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「――ということで、今度踊り子の試験を行うことになりました」


突如宮廷音楽家の代表7名が呼び出された執務室にて告げられた言葉に一人固まったシノがぽかん、と口を開けている。そりゃあまあそんな反応だろうな、と今朝がた最終決定した紙を見つめて私も肩をすくめた。

兼ねてから話し合いを進めていたが、実際に音楽家の人間に知らせるのは今日で初めてだったのだ。一応順序というものがあって、ここから音楽家の人間で試験内容や選考方法などを詰めていく必要があるが、まずはそのさらに上の部署でこういうことをやりますよという決定を下すのが普通だ。


「こちらが今回決定した最終予定の書類です。本日から2週間以内に選考方法、試験内容を決定していただき、国民への告知を行い、1ヶ月後に実際に試験を行っていきます」

「なるほど、来る建国祭に向けてて、ですね」

「その通りです。建国祭まで実質2ヶ月と少し、同時にラビの聖誕祭でもあります」

「…えっと、つまり建国祭と聖誕祭と、収穫祭が同時に?」

「そうです。アルメティナは毎月17日に謝肉祭を行いますが、3月と9月は25日の収穫祭に変わります。さらに3月の収穫祭はアルメティナ建国の月となっており、同時にラビの誕生月でもあるため、1年で一番盛大にお祭りを開催するんです」


本来ならば細分化するところがだ、アルメティナで月々に祭をするとなった時にめんどくさいからまとめろといったため、3月だけは催しが詰まっているので。実際月一で祭を開催しているだけでもすごいことだと思っているが、アルメティナはその風習がすでに根付いているため、もはや国民の間では特別面倒なことにはなっていないだろう。

しかし3月の祭となれば話は別だ。この月だけは1年のうちで一番盛大に、国民全員が今までよりもさらに手をかけて準備をして迎える大事なものである。


「この度宮廷音楽家の正式名称を『舞師』とし、正式に舞師の枠で募集をかけます。日が短いので、出来るだけ経験者を募りたいところですが、選考方法や人数などはお任せします」

「それはつまり仮にボーダーラインを超える人員が出なかった場合採用がなしという結果もありうるということでしょうか?」

「もちろん。今後あなたたちと共にやっていく者になりますので、あなたたちが全員同意のもとそういう結果になったとしたらそれで構いません」

「ということは逆に今回の試験で建国祭までにはある程度の完成度しか見込めないとしても、今後音楽家として見込みがあるのならば採用してもよいということですよね」

「そうなりますね。第一は建国祭に向けて人員を必ず増やすということではなく、今後長い目で見てこの国の音楽家として見込みあがある者を募るというのが目的です。建国祭のタイミングで行うのは、この国の人間が1年で1番力を入れるのがわかっているから、そこで有能な人員が発掘できればという考えからです」


今回はもちろん、建国祭自体での功績を求めるものではなく、建国祭に乗じて今まで隠れてきた人員をひっぱりだすというのが目的だ。ゆくゆくは本格的に音楽家として活動してくれる人間がここで見つかれば、ある程度この王宮での音楽家の立場も確立される。つまり建国祭近くに行うというのは建国祭というわかりやすい目先のステージを見せて、今後ここで活躍できますよという示唆でしかないのだ。


「理解していただけましたか?シノ」

「…わかりました」

「今回は何も必ず採用しろということではなく、あくまでこの国の中でその可能性がある人間を見出す作業だと思っていただければと思います」

「はい。この後選考方法や試験内容を話しあって、報告すればいいんですよね?」

「ええ。宜しくお願いします」


ここ最近公の場では敬語を使うようになったシノは私の言葉に頷いて一人難しい顔をする。その反応が少し意外だと思いつつ、「何か問題がありますか?」と聞いた私の言葉にシノは無言で首を振ってみせた。

それに頷いて返すとひとまず全員に書類を配布して、この後話し合いをしてもらうためいったん退出させると、隣で黙って待機していたカストルさんがちらりと私を見て首を傾げた。


「どうしました?」

「いえ、シノ様が一番喜ばれると思ったんですけど、少々意外な反応だったので」

「ああ、確かに」


ほとんどが声に出さずとも嬉々とした表情をしていたり、納得して頷いている者がほとんどだった中で、シノだけが難しい顔をしていた。何か思うところでもあるのだろうか。


「…まあ、あの子自体が昔は比較的熾烈な環境にいたみたいですから、こういう試験的な話になると何か考えることがあるのかもしれません」

「熾烈?」

「彼女は元々も踊り子だったんですけど、選ばれた者しかできない役目を負っていたそうで。そういう人は大概争いがつきものでしょう?」

「…はあ、とてもそうは見えませんねえ」

「ですよね。私も話を聞いたときは意外でした」


しかしあれでいて芯が通っていて意外に肝が据わっているのはそういうわけだと納得もしたのだ。かつてはそりゃあ嫌がらせも受けていたようだし。この手の話になるともしかしたら一番厳しい考え方をするのがシノかもしれない。


「何はともあれ楽しみではありますね。シノ様がいてこそ出来上がった役職ですから。同じ役目の人間が増えるとなると、これからもっと賑わうことになるでしょうし」

「そうですね。人が増えるとそれに伴って大変なこともありますが、そこはその都度話し合っていきましょう」


これを皮切りにこちらも建国際に向けていろいろと準備を進めていかなくてはいけない。イノリの結界の件もそろそろ目処が立ちそうだし、いいタイミングで再スタートが切れそうだ。


「お二人の婚約を機にアルメティナにいい風が吹きますね」

「真顔で意味わからない爆弾ぶっこんでくるのやめてください」


至極真面目な表情で本気なのか冗談なのかわからない言葉を頷きながら言ったカストルさんに私も負けじと真顔で返すと、恐ろしいことに最後ににやりと笑って「私も会議に参加してきますね」とようやくその部屋を後にしていった。

なんだろう、この国の人間最近人で遊びすぎじゃないか?









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