白衣やマントなどの恒例の仮装ではなく、白のブラウスに黒のワンピース、胸元には深紅のリボンを付け、裾やウエスト部分にはフリルをあしらった…そう、アレだ、メイド服。
しかもそれを自分にも着せようというのだから質が悪い。
なお悪いことに、そのメイド服はバランに絶妙に似合っていた。
なんというか、男の自分ですら何かよからぬ想像をしてしまうほどに。


「…で、何すりゃいいんだ?」

そこで本来の目的を思い出し、さっさと片付けてしまおうと問いかける。
だが帰ってきた返答は思いもよらぬ内容だった。

「うん、これを着てね、俺とデートして欲しいんだ。」






**************

続かない。


罪、かもしれない【TOXアルレイ】



【罪、かもしれない】


ざわざわと揺れる木々の間を縫って数人の旅人が通る。
見かけには旅人とは思えないような、子供に男女に老人までと珍しい組み合わせだ。


「でね!次の街に行ったら見てみようと思って!」
「レイアは面白い話をたくさん知ってるんだな。」
「ミラも一緒に行こうよ〜っ」


レイアと呼ばれた少女は年頃の少女らしくくるくると表情を変えて仲間に話しかける。
その話に興味深そうに相槌を打ちながら、女性―ミラは微笑んだ。
楽しそうに仲間と喋る姿は子供っぽくもあり、また等身大の彼女を映しているようでもあった。

そんな彼女達を後ろから見守る青年が一人。
彼もまたその談笑に耳を傾ける一人だった。




広大な野原に爽やかな風。
大自然が広がる美しい風景の中、アルヴィンは自分の回りの空気が変わっていくのを感じた。


「みんな、来るよ!」


それまで楽しそうに談笑していたレイアの愛らしい笑顔がさっと厳しい顔付きに変わる。
この美しい風景にはそぐわない爆音―と同時に鋭い刃物が振り下ろされる。
このあたりでは珍しくもない、魔獣の類。


「…またか。」

心の中で悪態をつきながら身の安全のため獲物に手をかける。

颯爽と飛び出して行ったのは、レイアだった。

小さな身体には余るほどの長さの武器を操り、踊るように舞うように、だが確実にダメージを与えていく。
倒しきれない敵には仲間がとどめを刺し、仲間を背後から襲う敵あれば目敏く見つけ攻撃を加える。
チームプレイをよく理解し、少女という器には似合わないほどに戦いに慣れている。

そんなレイアに迫る影が一つ…空中を飛び廻る獣だった。
地上にいる見える敵であれば倒すことは容易だが、空中から迫る敵には気付けなかった。

「っ…!おい!」

獣の尾が今にも少女の頭部を直撃しようとした瞬間―

「レイア、危ないっ!」
「えっ!?」

走り込んできたジュードの刃が、敵を貫いた。
間一髪、獣の尾はレイアに命中することなく力なく地に墜ちる。


「ありがと、ジュード!」
「…怪我がなくてよかったけど…気をつけなきゃだめだよレイア。」


わかってる、と軽く返すレイアとジュードの会話を視界の隅に捉えながら、アルヴィンは最後の敵を手にかける。


「全く…何考えてんだか…!」

あの瞬間に沸き上がったよくわからない感情と憤りを抑え、戦闘後の猛った心を落ち着ける。


…たしかにレイアは戦闘慣れしている。
だがそれだけに油断も生まれるものだ。
本人が気づかなくとも、あのような危機に見舞われたのは一度や二度の話ではない。
放っておけば命にかかわることでもあり、複雑な気分だった。

…いや、たしかにそれもあるが、この憤りは違うところから来ている…自分でも薄々気が付いてはいた。
いつどんな状況に置いても、レイアを守りきれない自分が、ひどく腹立たしい。
彼女を危険に晒したくない一方で、助けるならば自分が、と身勝手な思いが全身を駆け巡る。
戦場では一秒一瞬が命取りだ。
自分のエゴが、彼女を殺すかもしれない。


「俺、大人なのになぁ。」

自嘲気味に呟いた言葉は、誰の耳に入ることもなく虚空に消える。
出会ったときはただの少女だと思っていた。
彼女はよく笑い、よく怒り、ときには拗ねたりまた笑ったり。
忙しく変わる彼女の表情に、気付けば心奪われていた。
そんな自分を認めたくないのもあるが、何よりも彼女を傷つけることだけは…それだけはあってはならない。
一歩間違えば彼女の命を奪いかねない、この想い。
いや、なによりも少女を想うこの気持ちそのものが。


「ガキ相手に、このザマか…」

自分を縛る、罪であると。


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だけど、バイバイ。【WA4アルラク】




【だけど、バイバイ。】


いつかその日が訪れると、たしかに知っていた。




まだ涼しい風の吹く夏の早朝。
さらさらと音をたてて揺れる葉を見上げながらそっと体を起こすと、洗い立ての真っ白なシーツがくしゃりと歪んだ。
心地好い爽やかな朝陽が差し込む窓を開け放ち、ラクウェルは一人物思いに耽る。

想像を絶する数々の困難や不幸に出逢ったと、我ながら自負出来る。
懐かしむにはまだ早すぎる三人の仲間達との長くて短い旅を終え、今自分は再び旅をしている。
今度は一人ではなく、かつて仲間であり、今ではかけがえのない想い人となった青年−アルノーと共に。





自分がここまで欲深い人間だとはほとほと知らなかった。
忌まわしいあの悪夢、しかし身体を蝕む傷跡が確かに現実だと告げるあの事件以来、自分は女としての幸せを捨てた。
身体全体に及ぶ重度の火傷跡や何度も何度も切り裂かれた手術の痕。
治る見込みがないとわかっていてなお、唯一の生き残りとして、検査の対象として、幼い身体を切り刻まれた。
加えて身体の内部から蝕む見えない戦争の後遺症。
自分の命がもう幾許もないことなど、自分が一番理解していた。
それなのに。
今の自分はどうだろうか。
隣に立って優しく微笑みかけてくれる想い人、アルノーに愛されたい。
もっと一分一秒でも長く、彼と同じ世界を生きたい。
それは抱いてはならなかった、決して叶わぬ願い。


アルノーとの旅の目的は、ラクウェルの治療法を探す旅だった。
あるとも知れない、いや無いに等しいものを探す旅。
だが彼は決して諦めなかった。


自分の我が儘で、景色の良い道や綺麗な町並みで有名な街を優先して訪れるようにしている。
つい先日の旅でも思ったが、世界は荒廃しているように見えて、其の実意外にも自然が残っている場所は多かった。
新緑の若葉を小高い丘から見下ろし絵筆を取る。
アルノーはその隣でこちらをちらりと見遣り腰を下ろす。
一分一秒でも、長く。
ただそれだけの願いのために今日も世界中の綺麗なものを見て回りたいという願いを叶えつつ治療法探しの旅は続いた。
美しい植物に囲まれ、鳥の囀りに耳を澄ます。
身体全体で自然を感じながら、そっと瞳を閉じた。







ふと目を開くと、まだ涼しい風の吹く夏の早朝。
さらさらと音をたてて揺れる葉であろうものを見上げながら、階段を上ってくる心地好いリズムに耳を澄ませる。
隣には暖かく愛おしい温もり。
とても懐かしい夢を見た。
かつての仲間に別れを告げ二人旅を始めてから2年、結局治療法が見つかることはなかったが、私は今世界中の誰より幸せだと思う。
陳腐なセリフだが、今の自分を表すにふさわしい言葉だ。
身体を蝕む病の進行は奇跡のように止まってくれるなどということはなく、始めは身体の先端から、そして視力、聴力を奪い徐々に死へと近付いていった。
それでもこの街の澄んだ空気と清らかな自然が私の命を長らえさせてくれた。
溢れる自然と医療施設、そして何よりも街の住人の優しさからこの地に留まることを決めた夜、ここで二人は永遠を誓った。
そして小さな木造二階建ての一軒家で愛する人とその子供まで授かり、家族3人で暮らすこととなった昨夜。
溢れる涙が止まらなかった。
私は愛しい家族を遺して一人果てるのだ。
大人になれぬと告げられたこの身は成人を果たし、愛する人と結ばれ、子を成すまで耐えた。
医者からは出産はもたないと言われていたのだからこれは奇跡なのだろう。
隣に眠る愛しい我が子の顔が霞んで見えるのは病のせいか涙のせいか。
私にはもうあの日窓から見た若葉も朝陽も見ることはできない。
頭の中に白いもやがかかったように、世界が霞んで見える。
ついにこの日が来たのだと、確信した。

ただ彼と子を置いて一人逝くのが、とてつもなく惜しく感じた。




カチャリ、と扉の開く音が聞こえた気がした。

「おはよう。身体は大丈夫か?」


耳元で聞こえる愛しい彼の声。
だが何を言っているのかまではわからない。
ちらりと目だけやれば白くぼやけた雲の遥か向こうに幼い赤子と彼の姿。


「辛いなら無理しなくていいからな。……ラクウェル…?」


もうこの耳は音を拾わない。
視界の全てが光に包まれて、うっすらと輪郭が浮かぶ。
死とはこういうものなのか。
ずっと、人間は暗闇に包まれながら一人ぼっちで死んでいくのだと思っていた。
だが今私の胸にあるのは平穏と安らぎ、そして隣にいてくれる家族への愛。


光に向かって手を伸ばすと指先に何かが触れた感覚。
―やわらかな彼の髪。
そっと手を引くと、また何かに触れた。
―愛しい我が子の頬。
見えなくとも何であるか理解できた。
それがとても幸せなことのように思え、同時に言葉に出来ない感情が込み上げた。
出来ることならばずっと傍にいたかった。
可愛い愛娘の成長を見守って、抱きしめて、たくさんの愛情を注ぎたかった。
生まれて生きて一日も経たない我が子。
いつか「ママに会いたい」などと言う日がくるのだろうか。
だけど…さよならだ。

―どうか、貴方と愛しい娘を置いて逝く私を、許してほしい。


ラクウェル

名前を呼ばれた、気がした。

真っ白な雲に飲み込まれそうになる頭と視界の中、私は世界で一番美しい光を見た。
薄れゆく意識の中、そっと口を開く。
風に乗せて紡ぐ音は、私がこの世に生きた証。


私は…世界で一番美しいものを見つけた…。


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