書き置きを見つけたのは、一通りの言い合いの後だった。

なぜもっと早く気がつかなかったのだろう。どうして単に遊びに行っただけと思い込んでしまったのだろう。
あと一歩の所まで散らかした部屋で、気付けば二人で立ち尽くしていた。


どうしても止められない投げつけてしまう癖。投げながらもその後も後悔してしまう。
ならば止めればいいのに、と誰に話しても返される。何故そうしてしまうのか一緒に悩んでくれた人もいたし、投げた後のことを心配してくれた人もいた。
それでも、一人で考えても何人で考えても核心に至れないのは、日向がそういう事をさせてしまうからだ、という諦めを共有してしまっているからなのかもしれない。


「ひな、まこと、あおいを深さないで下さい。お前アイツにどーいう教育してんの」


メモを拾い上げて、わざとらしく書き置きを読み上げる。
いつもならただ茶化しているだけに聞こえるはずなのに、今この場で言われると青唯の事も喧嘩も全て自分が悪いと言われているように受けてしまう。

毎日こんな事をしているワケではないけれど、意見の食い違いはもう数えきれないほどになっていた。
それでも今ここにみんなで済んでいるのは誰の、と逃げてしまうのは僕の悪い癖だ。
もしくは父親にも母親にもなれない僕の、まだ超えることの出来ない高い壁だ。


「今はそこじゃないでしょ」


疲れをあらわにした言葉で、再びしんとする。
テレビのリモコンはどこに落ちただろうかと、立ってリビングを見回してみた。
余計なことを言わなくても分かる、という関係が便利なようで面倒だ。

ライターをつける音に、息を吸い込む音が聞こえる。
溜息を隠すように煙を吐き出してから、日向は隣に座り込んで僕を見上げた。


「あのさ、俺にどうして欲しいの」

「分からないの」
「そんなら俺にもわかんねーや」


息を、吸い込む時間よりも吐き出す時間の方が短い。もしかしたら自分の呼吸を映されているのかもしれない。

日向のこと。青唯のこと。雅人のこと。自分のこと。それぞれ必要な時に考えていたことが、今はどれをと道を悩ませる。
一人では背負いきれないものを抱えてしまっている。出来ると思ったことは、いつまでも出来ると思うままなのだろうか。


「ここにいて」


見計らったように、煙草を揉み消すカサカサという音がする。
何を伝えようと思ったのかもはや分からない、憔悴の意がにじむだけの決まり文句。
頭の回転が速い日向にはどう聞こえただろう。今まで、どのように僕の声を聞いていたのだろう。


「青唯ふかしてくるわ」


今はここにいるべきじゃない。先に動いたのは日向の方だった。
取り残されたわけじゃない。けれど待つだけなのももどかしい。
投げつけたケータイをポケットにしまってから、最後に投げようとしたキーケースを掴んだ。


鍵をかけてまず、着ていた上着を脱ぐ。
夏はもうすぐそこだ。何も考えなくてもなんとなく上手くいくような、待ち望んだ浮気な夏。
今は追いかけるようなことはしない。上着は脇に抱えて、駐車場までの道を急いだ。




『時は僕を許してくれない』
たとえば僕が
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