同棲というものは、眩しくてたまらないものも、ありふれた日常として同化してしまうのだろうか。と、僕はいつすもと違う匂いに包まれたベッドの中で考えていた。本日、朝八時過ぎのことである。( 11日のことだ。また寝落ちしてしまい、勿体無いので記事を上げることにした)

目が覚めたら、いつもと違う場所で寝ていた。高さの違う枕、少し広めのベッド、そして僕のものとは違う匂い。ん?あれ?あれ?と夢心地の中、ぼんやりとした意識の中に芽生えた違和感がちりちりと頭の隅で点滅した。考えるまでもなく、今寝ているベッドは同居人、同棲人?のもので間違いない。なら、何故ここで寝ているのか。

ここでひとつ。最近記事を書けなかったのには理由がある。まあ至極どうでもいい理由なのだが。
記事を書こうとこたつに潜り込み、だらだらと文字を連ねていたらこたつの人をダメにする温もりにまんまとやられて寝落ちしてしまった。それが四日ほど続いてしまい、同居人もとい同棲人?が「風邪引くで」と毎度優しく起こしてくれて僕のベッドへと誘ってくれる。僕がそれを思い出すのは朝起きて、中途半端に書いてある記事を見たときだ。ああ、そういえば運んでくれてたなあとぼんやり。そして、その中途半端な記事を消すたびに僕の中でちょっとした悲しみが生まれてそっと霧散する。綺麗さっぱり。

そういった経緯で、僕はまあ普通に
みやくんがここに運んだんだなあと推理でもなんでもない結論に至った。僕は進んで一緒に寝ようとするガラではない。

「あ、起きたん?よかった。今日スズちゃんと買い物行くんやろ。もう八時過ぎやで」

ドアを開かれて、スーツを着たみやくんがひょっこり現れてそう言った。僕は寒さから逃げるように布団に顔を埋めて呻き声で応えた。

「ハル」
「ん、起きるって」
「俺はもう出るからな。起こしたること出来んからもう起きとけ。朝飯は作っといた」
「ありがとう」

今日はせっかくの休みだと言うのに、どうしても急ぎの仕事があるらしい。後輩のミスをカバーする先輩の鑑だ。僕だってカバーくらいするけどね。うん。

「じゃ、行くわ。昼には帰ってくるなら」
「ん。またあとで」

布団の中からひらひらと手を振れば、ずんずんと近づいてきたみやくんに元からボサボサの僕の頭を犬を撫でるみたいにわしゃわしゃと撫でくりまわした。

「行ってらっしゃいくらい言え、アホ」

そんなことを言って撫で回すので、やめろやめろやと振り払った。それを楽しそうに眺めていたみやの視線に耐えかねた。甘ったるい。朝から胸焼けがしそうなほど。

「あーもう、なんなん!なんかに触発されたんか!?」
「いや、前からちょっと憧れててん。なんやったかな。ドラマか漫画で見た」
「どんな願望持っとんねん」
「まだまだやりたいことはある」
「わかった、わかったからはよ行ってこい!遅れんぞ!」

僕はみやくんを追い出した。彼の部屋だけど。笑い声が聞こえていたが、本当に行ってきますのノックがに二回聞こえて、部屋はしんと静まり返った。

なんともまあ、自分と違う匂いは落ち着かない。僕に、みやくんの匂い安心する〜とか包まれてたい〜とかいうバカみたいな可愛げなど一切持ち合わせていないので、ちゃんと今後は自分のベッドで落ち着いて寝ようと誓いを立てた。いっそ、そんな可愛げがあればすべて簡単だったのかもしれない。と思う。
今、こうして思い出しながら書いていると気づくことがある。

僕はいつしかみやくんの優しさや温もり、その全部に粉々に砕かれ、跡形もなく殺されてしまうんじゃないだろうか。
彼はとても優しい。僕が苦手な他人の体温や触れ合いを、そのギリギリのラインを見極めてくれる。たまに超えては僕を怒らせ、その表情を楽しむ悪趣味なところもあるけれど、本当に僕が嫌がることは絶対にしない。みやくんが生んだその距離感を僕はいとしく思う。

僕たちはまだ子どもだけど、少しは大人になったはずだ。大人、ぶっている。

のそのそとついにベッドからでた僕はテーブルに並べられたハムエッグとサラダを見つけた。トーストは自分で焼き、スープは即席スープ。テレビをつければどこのチャンネルも議員の不倫騒動で持ちきりだった。

僕はその後、女友達のスズちゃんの連れ添いという名目で自分へのご褒美チョコを嬉々として買いに行った。スズちゃんは彼氏へのチョコをすごく悩んでいて、僕はみやくんへのチョコをすごく悩んでいた。途中でルタオのソフトクリームを分け合って、試食をしまくって無事に帰ってきた。スズちゃんの彼氏は僕のことを信頼しているのか舐めているのか「ハルさんは人畜無害っていうか、牙のない狼っていうか。スズのこと、頼んます!」っていつもにこやかだ。なんだよ、男としてちょっと複雑だ。

家に帰れば、みやくんはとっくに帰ってきていたので普通に買った酒入りのチョコを渡した。そうしたら、凄く嬉しそうに受け取るから驚いた。

夜は奮発してお金を出したまぐろで鉄火丼を作って、クリームチーズの和え物と枝豆をつまみに日本酒で晩酌。

僕は、思ったよりもこの生活を気に入っている。一人で生きていけるんだと思っていた僕が、今では無理じゃないかと諦めかけてしまうほどに。
僕の中では、なんでもない日常でもきらきらと輝く宝物だから、それがいつまでも特別であればいい。そうであってほしいのだ。

随分と長い記事になって申し訳ない上に昨日の内容なのだが、優しく許してやってほしい。いつも読んで下さるみなさまに感謝を。