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切願



一体何の因果だというのか。
生まれ変わった姿を見かける度、必ずどこかを患っていた。
先天的なものもあれば後天的なものもあった。
戦時中には片腕がない姿を遠くから目にして愕然とした。
そして、必ずあまり長くない一生のようだった。
繰り返し繰り返し、出来るだけ接触を避けて見てきた。
見守るなんておこがましい。何も出来なかった。
ただ見ているだけの繰り返し。
そんな長い年月の中で、何度目かの再会。
勿論前の人生の記憶はないだろう。
目の前に、駅の階段をゆっくりと上る老人の姿があった。左足が少し、不自由なようだった。
一目でわかった。
老いてはいるがそれだけ人生を長らえたのだと理解して、純粋に嬉しかった。
老人がふらりとよろめく。反射的に体が動き、気付けば老体をそっと支えていた。
「ああ…すみませんね」
皺を重ねた顔にいつかの面影を見付けて、視界が歪む。
突然泣き出したら不審に思われてしまう。
笑顔を作って目を細める。涙なんか引っ込め。
「いいえー。気ぃ付けてください」
何でもない返答をしたはずなのに、老人はふふっと穏やかに微笑を零した。
「? 何か?」
「申し訳ない。その言葉を聞いて、なんだか懐かしい気持ちになりましてね」
どくりと、心臓を見えない手で鷲掴みにされたような気分だった。
「ご友人に似た話し方をされる人が?」
言葉を選んで話を続ける。
前世の記憶なんてあるはずがない。きっと似た友人でもいるのだろう。
そう、思って、信じていた。
「いえ、友人にはいないのだけど、遠い昔にね、同じように助けてもらったことがあるのです」
懐かしむように老人は遠くを見た。
「私が小さい頃はまだ戦後の貧困で食べ物がなくってね。母や弟達もいて、どうにかしたくってもう盗みでもしようかと考えた時に、大根が降って来たんですよ」
目を丸くしてから苦笑する。
ああ、そうだった。
「丸々とした立派な大根で、何が起きたのか分からなくって上を見上げたら男の人が立っていてね。『あほなこと考えんと、これでも食べとき』って次々と野菜を渡してきて、両手いっぱいになったのを見て満足そうに頷くと、躊躇いがちに手を伸ばしてきて頭を撫でてくれました。『体に気ぃつけや』と言って、その人は何処かに行ってしまいました」
一度、見兼ねて動いてしまった時があった。
前世を、前も前の前もその前も、見ていただけで知っていたので、そんな悪事をして欲しくなくって、通りすがりを装って手を貸した。
「名前も知らない、顔もよく覚えていないのに、そのやりとりだけは不思議とよく覚えています。口調は似ていましたが貴方のように若くはない。御存命であればもうだいぶ御高齢でしょうね…」
それは、前の人生の自分。覚えて、いたのか。
「ああ、長々とすみませんね。ありがとうございます、助かりました」
数十年越しの御礼を。合わせて言われた気がして。ぺこりと下げた頭を、老いて痩せた肩を、くしゃくしゃの顔で見つめた。
関ヶ原の陣中で、六条河原で、互いに人生の半ばで途絶えた命。
今生ではきっと、その倍くらいは生きるだろう。きっと、きっと。
「…気にせんといてください。体に気ぃつけて、長生きしてや」
声が震えてちゃんと話せたか分からない。
老人の頭が上がる前に踵を返す。早く立ち去らなければ。
堰を切ったように溢れ出て止まらない、ぼろぼろの涙を見られる前に。


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神の樹



『馬防柵を設ける』
殿の命により、山中村の男衆の協力を得て、急ぎ設置に回っている時のことだった。
視界の隅に大きな三本の杉が映った。
それぞれが絡まることなく、真っ直ぐ天に向かって伸びているのが見え、その杉を傍らに居た山中村の者に尋ねる。
「あの杉は?」
他の杉とは異なる雰囲気に、不思議と興味が惹かれた。
尋ねられたその者は何だか言いにくそうに口をもごもごしていたが、黙って答えを待ち続けていると観念したようにぽつりと告げた。
「自害峯の三本杉、と言います」
「自害峯の三本杉…」
口の中で繰り返し呟いた言葉。
「どなたの」
「昔むかしの皇子様ですよ。大きな争いに敗れた皇子の御首級が、首実験の後にあの地に葬られたのだそうです。皇子様を祀った神社もこの辺りに幾つかあります」
戦の前に縁起が悪いかと思ったのですが…、と言い訳のようなものを口にして、男は一度頭を下げるとそそくさと立ち去って行った。
その早さに苦笑し、湯浅五助は三本杉に視線を転じた。
「御首級…か」
妙に気にかかったのは偶然か必然か。
気付けば自然と足がそちらに向かっていた。

 

 

みんみんみんみん。
蝉の鳴き声が両隣の木々の間からよく響く。
暦の上ではもう秋だというのに、ここではまだまだ夏の盛りらしい。
歩き続けて辿り着いた地で足を止め、旅装束の編笠の下で、若者は額の汗を拭った。
二十代半ばくらいの精悍な顔付きの若者は、腰の刀に手を置き、叔父に比べれば劣るものの丈のある体を反らして清天を仰いだ。
「よく晴れたものだ」
霧がかかっていたあの日とはまるで違う。年月は違えど同じ土地だというのに。
慶長五年。
この地で天下を二つに分けた戦が行われた。
徳川方の東軍につき、叔父と共に参戦した記憶はまだ新しく、まざまざと目に浮かぶ。
鬨の声、刀槍を交わす音、生を断たれる間際の悲鳴。
風が吹けば死臭がし、川は血で黒々と染まる。
自身の手に握るのは槍か。頭に被っているのは兜であったか。
一つ瞬き、ゆっくりと息を吐いた。
微かに木々の葉を揺らして風は、熱を帯びて頬を撫でる。眼だけで左右を窺えば、ここは戦場ではない。紛れも無いのどかな地。
時が流れた分だけ人々の力で、或いは自然の力で、元の景色へと戻されつつある関ヶ原。
記憶に引っ張られて白昼夢でも見ていたか。
口端に苦笑を滲ませ、暑さ以外の原因で流れた汗を拭う。
編笠で遮っても身に降り注ぐ日射しは熱い。
少し一息つくかと考えた矢先、これまでにない強い空風が突如襲いかかり、とっさに目を閉じた。
やがて周囲が静かになったのを見計らい、慎重に瞼を押し上げる。
あのような風が起きたところを見ると、やはり一応秋は近いらしい。
ふと、これまで歩いていた道の脇に、開けた空間があるのを見付けた。休憩するのにちょうど良いと、誘われるかの如く足が進む。
林の中にぽっかりと穴が開いたようなその場所は、以前甲冑を身に纏って駆けた地の、すぐ近くだった。
こんな所があっただろうか。
不思議に思いつつ見渡せば、質素な空き地にこじんまりとした祠。一つだけ力強く存在する神木。
「…旅の方ですか?」
前触れもなく背後から聞こえた男の声に、反射的に刀の鯉口を切った。
「待って。待って下さい」
声の主は慌てた口調で正面に回る。
神官の格好をしたその者は、危害を加えられぬよう姿を見せ付けた。
「私はただの神職の者。不審な輩ではございません」
刀から手を離せば、安堵の溜息を漏らしたのを聞き、反射とはいえ物騒な真似をしたことを謝罪する。
「申し訳ない」
「いえいえ。旅の方が珍しかったもので、こちらこそ不躾に失礼を致しました」
丁寧に頭を下げるその動作が妙に綺麗だった。
顔に視線を移すとまだ若い。肌が白く、端正な顔立ち。武家の出である自身から見て、体は細い。農民にも武士にもそぐわぬ容姿は公家衆が一番近いように見て取れた。
柔らかく上品に微笑した神官は、そっと器を差し出した。
「まだ暑さが厳しい道中、さぞやお疲れでしょう。どうぞ」
片手程の大きさの器にはなみなみと水が満たされており、視界に認めた途端に喉が渇きを訴えた。
「有り難く」
礼を述べて受け取った器に口を付ける直前、すんっと臭いを確かめる。異臭はしない。疑わずとも正真正銘の水だと判断し、喉に通した。
雪溶け水を思わせるくらいにひんやりと冷たい水が、臓腑に染み透る心地だった。
器に半分残し、神官の者と辺りを見る。どう控えめに見ても神官を在住させるような大層な所ではない。そんな心中が顔に出たのだろう。神官は苦笑した。
「小さいですが、これでもれっきとした神社。ずっと昔に大きな戦があった時、敗れて近くに葬られた皇子を祀っておりまして、この土地に幾つか点在している同じ規模の神社を回るのが私の仕事なのです」
成程、と相槌を打とうとして、途中で動きを止める。
「ここの神社は…前々からあっただろうか…?」
先の戦の記憶を探る。神官はおやっ、と反応した。
「もしや数年前の戦に参加された方ですか?」
「あ、ああ」
「その時この地はある御方の陣中近くでありましたから、お気付きになられなかったのも無理ありません。確かに在りましたよ」
知っている。
この辺りには大谷刑部の軍勢があった。
遠くに見える山には小早川勢が、ここから近くの地には宇喜多勢、その傍らには小西勢。
容易く浮かぶ各軍の配置。
「そのご様子ですと、近くだったことはご存知ですね。それでは…」
神官は少しだけ声を落として続きを紡ぐ。
「御首のゆくえは、ご存知でしょうか?」
急に出て来た物騒な単語に驚愕し、言葉を失う。
小早川のみならず数々の裏切りについには堪え切れず、崩れかけた軍勢の中で自害した刑部。
刑部の御首は介錯を務めた勇将、湯浅五助によりいずこかへ隠され、未だ見つかっていない。
訝しげな様子を見て、神官は、
「ここだけの話です」
と前置きをして話し始めた。

 

 

優勢だった戦況が、まるで余興であったかのようにひっくり返された。
翻し向けられた旗。
共に戦った者の裏切り。
集中攻撃に何とか堪えてはいるものの、いつまで続くかはわからない。
いつまで。
「殿」
読み上げ終えた平塚殿からの文を手中にし、傍らに控えて殿を窺った。
戦の喧騒とは裏腹に、殿は酷く落ち着いた態度で顔を上げた。
病により爛れた皮膚を白頭巾で覆い隠し、光を失くしたはずの眼で松尾山の方角を見遣る。続いて笹尾山へと向いた。
笹尾山にはこの度の戦の要である石田三成殿が陣を配していた。
一つ二つと殿の口から零れた言葉は友へ向けてのもの。詳しくは聞こえなかったが、謝っているようだった。
「五助」
「は…」
分かっているはず、承知していたはずなのに声が震えて、そのことが更に喉の奥を揺らした。
「すまない」
殿は白頭巾の中でもそうとわかる微笑を浮かべた後、ゆるゆると瞼を下ろした。
「頼む」
穏やかな表情に何も言えない。
喉だけでなく体も震えて、言葉もなく、目頭が熱くなった。
しばし動けないでいた体を、ようやく起こした。
「御意」


頭巾と同じ白い布に包んだ御首を大事に抱え、主命を全うするべく頭を回転させる。
誰の目にも触れさせてはならぬ。
誰にも。
遠くへ向かおうとしていた足を止めた。
誰にも、触れられない。
禁忌の。
閃いた瞬間に走る。
村の衆に聞いた、陣のすぐ近くにある小さな神社。ささやかな祠と、大きな神木。
戦さえなければ参拝する者もあろうが、今は誰からも見向きもされない。
神社に着くと案の定無人だった。
神木へと足を運び、見上げる。長き年月を感じさせる大木はしっかりと地に根を張り、安定した幹から様々な枝を伸ばしていた。
その神木へ深く一礼。しゃがみ込むと恐れ多くも根元を掘り出した。
最初は脇差を用い、鞘ごと折れてからはこの手で。
深く、より深く。
爪が剥がれても怯まずに掘り続けた。
十分な大きさになり、その穴に御首を大切に葬る。土を埋める前のほんの一時、最後の別れを告げて。
「…しばしのお別れにございます」
誰にも見付からぬように、至上の宝を隠すように。
神木の根ならばきっと考えは及ぶまい。
不自然になっては元も子もないので細心の注意を払う。
それが済むと今度は祠の前で膝をついた。
自害峯の三本杉を目前にした時、何とも言い難い気持ちになった。
侵してはならぬ深淵に立っている心地。
祠を前にした今もそれと似たものを感じたが、あの時とは異なり、もうその淵に足を踏み込んでいた。
この地は皇子の神社。
「御神木の根を勝手に拝借致しましたことを、お詫び申し上げます」
地に手をつき、頭を下げる。
「ですがどうか、我が殿をお守り下さい」
深緑の香りが鼻をくすぐる。
「皇子様の御陵との縁の地でありますればこそ。…侵犯の咎はこの五助めが一身にお受け致しますので。どうか、我が殿が決して人目に触れませぬように」
戦場であることを忘れて、無心に祈った。
「お願い申しあげます」

 

 

「…その後のことはご存知でしょう。湯浅五助は敵将と遭遇し、主の捜索と引き替えに自身の首を渡しました。敵将はその時に交わした口約束を律儀に守り、総大将にも教えなかったそうです」
長々と語りを終えた神官を見る目が変わる。険しい眼差しの自覚はあった。
「二つ、尋ねたい」
「何なりと」
対して神官は微笑む。変わらずに、構えもせずに。
「一つはどうしてそれを知っている」
口にした話は殆どが事実であった。広く知られていない詳細までも語られていた。
「実は私、この場に居たのです。巻き込まれては大変と、こっそり隠れ」
「戦の前に近隣の者達は皆、避難したはずだ」
神官を遮り、強く出る。
戦にあっては味方と判断つかぬ者は簡単に殺める。命が危険な場に留まる物好きはまずいない。
「二つ目。何故俺に話した」
先の質問よりも幾分力なく、言葉を発した。
神官は愉快そうに口元を緩める。その顔は高みの者が、下の者の成長を見遣る顔。
「近年の若者はなかなかに察しが良い」
低く響いた声に、思わず距離を取る。
「そう警戒なされるな」
同じ微笑でも感じられる雰囲気ががらりと変わった。
「では正直にお伝え致します」
ゆったりとした神職の衣装の袖から扇を取り出し、まじまじとこちらを眺めた。
そしてにっこりとする。
「まず先に二つ目の質問。懐かしい、という程の年月は経てませんでしたが、見たことのある顔というのが理由です」
「………」
「一体何が目的でこの地に再びやって来たのか気になった、とも申しておきます」
神官の姿をした者は優雅にあおいでいた扇を音もなく閉じた。
言い知れぬ高貴さに気圧される。
先の話を反芻して一つの答えに辿り着くのと、正面の人物が扇を指し示すのはほぼ同時。
「最初の答えはあれですよ」
扇の先には小さな祠。
「私はあの時、ちゃんとあそこにおりましたので。存じ上げているのです」
俄かに信じられないが、頭に過ぎったことだった。
この神社の祭神。
かつての皇子。
「何故、話したか。という問いにはもう一つ答えがありまして」
扇の先が緩慢な動きで自身に向けられた。
「貴方への牽制でもあります」
それまで笑んでいた瞳が今は全然笑っていない。首筋がひやりとする。
こちらの様子を目にし、祭神は表情を改めた。
「徒情かと思われるやもしれませんが、あのような忠臣の切なる願いを叶えて差し上げたいのです」
視線を地面に落とした様子は年相応。大木へ向き、己に言い聞かせるように尚も言葉を重ねた。
「この神木が在り続ける限り、誰にも指一本触れさせません」
忠臣はいつの時代も宝ですから、と辛うじて聞こえたくらいの声で呟いて苦笑し、
「さあ、もうお引き取り下さい。敵将殿?」
差し向けていた扇を開き、大きく扇いだ。
刹那、再び空風が襲う。
『…貴方も約束されたのでしょう?』
風の音に紛れ、耳朶に触れた言葉。
穏やかな声色でそう、囁いた。
風が止み、閉じていた瞼をそろりと上げると、歩いて来た道に立っていた。すぐ隣には先程まで居た小さな神社。
今までのやり取りは夢であったかと錯覚するくらいに、同じ位置で足を止め、汗は流れ、蝉は喧しい。
だが何気なく下ろした視線の先で、器に飲みかけの水が揺らいでいた。

 

 

その後日。
大谷刑部陣跡にも、ある小さな神社にも近い山中に、慎ましい墓所が出来た。
大谷刑部に控えるよう、湯浅五助隆貞の墓が並び、毎年合戦があった日には決まって花が供えられた。
墓所を設けたのは五助の最期に邂逅した者。
藤堂高刑、と伝え聞く。


 

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知らない、見ない表情を



「なあなあ、卒業したら何になんの」
世間話でもするように、卒業後のことを聞いてきたその人は、別に友人でも先輩でもなんでもない。
「はあ…」
ただの顔見知り程度の人だ。
以前缶コーヒーを御馳走になったことはあったが、何処の誰で何回生で何科で名前さえも知らない。
それでも向こうは極々たまに話しかけてくる。
何処かで会ったかのような気さくさで、でも会った記憶はない。
一度誰かと間違えているのではないですか、と問うた時がある。
すると、一瞬寂しそうな顔をして、でもすぐに笑顔でこちらの名前を言い当てた。
あの顔はなんだったのか未だに分かってはいないが、寂しい顔をさせて申し訳ない、という気持ちが湧いた。自分でもよくわからないのだが。
それ以来、話し相手をするようにはしている。話し相手とは言っても向こうは何も語らない。こちらに他愛もないことを聞くだけだ。
炭酸飲料のペットボトルを開ける。プシッという小気味よい音がして、しゅわしゅわと弾ける。
その人は興味深そうにそれを飲む様子を眺めていた。
「まだ二回生ですから本格的には決まってませんが、建築関係に進みたいと思ってます」
年齢不詳なのであくまで敬語。差支えないのが一番だ。
有り難いことにやりたい事をやりなさい、と送り出してもらった身。それに応える為にも努力は惜しまない。
「建築か…」
短く返された言葉の中にどこか面白がっている響きを感じ取り、馬鹿にされたかと思って見ると、その人は何故か誇らしげに、嬉しそうに、小さく笑っていた。
その表情は初めてみるものだった。
「それが進みたい道なら、がんばりや」
ひらひらと手を振って、話はそれまでとばかりに立ち去って行く。
「…なんで」
名前も知らない人なのに。何処の誰で、どんな人かも知らないのに。
あんな、よくあるような励ましの言葉だったのに。
「なんでだよ…」
あの人に話した将来が、認められたことが、こんなにも嬉しいなんて。
思わず力が入った右手のペットボトルの中で、炭酸がまたしゅわしゅわと弾けていた。



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ゲームを始めようか



本来ならばそんなものに興味はないのだが、何か賭けようと言い出したのは間違いなくそちらだ。
何でもしてやると大口叩いたのも、七日間無償で働くのでも構わないと肯定したのも。
これはいい労働力を手に入れた。
ならば精々働いてもらおう。
緩く口角を上げる。
「では、遊戯を始めようか」


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境界線の引き方



それはさして難しくはない。
このような病の身、近寄りそれを越える者は数少ない。
中には模範的な者もいる。表だけは丁寧な者。
そして、そんなものなどなかったかのように軽々と乗り越え、気付けば傍らに居る者もいる。
…貴い存在だと、思っているよ。


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