2015-2-19 17:11
テイルズオブエクシリア2のプレイ動画を見てからたぎって一気に書いた代物。
出来栄えはお察し。
Pixivの方にもうpしてます。
内容としてはルドガーED(フェイト・リピーター)のその後みたいな感じです。
興味のある方は追記からお願いします。
話題:二次創作小説
『碧の瞳が見つめるもの』
物心ついた時には既に、父は自分のことを見ていなかったように思う。いや、正確には自分だけを見てくれていたわけではなかった、と思う。
だが、決して愛されていなかったわけではない。父はいわゆる親馬鹿と呼ばれる類で、娘を溺愛する姿は彼の数年来の友人からも苦笑されるほどだった。しかし呆れはすれど、それを咎める者は誰もいない。むしろ温かく見守っていたのを幼心に覚えている。
そうして迎えた8歳の誕生日。源霊匣普及のお陰で豊かな自然を取り戻したウプサーラ湖の、湖岸に建てられた自宅で誕生日パーティーが開かれた。招待されるのは毎年同じメンバーで、父の友人たち。それから今年は学校の友達も。
色々なプレゼントを貰った。その中で、年の離れた姉のような存在であるエリーゼは、ぬいぐるみをプレゼントしてくれた。本当はエリーゼがいつも連れている、喋るぬいぐるみと同じものが欲しかったけれど、貰ったぬいぐるみもそれにひけをとらないほど可愛いと思った。バーニッシュというらしいそのぬいぐるみは、それから数年の間良き遊び相手になった。
娘がエリーゼと、同じく姉のように慕っているレイアたちと水際で遊んでいる時、アルヴィンとジュードがグラスを片手に傍にやってきた。
「ルドガーんとこの姫は今年いくつだっけ?」
「……8歳だよ」
妻に良く似た亜麻色の細い髪、そして自分と同じ碧の瞳。その姿はまるで――
「そっくりだよなあ……」
「アルヴィン」
ジュードが隣でアルヴィンを小突く。わり、と謝った彼に「気にするなって」と微笑んで見せた。そして静かに湖の方へ目を向ける。
「俺自身が一番そう思ってるんだ」
昔一緒に旅をした少女。その子は別の世界の自分と、妻との間にできた娘だった。似ているはずだ、何せ自分も『彼』と同じ相手をこの世界で伴侶にしたのだから。
「あの子はエルとは違うよ、ルドガー」
何かを察したジュードがやんわりとそう言った。そう、それも自分が一番良く分かっている。娘はエリーゼが連れているぬいぐるみのティポを可愛いと言い、トマトも大好きで、何より最も違うのは。
「俺のことを『パパ』って呼ぶしな」
自嘲気味にそう言った自分を、仲間がどんな目で見ていたのかは知らない。きっと同情の色でも浮かんでいたのだろう。彼らは何も言わず、暫しの間を置いてから話題を今ここにいない仲間の話へと変えた。
娘のことは愛している。それは確かだ。だがそれでも、日に日にあの少女に似ていく娘を見て思わずにはいられなかった。――なぜあの時あの子を救う選択をしなかったのか、と。
兄を殺した時に言われた言葉を、今でも覚えている。ああ、そのつもりだったさ。命を懸けてあの子を守るつもりだった。それほど大事になっていた。それなのに土壇場で怖くなった。自身の死を恐れてしまった。それをあの子は責めず、むしろ優しい目で赦してくれたのだ。本物のエルにはまた会えるから、と。
本物も偽物もない、エルはエルしかいない。代わりなどいないのだ。それが分かっていたのに、選択を間違えた。
そして今、ラルを妻として迎え、『彼』――ヴィクトルの称号を冠した分史世界の自分、ルドガー・ウィル・クルスニクとは似て非なる人生を歩んでいることを決して後悔はしていない。この世界は平和だ。仲間を殺めてしまう心配も、自分が時歪の因子になってしまう心配もないのだから。それでも思う、あの時に戻れたら。その時は、次こそは選択を違えることはない。
そんな覚悟でエルを守れるのか、とヴィクトルに問われたのを思い出す。そういえばあの時も迷ったのだった。迷ったのは、対峙している相手がいつも話に聞いていた少女の父親だったから。その大好きな父親を目の前で殺してしまったらあの子は壊れてしまうのではないか。その迷いを見透かし、ヴィクトルは自ら槍に貫かれた。「私は、お前だぞ」という言葉を遺して。
確かに魂の根本は同じかもしれない。自分もヴィクトルと同じようになる要素を持ち合わせているのは重々承知している。だが、自分がヴィクトルにはなり得ないこともまた、よく知っていた。彼は、彼が共に旅をしたエルも、彼の娘であるエルも、そして正史世界の自分に成り代わることで生まれてくるエルも、皆同様に愛していた。そこが自分との決定的な違いである。自分は自分の娘とエルを同一視はしていない。自分にとっての『エル』は、自分を名前で呼んでくれて、少し背伸びした物言いをし、親子ではなくタイトーのアイボーとして接してくれた彼女だけだ。
「――ドガー、ねえルドガー?」
年下の親友が自分を呼ぶ声で我に返る。
「ものすごく眉間にシワが寄ってたから……大丈夫?」
「また余計なことでも考えてたんじゃねーの?」
心配そうな顔のジュードと、グラスを煽って肩を竦めたアルヴィンに「大丈夫だよ」と笑って見せる。
「何も……何も考えちゃいないさ」
誕生日以降、父は物思いに耽ることが多くなった。元々あまり喋る方ではなかったが、いつにも増して無口になったように思う。母はそんな父を優しい眼差しで見ていた。
一度、尋ねたことがある。パパは何をそんなに考えているの、と。
「なんでもないよ」
父は一瞬驚いたような顔をしたものの、返ってきたのはそんな言葉といつもの優しい笑顔だった。訊いたことには大抵答えてくれる父だったが、それだけは話してくれようとはしなかった。
けれど聞こえてしまったことがある。あの日から何度目かの誕生日を過ぎた寒い冬の日。父の書斎へ遊びに行こうとした時だった。書斎に一人でいた父はこちらに背を向けており、娘がそっと扉を開けたことに気付いていなかった。
「エル……」
ごくごく小さな声で、しかしはっきりと発音された言葉。音に滲むは愛しさと悲しみか。
それは自分の名前ではなかった。母の名前でもない。何か聞いてはならぬものを聞いてしまった気がして、そのまま静かに書斎を後にした。
そのことを母には訊けず、無論父にも訊くことなどできず、何年もの間胸に仕舞われ続けた。謎を明らかにする機会ができたのは、仕事で父が留守の間に、父の友人たちが家を訪れた時だった。父の誕生日パーティーを開く相談をしに来たらしく、母も嬉しそうに彼らをもてなした。
母がお茶の準備をしに席を立った時、決意する。今しかチャンスはない。訊きたいことがある、と言うとエリーゼが首を傾げた。
「なんですか?」
「みんなに。訊きたいことがあるの」
エルって誰なの。
そう口にした瞬間、皆一様に目を逸らした。ジュードは悲しげに、アルヴィンは明らかに訊いて欲しくなかったという風に、レイアもエリーゼもどうしたものかというように困り果てている。
「――パパにとってとても大事な女の子よ」
気まずい沈黙を破ったのは他でもない母だった。ジュードが目を丸くする。
「ラルさん!?」
「良いんですよ、いずれは話さなければならないことだったから」
紅茶の入ったカップを皆に配りながら母は静かに微笑む。そして、エルという少女について話を始めた。
かつて父がエージェント時代に旅をした少女、エル。父が消えないよう、自らの命をもって父と、仲間と、彼らが住むこの世界を守ってくれたこと。そして、父はそんな少女を救えなかったことをずっと気に病んでいること。
「あなたはエルちゃんにそっくりなんですって」
瓜二つであるからこそ、父はエルと同じ名前を娘に付けたくはなかったという。
「決してあなたよりエルちゃんが好きとかではないのよ。あなたのパパは、あなたのことを心から愛してる」
「うん。エルのこともルドガーのことも僕たちはよく知ってる。エルと君は違う、だからこそ君のお父さんが……ルドガーが君をエルとしてではなく娘として真っ直ぐ見ていることも、ちゃんと分かってる。それを信じてあげて欲しいんだ」
父よりいくつか年下のその親友は、真摯な声でそう言った。
父の愛を疑ったことはない。ただほんの少し、ほんの少しだけ悔しいなと思っただけだ。自分と同じ碧の瞳が、自分ではない別の少女にも同じように愛しさの滲む笑みを向けていたのかと思うと、少しだけ、ほんの少しだけ。
それから、何年も経った。
料理上手で、愛妻家で、子煩悩で、強くて、お人好しだった父はこの世を去った。母もその後を追うように静かに眠りについた。
両親の墓石の前にしゃがみ込み、暫しの間目を閉じる。二つに結った母譲りの亜麻色の髪が風に流れる。今はもう自分で結えるが、幼い頃は髪を結うのはいつも父の仕事だった。彼女も旅の間は結ってもらっていたのだろうか。そう思うと小さく笑みが漏れた。
目を開けて墓石を眺める。ルドガー・ウィル・クルスニクとラル・メル・マータ。最期まで仲睦まじい夫婦だった。持ってきた花を手向け、立ち上がると、おもむろに口を開く。
「――暫くはパパをよろしくね、エル」
ザアッと吹いた風に紛れ、自分とよく似た、幼い少女の声が返事をしたような、そんな気がした。
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あとがき
ルドガーとヴィクトルさんは根本的なところは同じでも、辿る道は違うだろうなと思ったフェイトリピーターでした。
Fateって色々意味あるけど、でもルドガーにとってのfateはきっとヴィクトルの辿った運命ではなくて、あくまでラルという女性に心惹かれてしまうという運命、そして生まれてくる子供が奇しくもエルと同じ容姿であるという運命に過ぎないのだと思います。でもきっとそれが彼を悩ませるのでしょう。
ヴィクトルさんはエルと共に正史世界で生まれ直す、そして思い出も作り直すと言っていたけれど、だからと言ってエルを愛していなかったわけではないと思うんですよね、彼は既に心が壊れてしまっていたのだと考えればあのセリフが出てきてしまっても分かるような気はします。
でもルドガーにとってのエルはあのエルだけであってほしい。なので、ここでは敢えて娘の名前は出していません。エルと同じ名前は付けたくなかった、という(私の中での)ルドガーの意思を感じてもらえたらなと思います。
さて、あんまりぐだぐだ書いてもしょうがないのでこの辺で。
お粗末さまでした。