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(没)




 嵐で揺れる波が船に打ち寄せ、船体は揺り籠のように揺らぐ。船底に位置する船長室内にも、風が海上で鋭く吹きすさぶのが聞こえてくる。室内の明かりは木製の机に置かれたランプのみ。
 ベッドの真向かい、部屋の一角に角をぴったりと合わせた机上には、ランプの他に書きかけのまま放り出された日誌と羽ペン、読み途中の医学書や小説が数冊ほど立てかけてある。
 ベッドの中からそちらへ目を向けていたローは、腕に閉じ込めたルフィが身じろいだので視線をずらした。
 収まりが悪いのか、ルフィは眉間に少し皺を寄せてローから身体を離そうとする。ローはそれに合わせ、ルフィの頭の下に手を差し入れて寝やすい姿勢を取らせてやった。するとすぐに大人しくなり、自分の頭を支える刺青の手に頬を擦りつけてくる。ローは知らず知らず頭から頬と撫でて、布団の乱れを整えた。
 すっかり子供に対する母親のような世話焼きが板についてしまったと、外科医は自分を振り返る。生ぬるいことをしている自分への苦い思いがありつつ、それで愛欲が満たされている心地良さというなんとも言えない心境の中で。

(麦わら屋と関わりを持ってから、自分が他者に対しバカに寛容になっているのを認めざるをえない。クルーの暇潰しの話題にも上るほどだ、余程侵食されてやがる……)

 このようにつらつら思考していたが、唐突に部屋の隅からまるで煙が上がったような気配を感じて顔を上げた。先程見ていたランプの置かれた机のからである。
 ローは、来たか、と声を出さずに口の中で呟いた。
 机の足元から薄ぼんやりした黒い靄が立ち昇りはじめていた。脚の木目からしみ出るように漏れてくる。一定の量まで出てくるとそれ以上靄は出なくなるが消えることはない。不定形なひと塊になって机上にたちこめる。
 この現象は二週間程前からずっと続いている。





ーーーーー



つまんねーからやーめっぴ。

(無題)




 お前を象って創りあげた砂糖細工の人形は、さらりとなめらかな質感の白い肌、香ばしいアーモンドの瞳をくりくりさせ、繊細な飴糸の睫毛も鋭い、本人とは似ても似つかぬ麗しい少年であった。全長は百五十センチ。可愛らしい手の先の露とこぼれそうな指先といい、研磨された水晶のごとき丸い膝といい、それは確かに人のナリをした己の欲望の姿だった。だからこそ、この歪な人形は己の目にだけ輝いて映る。他人の眼球を通せばおぞましい造形物にしか見えなくとも、私の目にはクリスタル以上にまばゆいもの。それこそこの人形が私だけのものである証になる。ああ、見よ。仔鹿のよな細い脚を。洗練された筋の具合を。健気に身を支える巧緻な足を!甘く香る錯覚さえ覚えてしまう。いや、もしかすると本当に匂うのかもしれない。なにせ唇にはストロベリージャムのグロスが光る。鼻先を近づければ天国だ。苦心して徳を積み往生せずとも、こんなに簡単に浄土へといける。人生は薔薇色である。そう、彼の熟れた頬のように……。
 それに比べて、現実のお前のなんとふしだらなことか。夜な夜な、糧を求めて彷徨う乞食のように男を探し、誰彼構わず誘惑する。熱い吐息と濡れた言葉を吹き込んで、濃厚な、欲情をさそうフェロモンをかもし出し、蛇のように足をからめる。すれば、どんなに男色に興味のない男でも誘蛾灯に惑わされた羽虫となる。巧みな嬌態、快楽を呼び起こす手練手管。さながら熟練のマジシャン。それはもう男娼の天才と呼ぶに相応しい。





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何を書きたかったのかはなんとなく分かるが、もうこれ以上を書く気は起きそうにないのでここへ捨て。

ひたすらに気持ち悪いインゴ氏ですが、これはもう今の私のインゴ像からは外れております。
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