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よしりこSS 〜貴女の笑顔に堕天した〜

「全く、このヨハネの帰路にこのような罠があるとは…クックック……。やはり神は我を許さぬという事か…」

私が学校が終わって帰ろうとしたらまさかの夕立。朝は雲一つ無い快晴だったのにこの土砂降り。無論傘なんて物は持っていない。

「あっ!そうだわ、前回使った折り畳みが入って……!」

は、いなかった。そういえば家にいるわあいつ。うん、覚えてる。

最後の頼みの綱も消え、仕方が無いので雨が上がるのを待つ事にした。しかし、雨は上がるどころか嘲笑うかの様に酷くなる一方だった。このままじゃバス間に合わないかも…。まあ、それなら親に連絡して来て貰うか、と頭に過った時だった。

「あれ?善子ちゃん?帰ったんじゃなかったの?」

「きゃあっ!?」

「ひゃっ!そ、そんなに驚かなくっても……」

突然後ろから声を掛けられ、変な声を上げてしまった。振り向くと、そこには一つ上の先輩。

「なっ、何よ!いきなり声かけないで!驚いたじゃない!!それと私はヨハネ!!!!」

「ああうん、ごめんね善子ちゃん……あ。」

わざとなのか、天然なのか。まあどちらかと言えば後者だろう。しかし、これはチャンスね。彼女の傘に入れてもらえば…!と思った。

「ふっ、よく我が声に応えたわねリトルデーモン。さあ、その天より降り注ぐ神の涙からこのヨハネを……」

と、喋っていて今気づいたのだが、彼女の持ち物に私が持っていて欲しい物が無かった。つまり。「持っていない」のだ。私を、彼女を守ってくれるアレが。

「も、もしかして……」

「あはは…私も実は……困ってて…」

「そ、そんなぁ……」

こ、こんなとこまで私の不運が働くもんなのかしら。しかしこれではお互い帰るのは無理である。

「濡れて帰るなんて馴れたもんだし、こうなったら…!」

「えっ?!だ、ダメだよ善子ちゃん風邪引いちゃうよ!!!」

鞄を頭の上に掲げて走り出そうとすると叫んだ梨子に引っ張られてしまう。ぐえっ!と変な声まで上げてしまった。

「な、何で引っ張るのよ!別に濡れて帰るのなんて……!!」

そう、今回に限ったものではない。中学も小学校もこんなことはよくあったのだから今更何とも思わない。ただその後は確実に風邪を引いてしまうのだが。

「善子ちゃんそうやって濡れて帰ると風邪引きそうだもん。だから、先輩としてそれは許しません。」

めっ!と顔を近づけて怒る梨子。流石に近すぎて少しだけ顔に息がかかってくる。顔の熱が上がるのがわかってしまう。

「と、とにかく!私は平気だから!!」

ぐいっと押し返して距離を置く。少しだけ雨も落ち着いてきたのかこれならそこまで濡れずにバス停まで行けるだろう。そう思って一歩出てみると…。

ザァアアアアアアアアアッ!!!

ビュゴォオオオオオオッ!!!

まさかの第二波である。しかも丁寧に暴風まで付け加えられた。一瞬でずぶ濡れになってしまった。

「よっ、よよよよ善子ちゃん大丈夫!?」

「ふ、ふふふ……。これも神が堕天使ヨハネを許さぬ所業という訳ね…。」

「言ってる場合じゃないでしょ!!早く着替えなきゃ!」

「そ、そうね……べたべたで気持ち悪いし…」

しかしさらに最悪な事を思い出した。私達Aqoursは今日活動は休みで練習着は持ち合わせていない。そして体育も無かったので体操着もない。つまり、着替えが無かった。
もう詰んだ。明日は完全に風邪引いて休むだろう。と項垂れていたら隣から体操着とタオルを渡される。

「え……?」

「私は明日体育ないし、最悪替えはあるから。善子ちゃん使って?」

「で、でも…」

「大丈夫。せめて着替えた方が風邪引かないでしょ?」

「あ……ありが…と…」

体も顔も、かぁーっと熱くなる。どうしたのよヨハネ、まさかもう風邪を引いたと言うの!?そ、そんな筈無いわ!いくらなんでも……!

じ、じゃあ…まさか……

これは…

「あ…!善子ちゃん見て!空が……!!」

はっと我に帰って外を見ると、ゆっくりと雲が晴れて空が見えてきた。すでに夕暮れ時で、青かった空はオレンジへと変わろうとしていた。

「今なら帰れそうだね…!」

「ええ!直ぐに着替えてくるわ!」

保健室で着替えさせて貰って、外に出る。うん、もう降ることはないだろう。先程までの厚かった雲はもう綺麗に流れていった。

「よかったね善子ちゃん、これなら帰れるよ…」

「あ、あの…!」

「?なあに善子ちゃん」

「服…ありがと……明日返すわ…」

「ん、どういたしまして」

にこっと微笑む彼女の笑顔に、また私の顔は熱を帯びた。

「か、感謝の印に貴女を私のリトルデーモンにしてあげるわ!感謝なさいよ!!」

「えー?よく言ってるけどそれってなんなの?」

「そうね…名前は……リリーよ!!」

「聞いてないし……!って何そのリリーって!?」

「もう決まったんだから!今から貴女の事はリリーって呼ぶわ!」

「あ、あだ名みたいなものなのかな……。じ、じゃあ私も。」








『よっちゃん』










「……へ?」

「私がリリーって呼ばれるなら、私は善子ちゃんの事よっちゃんって呼ぶね?」

「なっ!なななななな何よそれぇ!!!それに私は善子じゃなくて!!」

「ヨハネでしょう?ならよっちゃんでも問題ないじゃない」

鞄を持って先に外に出たリリー。すると少しだけサアッ……と流れた風が彼女の髪を靡かせた。

「帰ろ?よっちゃん」

嗚呼

地に堕ちた天使は

さらに

一人の女性に

射堕とされてしまったのかしら。
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