「陛下って呼ぶな、名付け親!」
貴方に、そう言われると…
嬉しい反面、心苦しくなってしまう。
俺が貴方を陛下と呼ぶのは、自分への枷。
貴方への想いを胸に留めておくための枷です。
「そうでした…ユーリ。」
嗚呼、また溢れ出して来る想い。邪な感情。醜い欲。
不意に笑顔の仮面で覆ったけれど、貴方に気付かれていないだろうか?
「どうかしたのか?コンラッド」
真っ直ぐで無垢な瞳が、俺を見上げて来る。
それが、俺を信頼する故での無防備さに胸がざわつく。
本当は、そんな風に信頼されるような男じゃない。
あまり俺に、心を許さないで欲しい。
じゃないと……
このまま柔らかな頬に手を添えて、艶やかな唇を奪ってしまいたくなる。
華奢で小柄な肢体を、この腕に閉じ込めてしまいたくなる。
貴方の肌の隅々に、唇を這わせたくなる。
本当は、他の誰よりも危険な男なんです。
「いえ、今日もユーリは可愛いと思っただけですよ。」
「か、可愛いって……言われてもな。俺は男だし、あんま嬉しくない!」
「そうですね。でも、いっそ…このまま裸足で貴方を抱えて逃げてしまいたくなるくらい、可愛いです」
俺だけのユーリで居てくれたら、どれだけ良いだろう。
誰でも魅了してしまう貴方を、隠してしまえたら良いのに。
「コンラッドってさ…時々、真顔で恥ずかしい事を言うよな」
「そうですか?」
「そうだよ!そういう口説き文句みたいな言葉は俺にじゃなくて、女性に言った方が良いと思うぞ!」
やっぱり分かってないですね。
こんな事を言うのは、男も女も関係ない。
貴方だからですよ。
「でも、まぁ…コンラッドはカッコイイから、口説き文句を言わなくても、微笑み1つで女の子は惚れそうだけど。」
「惚れそう…ですか…」
「男の俺でも、今の言葉はドキッとしたしな。」
今のは、深い意味はない。分かっている。
それでも、貴方の言うように…俺をカッコイイと少しでも思っていてくれるなら心は喜びに震える。
「あまり褒めると、俺は調子に乗りますよ?」
そう……調子に乗るドコロか、思い上がった都合の良い考えさえしてしまいそうだ。
「いや、褒めたというか…本当の事を言ったまでなんだけど。」
「陛下は、本当に俺を喜ばすのが上手ですね」
もし……
本気モードで微笑み、口説き言葉を言ったなら…貴方は俺に惚れてくれますか?俺を愛してくれますか?
「また陛下って言った!だから、陛下って……」
それ以上は言わせたくなくて、人差し指を陛下の唇の前に押し当てた。
「分かってますから、今はこれ以上は……」
「……?」
これ以上、この昂った感情のまま……貴方の名を呼んでしまったら、止められなくなってしまう。
ココでブレーキを掛けておかないと、いけない……
「それよりも、早く行かないと。ギュンターがお待ちかねですよ。」
「あ……うん。」
今のは不自然過ぎただろうか…?それでも、貴方に向けている情欲を気付かれたくない。
「では陛下、お勉強頑張って下さい。」
こんなに近くにいるのに、感情に任せて抱き締める事が出来ない。
綺麗で眩しい貴方を、汚してはならない。
あの華奢な体を俺なんかが抱きたいと願うのは罪な事なのに……