テルとアヤ、二人っきりになった部屋。
「あのさ……」
テルが苦笑いをしながらそう呟く。
「な……何?」
顔は布団に埋めたままであるため見えないもののきっとアヤの顔は真っ赤であろう。
「昨日の話なんだけどさ……」
テルは頭をかきながら目線を右往左往させる。
「うん……」
アヤはベッドに顔を埋めたまま足を微妙にばたばたさせる。
「いろいろ考えたんだ……よ。」
テルはゆっくりと話していく。
「でさ、なんて言うのかな…」
アヤは何も言わずにテルの話を聞く。
「付き合うとか……やっぱ今は分かんねぇ……」
アヤの足の動きが止まる。
「でもよ……」
テルがそう呟いて言葉につまる。
「アヤとは一緒にいてぇし……何だろうな……アヤの事、放っておけねぇっていうか……」
テルは自分の気持ちを表現する言葉を探しながら喋る。
「うん……一緒にはいたいんだけど……」
テルがそう呟くとアヤはゆっくりと顔を上げ、テルの方を見る。
するとテルはアヤの足元に座り、横を向いた。
「で、ここからが言いたいことなんだけどな……」
テルは少し俯き加減でそう呟く。
それをアヤは見つめていた。
「俺はこれから……やらなきゃならねぇ事があるんだ……」
「……やらなきゃいけないこと?」
アヤがそう聞くとテルはゆっくりと顔を上げ、アヤを見つめた。
「ファリスを止める。」
テルは覚悟を決めた表情で答えた。
アヤは驚くも、反面安心していた。
「これはきっと危険なことだと思う。だから、アヤを巻き込むわけにはいかない。」
アヤは反論したくなるのを抑え、テルの話を最後まで聞くように努力する。
「でも、アヤが……一緒に来てくれるって言うんなら……」
テルはそこまで言って一度止まる。
そして深呼吸をすると再びアヤを見つめた。
「俺はアヤを守る。」
テルがそう言った途端、アヤの表情が固まった。
「弱くて頼りねぇ俺だけど……絶対守る。」
テルははっきりとした声でそう言い切った。
アヤはゆっくりと起き上がり、テルと見つめ合う。
「それでも、来てくれんのか?」
テルがそう聞くとアヤは照れながらも小さく頷いた。
そしてそのまま二人はそっと唇を重ねる。
二人は目を閉じ、その感触を楽しむようにしばらくくっついていた。
そして静かな部屋で二人はそっと離れると互いに照れ隠しをするように微笑んでいた。
その頃、黄金都市ソルディのセントラルにいた帝国兵たちは試練の塔へ向かうため、スプレコロードを歩いていた。
その戦闘を歩くアルマトラCであるチサ。
途中現れたスライムを一蹴すると試練の塔の中へと入っていく。
試練の塔にいた人々は突然の帝国軍来訪に驚いていた。
「……どんな顔したらいいんだろう……」
自分の失態を思い出してアヤは一人呟く。
失敗とはもちろんテルに告白してしまったことである。
「……ふー……」
シャワーを浴び終え、バスタオルで濡れた髪と体を拭く。
そして服を着るとドライヤーで髪を乾かし、脱いだ服を持ち脱衣室を出た。
すると部屋ではマユとテルが目を覚ましていた。
テルが起きているのに気がつき、固まってしまうアヤ。
「アヤさんおはようございます。」
マユが寝ぼけているのか少しぼーっとした感じで頭を下げる。
「お……おはよ……」
アヤは小さくそう答える。
「おはよー……」
テルはそう言って立ち上がる。
それに対してびくっとなるアヤ。
「俺もシャワー浴びてこよーっと。」
そう言ってテルも乾燥室の中へ入っていった。
アヤはそれをただ見送り、部屋に入ったのを見届けると持っていた服を返却籠に入れるとベッドに寝転がった。
(……恥ずかしいよ……)
ベッドに顔を埋め、そう思うアヤ。
それをショウとマユは不思議そうに眺めていた。
しばらくしてシャワーを浴び終わったテルが戻ってくる。
「あのさ……」
テルは途中で立ち止まり話し始める。
「なんだ?」
ショウとマユがテルのほうに向く。
アヤは一人ベッドに顔を埋めていた。
「悪いんだけどさ、ちょっとアヤと二人にしてくれねぇかな……」
テルが苦笑いをしながらそう答えた。
その一言にアヤはピクッとなるも動かない。
ショウとマユは少し驚いた表情をしてテルを見つめる。
「頼む……」
そうテルが言うとショウは立ち上がった。
「マユ、いこっか。」
ショウはマユにそう言って歩き出した。
「は、はい。」
マユは慌ててショウの後を追う。
そして二人は部屋を出て、扉を閉めた。
「じゃあ1階で何か朝ごはんでも食べてこよっか。」
マユが頷くと二人は下に降りるためにエレベーターの方へ廊下を歩き出した。
「ん……ん?」
アヤが目を覚ますとそこはベッドの中であった。
体を伸ばしながら起き上がると隣で眠るマユの姿が目に入った。
「マユ……」
マユは気持ちよさそうに眠っている。
マユもアヤとテルを立て続けに魔法で治療したため疲れたのだろう。
「気がついたか……」
ショウが椅子に座りながら、そう呟いた。
「ショウ、ここは?」
「試練の塔3Fの宿泊施設みたいなところだ。」
ショウはそう説明して大きくあくびをした。
「テ、テルは?」
アヤがそう聞くとショウは少し微笑み、反対側にあるベッドを指差した。
そこには同じく寝息を立てるテルの姿があった。
「お前ら二人でマチナ12を倒したみたいだな。」
ショウはそう言ってアヤに一枚のカードを投げた。
それを受け取るアヤ。
「ルートディガー・ウノのライセンスカードさ。」
ショウの言う通りカードには★☆☆☆☆と書かれていた。
「倒したんだ……本当に……」
アヤはテルの方を見てそう呟いた。
「やっぱりテルが倒したのか。」
ショウの呟きに対し、アヤはテルに告白した話を除き、それまでのいきさつと戦闘の内容を思い出せるだけ話した。
「……そうか、いろいろと頑張ったな。」
ショウはそう呟くともう一度あくびをしていた。
「起きたならシャワーでも浴びたらどうだ? 昼になったらここを出ることになってるしな。」
ショウはそう言うと時計のほうをチラッと見る。
それにつられてアヤも時計を見た。
時刻は午前8時を過ぎていた。
試験を受けていたのが昼過ぎ、終わったのが夕方であったから、それから実に12時間以上も眠っていたわけである。
アヤはマユを起こさないようにとベッドから出ると自分の服を見て服が変わっていることに気がつき、慌てて着ている服を触る。
「あ、あぁ……医務系スタッフが着替えさせてたよ。アヤが着ていた服はマユが洗濯にかけて、あの部屋で乾燥してある。」
それに気が付いたショウが指差すほうには乾燥室と書かれた扉があった。
「そうだったんだ。」
アヤがそう言って乾燥室の中に入ると、そこはからっとした熱気に包まれていた。
そこには4人全員の服がかけられていた。
もちろん下着類も。
アヤは少し恥ずかしくなったが自分の衣服を取ると部屋を出た。
そして風呂場まで向かい、脱衣室の扉を閉め、一人服を脱ぐとシャワーを浴び始めた。
「何だ?」
迷路の壁が再び動き始めたことに驚くショウとマユ。
しかし今回は徐々に下へと埋まっていき、迷路自体が無くなり、視界がどんどん広まっていく。
「迷路が……消えました。」
慌てる二人の元にアナウンスが聞こえてくる。
「見事、マチナ12討伐を成功いたしました。今回の試験はこれにて終了になります。エレベーターに乗り、1階受付カウンターまでお越しくださいませ。尚、怪我をされましたお客様はエレベーター前スタッフまでお申し付けください。」
「マチナ12を倒した?」
ショウが驚いて声をもらす。
「テル様とアヤさんがやったんですよ!!」
マユが意味を理解して喜ぶ。
そして迷路がなくなるとはるか遠くに座り込むアヤとテル、そして機能停止に陥ったマチナ12の姿が見えた。
「テル様とアヤさんです!!」
マユが嬉しそうに駆け出していく。
「本当にあの二人が倒したのか……」
ショウは信じられないといった表情をしながらも、あの二人だったら倒せないこともないとも考えていた。
ショウの頭の中ではテルの成長の早さに驚いているのである。
「テルさ……ん! アヤさん!」
マユがそう叫びながら二人の元へ走ってくる。
「ま…マユか…?」
テルははぁはぁと息を荒げながら、そのまま後ろに倒れた。
テルに支えられていたアヤがその上に倒れる。
「いたっ……」
その衝撃が腕に響いたのか小さくアヤが嘆く。
「はぁ……悪い……」
そう呟くテルも疲労が見える。
「大丈夫ですか?」
倒れた二人に驚いてマユが急いで走ってきた。
「俺は……大丈夫だ。アヤを……」
そう言ってテルはアヤの腕を指差す。
「は、はい。ヒール!」
マユがそう言って腕に触れ、魔法を唱え治療を行う。
「倒したのか、お前ら。」
後から追いついたショウがマチナ12を見つめながらそう聞いた。
「なんとか……」
テルはそう呟くと目を瞑る。
アヤを大切に抱えながらテルは疲れた体を休める。
ショウ「頑張ったな。」
ショウはそう言って微笑む。
しばらくしてアヤの治療を終えたマユがそのままテルの治療を行う。
それからしばらくして、どこかで映像を見ていたのかエレベーターから移動式ベッドを持ったスタッフが現れ、こちらへと駆け寄ってきた。