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「お前動くなよ!」

「えーー、ずっとじっとなんてしてられない〜」

「じゃあ一生片腕で過ごせよめんどくせーな!」

「ええ〜、そしたら明日から片腕は剣とか装備しようかな〜」

「お前がつけると視覚的暴力」


何やらかすかわかったもんじゃねえってハラハラして1日を終える羽目になる、と青ざめるシャルの言葉にリーサは「失礼だな〜」と肩をすくめている。

その会話を部屋の入り口で唖然と聞いていた私はノックの音が聞こえない程話し込んでいる二人をもう一度見てから、今度は大きめに部屋のドアを叩いてみた。もう開いているが。


「…あの〜」

「あ!?シノちゃん!」

「ばっか動くな!」


何度言えばわかんだよ!と怒鳴るシャルにリーサはこちらに立つ私を見てがたっと立ち上がった。それを見て頭を上から抑えこんだシャルの傍らには何やらいろんな材料と、ペンがおかれている。

ちなみに未だにリーサの片腕はないままなのだが。今シャルが掴んでいるのはもう片方の手だ。さて、何をしているのか。私はまたちょっと引きこもりがちになったリーサにと今日はお茶を持って来たところだった。


「入って入ってー!あ、もしかしてお茶持って来てくれたの〜?」

「うん。リーサたちは…何してるの?」

「こいつの片腕作ってるとこー」

「……え?!」


さらりと言って退けたシャルは残っている片腕に合わせてどうやら型を作っているらしい。立体的に腕を象った道具と、寸法などを手に持つ材料におおざっぱに記しているのを見れば、何かを作っているのは明白だったが。しかし腕とは…?


「今度はねえ、合金にするの!」

「しねえよ」

「ええーーやろうよお〜」

「やりてえならお前が創造魔法を使いこなしてからやれ!」

「ええ〜無茶ぶり〜」


ひどい〜、と顔をしかめるリーサにシャルは「終わったぞ」といいながら掴んでいた片腕を離した。そのあとぶつぶつと何か言いながらいくつかの木材と、白っぽい石のようなものを手にして首をかしげている。

リーサに促されるがまま近くの椅子に腰掛ければ、やっと腕を開放されたリーサが私の持って来たグラスを手に取って不思議そうに私が見つめるその白いものを目で示した。


「…リーサの腕って何で出来てたの?」

「前のやつ?前のは全部木製だったよ〜。今回のも基本は木製だけど、より本物に近づけてみようってことで、骨組みと、皮をつける事にしたの!」

「お前何もしねえだろ」

「知識を提供しました〜」

「つか知識があるならお前がやれよ」

「なーんで出来ないんだろうね…私も不思議でしょうがないよ。逆になんで知識がないのにシャルには出来るのかもう…」


さっぱりわからない、と肩をすくめるリーサにシャルも呆れた顔をする。それをみてというか魔法で作るのかと感心したようにシャルの手元を覗き込んだ。


「その白いのは何?」

「骨」

「!?」

「動物の骨。これが今度私の骨になって〜、あとこれも動物の革。ちょっと魔法でいじると質感が人のに近づくから〜」

「…へ、へえ…?」

「ちなみに接合部にはね、魔法陣を描くんだけど、要するに私の片腕は魔法稼働式なの!でも世の中には普通の義肢があってね、やっぱり大体は木製なんだけど、最近は金属製もあるんだよ!」

「金属製は整備がめんどくせーって話だろ」

「らしいんだよねえ…でも見てみたいなあ。ヤバい話じゃ全骨製もあるらしいんだけどなあ〜…」

「…おまえそれどこ情報…かなりヤバいやつじゃねえの…」

「こないだちょっと出かけた時に…」

「おいおいおい」

「大丈夫だよ〜首突っ込まないから〜」


知識のひとつということで〜と呑気に笑うリーサの言葉を反芻する。全骨、つまり全てが骨で出来た義肢ということだ。その骨というのはこの二人の会話からして今シャルが手にしている動物のそれでないことはわかる。そこまで想像して、私は思わずぶるり、と肩を震わせた。聞かなきゃ良かった。


「…シャルは、そこからどうやって作るの?」

「俺の創造魔法はさ、組み立て式なのよ。つまり材料さえあれば俺のイメージ通りに物体が組み上がるわけ。普通の魔法とはちょい違うのな」

「うーん?」

「一般的な創造魔法は材料をイメージしたものに作り上げるけど、それは魔法が発動してる間だけなの。組み立ててるわけじゃないから、その人の魔法がきれると材料に戻るっていう欠点があって。その点シャルのは魔法を解いてもそのままってこと」

「まあ普通にそういうのに詳しくて魔力がある人だったら楽に発動できるんだけど、リーサは仕組みがわかってても魔法がつかえねーわけ。俺は仕組みはわからんけど魔法が使えるの。だから今考えてるとこー」


大きさとそれぞれの位置を合わせて大きさを整えれば、あとはシャルのイメージによってその腕が出来上がるという。さっぱり意味の分からない魔法だが、前にシャルが壁を直しているという話も聞いていたのでまあ、そういうものなのだろう。

そもそもこの二人は表向きの立場が真逆だということを最近知った。この国の人はそもそも自分の得意分野で自分の部署を持っているわけではない。ルカは剣が得意だけど、隠密を動かす人だし、隠密が得意なメルはいざというとき以外は側近としてしか動かない。素手で戦うラムも普段は剣の一流とされている。

そしてこの二人も、暗器を使って罪人を捕縛して尋問することが主な仕事だと言われているシャルは、その実魔女家系の生まれで、魔法に関しては下手したらリーサよりも扱えるらしい。そしてリーサはこの間知った通り、元暗殺者。得意なのは拷問なんだそうだ。


「…そういえば二人って似てるよね」

「あー…見た目?」

「あー否定はできねーな。そもそもお前絶対アカシアとエーメの混血だろ?」

「それってある意味最強だよね!」

「最強の馬鹿が産まれたけどな」


なんでこうなったんだか、と机の上にひとつずつ材料を並べているシャルの言葉にリーサが一言にように「なんでだろうねえ」と言っている。いや、自分の事を言われているのでは?と一瞬顔を引きつらせる。


「ルーさんがシャルに寄せて名前つけて来た時はちょっとイラっとしたけどね!」

「それはあいつに言ってくれ」


俺は知らん、と首を振るシャルは漸く並べ終えたその材料を見つめて、下にかかれた魔法陣の上に手を乗せると、何やらぶつぶつ言い始める。それを見つめながら、前にルイスさんが話していた事を思い出して、ルーさんとやらがルイスさんで、しかもリーサの今の名前の名付け親だというのを理解する。

…ポポロフってどこから来たんだろう。


「私の名前ね、ルーさんがつけてくれたの〜!ほら、仕立て屋さんの!」

「そうなんだね」

「あとから師匠に寄せて欲しかったのにって思ったけどもう慣れちゃった。ちなみにポポロフっていうのはね、ルーさんの親戚の名前らしい!」

「へえ…ていうか仲いいんだね?」

「うん!たまに服作ってもらう〜」


そうこういっている間に、ぽわっと光ったシャルの手元から徐々に腕の型をしたものが姿を見せて、光が治まると同時にそこに現れた人の腕そっくりのそれをみて私は目を見開いた。「ほらよ」とぞんざいに投げてよこすシャルからそれを受け取ったリーサは「やったー!」と声を上げてお礼を言うと、早速それを今は亡き片腕の位置に持ってくる。


「…なんか、安心したわ」

「…ん?」

「シノとリーサ。普通にしてっから。しかも義手つけるとこまで見せてるし」


あいつも成長したなあ、と嬉々として義手を取り付けているリーサを見て小さく笑ったシャルに私も思わず笑い返す。それを見下ろして私の頭をひとつ撫でたシャルは「じゃ、またなー」と問題なさそうなリーサに手を挙げてその部屋をあとにした。

同じくそれを見送って「どうだ!」と綺麗にくっついた片腕を上に掲げてみせるリーサに私は思わず拍手を返して祝福した。









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