博愛+愛玩=博愛玩


双子の悪魔(没ネタ2)
04/25 17:18 創作小説




双子の悪魔(没ネタ1)の続きです。


----------



街のすぐ近くまでやって来た親子達。
娘はまだ、父親の背中で可愛い寝息を立てながら眠っていた。
その一方、夫婦は背筋が凍る程の緊張感に襲われていた。
何かが起こった訳でも、何かが居る訳でもない。
寧ろ、何もないのだ。
それなのに、夫婦達はその場から動けなかった。
まるで…この先に、何か良くない事が待っているのだと、本能が叫んでいるみたいに…。
けれど、このままでもいられない。
父親は、意を決して前に進む。
母親もまた、差し出された父親の手を取りながら歩き始めた。


少し歩くと、ようやく街に着いた。
けれどいつもと違う街並みに、夫婦は不安を覚える。
いつもならこの時間帯、賑わいの声が聞こえている筈だった。
家の明かりも、街灯すら消え、月明かりだけが街中を照らしている。
まるで、この街に誰もいなくなったと思わせるほどの静寂が、更に二人を不安にさせていく。
夫婦は足早に家に向かった。
このまま外にいる事が危険なのだと、察したかのように。
だが、それはもうすでに遅かった。


突然、夫婦の視界が真っ暗になった。
…影だ。
父親は恐る恐る、後ろを振り返る。 するとそこには、
翼を生やした天使が立っていた。
ほっと安堵しかけた父親が、何かおかしい事に気づく。
先程見た天使の翼は、暗闇だというのに純白だとわかる程真っ白に輝いていた。
だが今は違う。
月明かりを浴びても尚、漆黒の色をしていたのだ。
漆黒の翼…。
父親は、天使の他にも、翼を生やしている生き物の名前が脳裏に浮かん だ。
この世界で一番恐ろしく、邪悪な生き物…悪魔。
“目の前にいるのは天使ではなく、悪魔だ”
父親がそう認識した時だった。
悪魔はニタリと、汚らわしい笑みを浮かべたのだ。
その笑みを見た瞬間、父親はぞっと体を震わせた。
“殺される”
そう思った時、ぎゅっと右手に力が込められた。
母親だ。
父親の手を、震える手で力いっぱい握り締めている。
父親はそんな母親を見て、少しだけ冷静を取り戻した。
そして、娘を母親に託し、何としても二人を護らねば、
そう決意をした直後だった。
血の様に真っ赤な瞳が、父親のすぐ目の前にあり、ぞっとしたのも束の間、
ずぷっと鈍い音がすぐ近くで聞こえた。
視線を下に向けると、悪魔の長い爪が、父親の胸を貫いていたのだ。
悪魔が爪を引き抜くと、血が地面にぼたぼたと流れ落ちる。
どしゃっと音を立てて、父親は地面に崩れ落ちた。
悪魔は止めとばかりに、虫の息だった父親の首元を爪で切り裂いた。
辺りに血飛沫が飛ぶ。
そんな父親の姿を見て、母親は悲鳴を上げた。
その声に、眠っていた娘が目を覚ました。
眠たい目を擦って、娘は母親に
『どうしたの?』と問いかける。
けれど、母親は泣き叫びながら娘を強く、強く抱きしめるだけ。
娘は母親の腕の中で、辺りの光景を見た。
地面に倒れ込んでいる父親の姿。
父親から流れている黒い液体。
そして、父親の傍に立っている、漆黒の翼を生やし、長い爪から父親と同じ黒い液体を滴り落とす、誰かを。
娘はこの状況を把握出来なかった。
まだ幼い、6才の女の子。
それも当然だろう。
大人でさえこの状況をすぐさま理解出来る筈がないのだから。
母親が泣き叫んでいる理由も、
父親が倒れている理由も、
黒い液体の意味も、
傍に立っている見知らぬ者の存在の何もかもわかる筈もない。
そんな娘を他所に、突如強く抱きしめられていた腕が解かれ…いや、解かれるというよりは突き放された様だった。
訳のわからない娘は、すぐさま母親に目をやった、その時。
長く真っ黒な爪が、母親を貫く光景が飛び込んできた。
そして、引き抜かれると同時に地面に流れ落ちる大量の液体。
貫いたその爪から滴り落ちる黒い液体を見て、それが“何か”娘はやっと気づく。
気づいて、父親の方に目をやった。 父親は黒い液体…血を流し、ぴくりとも動かない。
そして娘はまた母親に目線を戻すと、母親は父親と同じ様に地面に倒れ込んでいた。
娘が母親に呼びかけようとした時、小さな声が聞こえた。

『逃、げて…』

母親の声だ。
今にも息絶えてしまいそうなか細い声。
それでも、どうにか絞り出す。
“逃げて”…と。
娘はふるふると首を横に振り、泣き叫ぶ。
先程の母親の様に。
母親は、消え往く意識の中、後悔の思いでいっぱいだった。
自分が泣き叫び、逃げなかったから、娘まで殺されてしまうかもしれない。
護らなければならなかったのに、もう護れない。
母親の目じりに涙が滲む。
そんな母親の首元に、ひたりと突きつけられる長い爪。
悪魔はなんの躊躇もなく、父親と同様、母親の首元を切り裂いた。
首から吹き出る血飛沫が、泣き叫ぶ娘の顔に飛び散り、視界を染める。
娘は恐怖のあまりその場を動く事も出来ず、
ガタガタと体を震わせながら、静かに涙を流す事しか出来なかった。
悪魔は満面の笑みを浮かべ、娘に手をかけようとしたその時だった。
ジュッっと焼け焦げる音がした後、悪魔の断末魔が街中に響いた。
耳を塞いでも聞こえてくる、悪魔の叫び。
娘は耳を塞ぎながら、悪魔の方に目線をやった。
すると、悪魔の手はどろりと溶け、先程の満面の笑みが嘘の様に、苦痛で歪んだ顔を見せていた。
娘の傍には、音の正体であろう物が半分だけ、塵になっていた。
純白に輝く、真っ白な羽根。
天使が娘にと、そして母親が娘の髪に挿したあの羽根だ。
この羽根が悪魔の手を溶かし、娘を護ったのだ。
けれど、羽根の意味は勿論、存在さえ娘は知らない。
天使に逢った事すら、眠っていた娘には知りようがない。
唯一知っている両親さえ、もういないのだから。
娘にとっては一瞬の不思議な出来事で終わりだった。
が、悪魔にとっては違う。
悪魔の顔は、いつの間にか苦痛から憎悪に変っていた。
娘は小さな悲鳴を出し、ぎゅっと目を瞑った。
けれど娘は、行動とは裏腹にどこか安心していた。
怖いのは、痛いのは一瞬だけ。
それを我慢すれば、両親の元に行ける。
置いて行かないで。
独りにしないで。
私も連れて行って。
娘は、心の中で何度も繰り返しそう呟きながら、怯えながらも殺されるのを待っていた。

悪魔は醜い声で罵声を上げながら、今にも、鋭く長い爪を振り下ろそうとしている。
耳を塞ぎ、目も閉じていた娘には
状況がまったくわからないこの状態は不安と恐怖でしかない。
早く終わってほしい。
早く、両親の元へ。


待っても待っても、何も起こらない。

いや、起こってないと思っていただけで、実はもう死んでいるのかもしれない。
娘はそう思いながら、恐る恐る瞼を開いた。
ゆっくりと開かれた視界に飛び込んできたのは…真っ赤な四つの瞳。
娘の瞳を覗き込む様に、それらはじっと見つめている。
娘は驚いて悲鳴を上げ、思わずもう一度目を瞑った。
けれど目を閉じても、先程の瞳が脳裏に焼きついて消えない。
真っ赤な瞳…でも綺麗な、紅い色。 そう思った娘に、違和感が生まれた。
目の前に居るのは、両親を殺した悪魔?、と。
それに…一人じゃなく二人だ。

娘は勇気を出してもう一度、ゆっくりと瞼を開いた。
娘が違和感に思った通り、目の前に居たのは両親を殺した悪魔ではなく、娘と同じくらいの男の子、二人。
娘は二人を見て、目を丸くした。

「……同じ顔…」
ぽつり。


----------



…ここで終わりになります。
あと一歩で、双子とライトちゃんの会話が始まるんですがね…はは。

ここまで読んで頂きありがとうございました。
もし不快な思いをさせてしまいましたら申し訳ございませんm(_ _)m





Comment(0)



←|






[TOP]


-エムブロ-