答えが出た。
だから会いに来た。
年上のすきなひとは、きっぱりはっきりと、強い意思をもった目で言った。
あの夏以来、面と向かって顔を合わせるのは初めてだ。
いつもはOZのチャットで、それもアバターを通じての擬似的な面会だったから。
会いに来てくれたのは純粋に喜びたいところだが、『答えが出た』と聞いてそんな気持ちはすぐに隅へ追いやられる。
その答えは、自分を絶望へ突き落とすと知っているから。
「……とりあえず、場所変えよう」
家の前でというわけにもいかず、寒くて仕方ないが佳主馬は健二を近くの公園へと誘った。
今年は名古屋もひどく寒い。東京も同じくらいだろう。
自販機で買ったココアを飲めば?と差し出す。
お金はと問われたけどいらないと即答した。悪いが多分、そんじょそこらの中学生より勝手にできる金があると自負しているし、すきなひとに奢るのは当たり前じゃないだろうか(あくまで、佳主馬の持論だ)。
プルタブをひくと、甘ったるい匂いが周りに広がる。
立ち上る湯気に混じって、この人が言いたいことも霧散してくれたらと祈ったが、あのね、と切り出された声に希望は儚く散った。
「あの…、この間の、答えなんだけど」
「……」
「僕、佳主馬くんのことをキングとしてしか」
もう十分だ。
そこまで聞けば、嫌でも分かる。
彼は、佳主馬を好きにはならない。
ほら、言ったとおりだ。
絶望へ突き落とす答えだったのだ。
「わかった」
「え」
コーヒー缶をゴミ箱へ投げ入れ、佳主馬は健二に向き直る。
「お兄さんが僕をキングカズマとしてしか見てないってことでしょ?」
「…ち、」
「お兄さんは、僕とアイツを同一として見ている。確かにアイツは僕だよ。僕のアバターだ。だけどね」
堰を切ったようにあふれだす感情の行く末がわからない。
ただただ目の前にいる、彼にぶつけるしかできない。
子どもじみている。
自分でも嫌になるのに、口をつく言葉が止められなかった。
「あなたが分かった気でいる答えは、不正解だよ。0と1の、どっち付かずな答えだ」
そんな風に切り崩すようにフラれるのなら、いっそのこと大嫌いとでも言ってほしかった。
だけど彼は、ズルい。
辛いのは自分の方だと言うのに、泣きそうな顔をして、目を見開いて。
その顔が、佳主馬が一番嫌いだと知っているのだろうか。
その顔を見た以上、感情をぶつけることもできなくなって、佳主馬は帰ろうと踵を返した。
と、背中にドンと鈍い音がした。
「…佳主馬くんの、ばか」
嗚咽を堪えたような掠れ声だった。
俯いてる顔はもしかしたらもう泣いているかもしれない。
「…僕がいつ、君とキングを、同一視したの」
「それは…。…だってお兄さん、キングカズマのファンなんでしょ?」
「そうだけど、違うよ!今僕が見てるのは、キングじゃない!佳主馬くんだよ!」
バッと勢いよく上げられた顔は、やっぱり涙でぐしゃぐしゃだった。
それすら可愛い、と思うあたり、先に惚れた方が負けという話しはあながち嘘じゃないんだろう。
「僕の気持ちを勝手に不正解にしないで。ちゃんと聞いて」
そう言った健二は、答えが出たから会いに来た。と告げたときと同じ顔をしていた。
覚悟をしよう。
佳主馬がそっと健二に向き直ると、一拍の間の後、ようやくその言葉は、届いた。
0か1の答えを
(やっと、届いた)
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ただ片想いから両想いになる過程が萌えるっていう、それだけ