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God gave ○○○ to you 5

クラスの結束力か上がったとはいっても、大輔のトラウマが消えたわけではなく、女の子に対しては依然消極的だった。今や盛り上がったクラスは喋る分だけ打ち解けていくような雰囲気だったにもかかわらず、大輔はたった一人周りから浮いた存在だった。
美香にとっては嬉しいクラス会参加者でも、大輔にとっては複雑な心境であった。そんな大輔の違和感ある表情に芳樹は不思議な気分であった。「いくら最近剣道部にマンネリ化してる大ちゃんでも、ふたつ返事でクラス会に参加したりしないだろう」と、それなりに大輔を評価していた。
芳樹はクラスで大輔と会話をする二人のうちのひとりだった。音楽の趣味が合い、性格も笑いのツボも似てる。住んでる所も近い。そして何を隠そう、誕生日が同じなのだ。ただ違うといえば、交友関係である。芳樹はマメに友人と連絡を取り合い、大輔はそれが苦手であった。自然と大輔は芳樹を一番近い理想として見ていた。それは芳樹も一緒で、自分より少しだけ体の動く大輔をライバル視していた。まぁつまりは親友なのである。
芳樹が大輔の顔色を伺っている間も、由子は相変わらず何を考えているかわからない顔をして外を向いていた。美香が声をかけても生返事、男子の呼びかけにはうなずくだけ。
「あれか、話すのも面倒だが、一人で帰るのも寂しいってやつか」と、またしても大輔は勝手な妄想をし始めた。
「じゃあ今度の土曜日に市立体育館裏の公園に8時集合ね」
美香は帰り支度しながらいうと、由子も無言で支度し、二人は同じ方向に歩きだした。
「俺らも帰るか」と、芳樹は大輔に言い、南門に向かって歩きだした。

「土曜日か…」そう呟いて、さらに独り言を始めたのだが、芳樹には何を言ってるのか聞き取れなかった。

God gave ○○○ to you 4

部活の終わる時間ともなれば、教室の電気も着かないようになっていた。それでも近くの外灯から漏れる明かりが、お互いの距離を測れる程度に照らしていた。美香は携帯のライトを点けて、クラス会の計画をノートにまとめていた。芳樹はノートを覗き込みながら参加人数を指折り数え、酒や食べ物がどのくらいいるか考えてるようだ。由子は何を考えているかわからない顔をして、外を向いていた。
席につき、一息ついたところで美香が
「大ちゃんクラス会はどう?剣道部厳しいから参加できないかな?」と、聞いてきた。大輔にとっては剣道部などどうでもいいものに成り下がっていたから、「行けるよ」と、力なく答えた。クラス会後の部活のことなど考えるとさらに面倒だが、部活を気ままにやる書道部のような高校生活に憧れていた。
「わーい。大ちゃんがいけるんだったら、今回はすごいクラス会になるよ。寛子と尚美も部活忙しいけど来るって言ってるし…やっぱりメリーのお陰だね。クラスの結束力が強まったと思わない?」美香は嬉しさのあまりに早口で喋った。感情を体いっぱいに表現する彼女は、クラスの人気者で、休み時間は彼女を中心に人の輪ができた。男女問わず彼女のまわりで大笑いしていた。大輔はいつも遠巻きからみていたが、「彼女の魅力はこれか」と一人で納得していた。
メリーというのは、学祭で発表した演劇のことで、地元で撮影された映画を元に、演劇用にアレンジしたのだ。美香は中心となって動いていたのだが、あまりに消極的な男子に対し、練習中に泣き出してしまった。文系クラス男子11人全員が「女を泣かした」という罪の意識からやる気になった。結果、劇は成功し、色々なところから誉められた。その後からクラスのムードが格段に良くなり、男女の壁も無くなっていった。

God gave ○○○ to you 3

大輔はたとえ少数であっても、すでにできた輪の中に飛び込むのが苦手であった。それでも瞬時に「男1人女2人…芳樹おいしいな。俺が入ったらちょうどいいのに」と、考えながらも、軽く「お疲れさん」と言ってそそくさと帰ろうとしたところで、不意に呼び止められた。
「今クラス会の計画してるんだけど、大ちゃんは来る?一応学祭の打ち上げってことなんだけど」
驚いて振り向くと、美香が手招きしながら、こっちに来なさいと呼んでいる。
大輔は女が怖い。中学から色々頑張ってはみたもののすべて裏目に出ている。中学の時は惚れた女に必ず男ができた。大輔を惚れさせたならいい男が寄ってくるとまで噂された。去年は告白の直前に気づかれて、先に「ごめんなさい。もうしませんから、許して」と言われた。「ごめんなさい」はともかく、「もうしません、許して」って何だ!という心の叫びと同時に一つ気づいた「いくら鍛えて外見的にいい体になっても、つき合えないらしい。でも顔は変えようがないし、中身ってどうやって鍛えるの?我慢強いって中身か?」疑問に答えは出ず、二年次からはほとんど女の子と喋ってない。
「突っ立ってないで早く座りなさいよ」
美香の催促に、大輔は長めの妄想をしていたことに気づかされ、恥ずかしくなって「あ、うん」と、生返事をして芳樹の隣に座った。

God gave ○○○ to you 2

大輔の高校は一年次の芸術の選択によってクラスが分けられていた。どちらかというと芸術的なものは苦手な大輔は絵画、書道、音楽、工芸とある中から、「絵は殺人的にヘタで無し、書道は筆が固まって嫌い。あと二つは、適当に」の消去法で、決まったのが工芸だった。しかし考えもせずに決まることはたいてい良くないことが起きる。工芸の教員は、絵画を兼任していて、一回目の授業は定番の「自分の左手を描け」であった。大輔が画用紙に恥を描いたのは言うまでもない。
二年次のクラス分けは、文系・理系と、理科の科目であった。大輔は文系・生物と選ぶと、一年のクラスメイトはほとんどいなくなり、一つの教室に工芸、書道、音楽、を選択した者たちが集まった。二年次も引き続き一年と同じ芸術を受けなければならなかったのだが、大輔は音楽クラスの連中と意気投合し、工芸は代返してもらって、音楽の授業を受けるようになった。

音楽室は居心地が良かった。体育会系の部活に所属していながらも、「やはり自分は文化系なのだ」と思うほどであった。それからは、剣道部がオフの時は音楽室に顔を出し、合唱部の歌を聴き、吹奏楽部の演奏を聴き、試験休みには、ここぞとばかりに、音楽室でおしゃべりしていた。レギュラーを外れたとき、吹奏楽部に行こうか真剣に悩んだが、剣道部生活があと半年というところまできていて、そのまま剣道部に残ることにした。

レギュラーを外れたあとの剣道部での扱いは惨めであった。もう約束をした先輩はいなかったが、監督や同期の部員の目はある。行きたくない気持ちを抑えて部活に出ても、どこか距離を感じ、行かなかったら、それこそ非難を浴びる。打ちひしがれた練習後に、忘れ物を取りに教室に行くと、吹奏楽部の練習を終えた芳樹と美香。書道部の由子がお喋りをしていた。

God gave ○○○ to you

ギターを弾きたかった。

昔からその欲求はあったものの今ひとつ実行できなかった。大輔は積極的に自分がしたいことを言ったりやったりするのがとにかく苦手で、どちらかといえばオタクな性格であった。あと、おだてに弱くて早とちりの勘違いが多い…と、挙げるほど面倒な性格である。オタクが故にあるマンガに影響され、中学から剣道を始め、「そのうち道場を開いてしまうぜ」と、意気込んで竹刀を降るものの、元々はオタクである。体は虚弱。運動能力は皆無。あるのは空回り気味なやる気のみ。試合に勝つことはなく、瞬く間に三年間は過ぎ、「剣道続けて何が成せる」と思っていた。まぐれで一級に合格するも、「高校で初段とって終わりにしよう」と考えていた。しかし性格と、幼い顔立ちが災いし、高校では先輩に可愛がられ、調子にのった大輔は部活をやめない的な約束を、部員と監督としてしまい、また少なからず中学の剣道部生活で身に付いた負けず嫌いも重なって、高校の三年間も剣道に費やすことになった。

剣道は嫌いではなかった。しかし楽しんでいたのは最初の一年間、部員が少なく、必然的にレギュラーだった期間だけである。この期間には「俺今…部内で一番強いんじゃね?」という時期もあった。オタ野郎にしては随分な勘違いだが、大輔にとって一番足りなかったのは「自信」であり、この頃はそれに見合うだけの努力をしていた。しかし世の常として、永遠はないのだ。猛き者もついには滅びた。スランプに入り、二年目からは素質のある血気盛んな後輩にレギュラーを下ろされてしまったのだ。
その頃から、密かにマイブームであった音楽室に出入りするようになった。
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