時計を見やれば、6:30を示す針。




ざわつく気持ちが落ち着かず、
部屋を見渡せば見慣れた黒い封筒。



…………まただ。




恐怖心に駆り立てられながら、ガウン纏い
封筒を手に。
部屋を飛び出した。






「ジャミル…!!」



オレが唯一甘える事ができる相手。
誰にも話せないような悩みだって、ジャミルならいつでも親身になって相談に乗ってくれた。


…オレの配慮が足らず、苦しめた事もあったけど
今もこうして対等に扱ってくれている。





「どうしたんだ、カリム」


ジャミルの部屋を尋ねれば、すぐ中へ招き入れ。
いつも温かいチャイティーを入れてくれた。
礼を言ってオレはそれをいつも通り、カップを口に運ぼうと両手を伸ばし異変に気付く。





「え………、なんだ…これ」





急いでいたから気付かなかった。
羽織ったガウンには、べったりと何か薄く白い汚れが出来ていた。



「……カリム、」




慌てて脱ぐように促され、ガウンを脱ぎ捨てる。
ジャミルは急いで自分の羽織を貸してくれて、冷たい目線をガウンに落とした。








「…本当は、此れのことで来たんだ。

…でも、さっきのも含めて…聞いてくれないか?」





オレまで床のガウンを見つめ、
例の手紙をポケットから出して見せる。


ちらり、と。
ジャミルは視線を絡め、黙って頷いた。
オレの向かいに座って腕を組んだまま、支離滅裂になりつつあるオレの話を聞いてくれた。



ーーーーー今朝の手紙は、今日が初めてじゃない。


ここ数ヶ月続いていて、
最初はただの匿名ラブレターだと思って喜んでた。
でも、だんだんと内容が怒りっぽくなってきて怖いものに変わっていく。



気にし過ぎかもしれないが、最近じゃ寝る前やふとした瞬間に感じる
視線。威圧感。ついて来られるような足音。
部屋の暗闇で感じる人の気配。
うたたねの記憶で、髪を撫でられる感覚。




「…まだ誰にも話せなくって、」





「なるほど」

オレの話を聞き終えると、ジャミルは伏し目がちに床を見つめた。


「…オレ、怖くなっちゃってさ」

「うん」

「でも、犯人に心当たりも全くないんだよ」








「カリム」




「…?」


「ーーーー俺が見張っていてやろうか、?」



「えっ…いいのかっ?」

「勿論。
お前が構わないのなら」




やっぱりジャミルは頼りになる。
隠しきれずに笑みが溢れてジャミルに抱き着こうと、椅子から立ち上がって、直前で思いとどまる。



「…っと、ごめん!」




その鋭い視線に、
あの時のことを思い出す。



『お前なんか、大っ嫌いだ』




あの時のジャミルは、本心だったかもしれない。
ーーーー頼り過ぎたり、無下に絡むのはジャミルに嫌がられてしまう。






伸ばしかけた両手を、不自然だけど
できるだけジャミルに嫌われないように。
控えめに万歳をしてみる。



「…ふん、

まったく大袈裟だな」







鼻で笑ってても、目が笑ってない。
もうオレたちは昔みたいにほんとに笑えないのか。



また胸がきゅうっとして、痛い。

痛みを隠してオレはまた笑顔をつくる。







「…では、夜に行けばいいか?」

「ああ、よろしく頼むよジャミル!」









約束を取り付けたことにオレは安堵した。





たったのそれだけ。

それでも嬉しくって、幸せで。

1日があっと言う間に過ぎていく。ホリデー中に実家で見せてやる日記とは別。
オレだけの日記を開いてペンを手にした。






ジャミルが壊れたあの日から付けてる日記。






大切な友達だから、
今度は。いや、これからは絶対に
嫌われないように。


オレが間違えないように、
連ねていく。







良かったこと。
ジャミルが話を聞いてくれた、
心配してくれた、
守ってくれると言ってくれた、
ちゃんとお礼を言えた、
抱きつくのを我慢した、
授業で寝なかった、
教科書を忘れなかった、
大きな失敗をしなかった、
部活を頑張った、
ケイトに褒められた!
次の部活が楽しみだ




良くなかったこと。
慌てて部屋に押しかけた→ 寝てたら怒るから、ゆっくり行く!大声を出さないようにする!
抱きしめようとした→ジャミルはそういうの嫌い、動く前に考えて行動する!
ノートを忘れた→迷惑をかけるから前日に2回チェックする!
ターバンがうまく巻けなかった→もっと練習する時間を増やす!
汚れた服をすぐ捨てようとした→センタクをすれば着られる!センタクを覚える!!





「…あとはー…えーっと」


ーーーなによりもジャミルが来てくれる、
それだけでも安心して眠れることに睡魔が襲った。





今日一日をこうして遡ってると、
いつも眠くなってしまう。



開いたページに頬を乗せ、このまま眠ってしまいそうになる















「………じゃみ………むにゃ」


名前を呼びかけた相手を、待つこともできず。
猛烈に遅いくる眠気の波に飲み込まれた。