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然う言ひながら東川は、型の古い黒の中折を書類入の戸棚の上に載せて、
玉太郎もマルタンも、あきれてしまった。
そのむこうの、大きなテーブルには、――テーブルといってもやはり空箱を四つばかりならべて、その上に布をかぶせてあるものだが――巨漢モレロが、山賊の親方のように肩と肘とをはり、前に酒びんを林のようにならべて、足のある大きなさかずきで、がぶりがぶりとやっていた。彼の眼ぶたは下って、目をとじさせているようだったが、ときどきびくっと目をあいて、すごい目付で、あたりを見まわす。
「……おれが許すんだ。今日はのめ。……うんとのめ……文句をいう奴があったら、おれが手をのばして、首をぬいてやる。なあ、黄いろい先生」
黄いろい先生といってモレロが首をまわした方向に、張子馬がしずかにテーブルについていたが、玉太郎とマルタンが、青い顔をしてかけこんで来たのを見ると、彼はさかずきをそっと下においてたち上った。そしてモレロの頭ごしに、玉太郎たちに声をかけた。
「なにか一大事件がおこったようですな。何事がおこりましたか」
感情をすこしもあらわさないで、中国の詩人は、しずかにたずねた。
「たいへんです。恐竜の洞窟の中で、みんなが遭難してしまったんです」
「ロープが切れて、みんな崖の中段のところに、おきざりになってしまったんだそうだ。すぐみなさん、救援にいって下さい」
「それは大事件ですね。ロープだけでいいのでしょうか」
張は、冷静にたずねた。
「ロープと食糧とあかりと……それから薬がいる」と玉太郎がいった。
「ロープはいちばん大事なものだ。たくさん持っていく必要がある。そして早くだ」
マルタンは、何が大切だか、よく心えていた。
張子馬はうなずいた。そして水夫のところへ行って、
「おお、ノルマン。遅かったじゃないか」
船長ノルマンが、部屋に姿をあらわすと、ポーニンは、手にしていたハイボールの盃を下において、つかつかと入口へ、ノルマンを迎えに出た。
「どうも、骨をおりましたよ」
そういって、ノルマンは、ポーニンが、もっとなにか云い出しそうなのを手でせいして、入口のとびらを、ぴったりとじた。
「おい、結果を早く聞こう。あれは、どうした。そのすじの密偵を片づけることは?」
「あははは、もう安心してもらいましょう。あいつは二度と、この船へはやって来ませんぜ。万事すじがきどおり、うまくいきました。蛇毒で昏倒するところを引かかえて、あの雑草園の下水管の中へ叩きこんできました。死骸は、やがて海へ流れていくことでしょうが、それは永い月日が経ってのちのことで、そのときは、顔もなにもかわっているし、この船も、このサイゴン港にはいないというわけです」
「そうか。それはよかった。ハルクには、特別賞をやらにゃなるまい」
「そのハルクも、序に片づけておきましたよ。万事片づいてしまいました。あとは、一意、われわれの計画の実行にとりかかるだけです」
そういっているとき、部屋の扉を、とんとんとたたいた者があった。
ポーニンとノルマンは、顔を見合わせた。
「誰だ」
と、ノルマンが声をかけると、
「はい、私で……」
と、はいって来たのは、事務長だった。
「なに用だ、事務長」
「なんだか、へんなやつが、船へやってきましたよ。ロロー船長がこっちに来ていないでしょうか、と、たずねているのです」
「なに、ロロー船長?」
ロロー船長というのは、警部モロのことだった。
性 別 | 男性 |
年 齢 | 38 |
誕生日 | 6月3日 |
地 域 | 北海道 |