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坂+銀

∴dreary




ランドセルを背負った銀時を捕獲し、抱き上げた。たまのワガママを許してくれた陸奥は自動車で待機中。腕の中の銀時は瞳を緩め、口元を動かした。

おめでとう、と。
今日は辰馬の誕生日だ。

じゃあおんしをちょうだいと言ったのは1週間前。子供になんちゅうことを言うんじゃと陸奥にひっぱたかれたものの、辰馬の希望は叶えられた。


『ひとり?』
「うーうん、陸奥も一緒」


一緒にケーキ食べよう、と続けると、こくりと頷いた。高杉と桂に了承を得て本日はお泊まりということになっている。


『けどよかったの 辰馬 ほかにパーティあったんじゃないの』
「えいの。銀と、陸奥と、3人でえいんよ」


たとえば、普通の家族であるようで。そういえば陸奥が料理を作ってくれるそうな。
陸奥に恋愛感情は持ち合わせちゃいないが、3人でいられたらとてもしあわせな気がする。どう考えても、銀時と陸奥は母子というよりは姉弟のようだけど。

銀時はしばらく口を引き結んでいたものの、辰馬が髪を撫でると微笑んだ。

そうだ笑っていてくれ。それだけでじゅうぶんにプレゼントになりえるのだから。





辰馬おめでとう〜。

坂+銀


明日はこないと君が泣いた。


そんなわけないじゃろう、とすぐに言えばよかったのに戦場のど真ん中で笑顔を捻り出して、そんなことを言えるほど神経は図太くなかった。むしろ、辰馬まで明日はこないのかもと疑って、立ち尽くす。

しとしと、天気雨が降る。赤と青と、太陽の光がぐるぐる。羽織が重い、銀時のことだから、きっと風邪を引くに違いない。

子供から大人になるまでで失望したように、確実なものなんて、この世にはないけれど。


「明日はくるぜよ!」


叫んだ言葉は銀時の背中に当たり、赤い瞳が初めてこちらを向いた。







BGM:l.o.s.t/Q/L/T/O/N/E

嘘みたく、べったり系の話が書けません。けど校正会でちょっとほめられたばっかりに、とにかくなにか書きたい。とりあえず、1ヶ月くらい前に書き始め、放置プレイをかましてる坂+銀をどうにかしたいです、ええ。

高+銀


「夜がくると怖くない?」
「はあ?」
「ほんとは世界中が敵なんじゃないかなってさ」


観覧車が1番てっぺんに来たときに、こちらを振り向きもせずに銀時が言った。銀時がうるさくねだった全部透明なゴンドラのせいで高杉としては下を見たくない。


「でもさ、おれはたくさん夢を描いたんだ」
「たとえば」
「飛んでみたい」
「ほう、」
「笑いたい」
「それで」
「変わりたい」
「あとは?」
「消えちまいたい」
「馬鹿言うな」
「うん、それでいて生きていたいんだ」


夕焼けが地平線に沈む。街を照らし、銀時の髪を朱に染めながら。銀時はただ窓に額を擦り付け、それを眺めている。夕焼けは眩しいから、その代わりに反対の空を眺めた。1番星がポツンと浮いている。きっと見えないだけで、他の星はちゃんとあるだろうけれど。

ただ、夜が来る。


「あと、もう1つある」
「言ってみろよ、この際」
「いちにさんで、おまえに会えたらいい」


銀時の瞳や口元が弧を描いた。


BGM:ハ/イ/ラ/イ/ト/観/覧/車

_

坂+銀

∴dreary


かわいそうな子供だと頬をつつく。銀時は緩い目元を瞬き首を傾ける。こんなにかわいいのになあ。


[どーしたの]
「んー考え事ー。なあ、今年は旅行に行く気あらへん?陸奥のはからいで長めの休みもらえそうなんじゃけど」
[それ たつまが休むための休みでしょ]
「やー違うじゃろ」


だって陸奥本人に"銀時を甘やかしてやれ"と言われたのだもの。
剥奪か欠乏か、わからないけれど環境は大事だ。本当ならばたくさん愛されていていい年齢の子供だというのに、目の前のこの子供はその当たり前を享受できていない。由々しき事態である。


「学校、いつから夏休みって言っとったっけ?」
[21日からだよ]
「そんじゃ、それ以降に休みくれるよう言っとく」


そう言ってふわふわの髪を撫でると困ったように笑んだ。もっと手放しに喜んだっていいんだよ。俯いてしまうのが目に見えているから言わないけれど。

そんな窮屈に生きなくたっていいのに。やっぱり高杉を殴りたい。そして銀時を拐いたい。


「どこか行きたいとこある?」
[辰馬は?]
「もー今は銀に訊いとるんよ。おんしはもうちょい自己主張せんといかんぜよ」


銀時の眉がますます下がってこちらを窺うように躊躇ってから文字を綴る。

「海?」
[およぎたい]
「ふふ、おんし泳げたっけ」
[うきわがあるもん]
「わかったわかった。海に行こう」







環境優位説押しの辰馬さんでした。

坂+銀



少しずつ、少しずつズレが大きくなっているように見えた。

最初出会ったとき、毛色は違えどよく似た2人だなあと悠長に、のんびりと思ったものだが最近はどんどんと遠退いている気がする。


「と、思うんじゃが。どうかね」
「そうなんじゃねーの」


適当に頷いた銀時は伸びた雑草を引っこ抜いて夏が来るなーやだなーとぼやいている。その前に梅雨が来るぜよと適当な返事の仕返しをしてやったら蹴っ飛ばされた。


「なにが言いてえんだよ、回りくでえな」
「うん。だからわしと一緒に来んか?」
「却下」
「ちぇ、つれないのう」


返事なんかわかってるくせにと銀時が鼻で笑う。そりゃわかっているけれど、と辰馬も心だけで自分に苦笑した。


「高杉とはね、どうにもならねえと思うよ」
「はあ、」
「もともとの思考の違いに食い違い。同属嫌悪はねーから、遊ぶにはいいけどさ、お話合いには向いてないよな。だって、意見が違うんだもんよ、ぶつかるぶつかる」


やけに饒舌に言い切ったあと、銀時は空を見上げてめんどくさいなあと呟いた。何に対してかは知らない。


「おまえはズレが広がったっていうけど、根本的に違うんだよ」

諦めたみたいに言って、にっこり笑う。別にぶつかることが目的ではないのだというように。


「だから、互いに相手の意見なんてどうでもいいのさ」


そうしているうちはこれ以上離れずにすむんだから。


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