話題:フェチ

下手な文字が好きです。何を失礼な事をとお思いになるかもしれませんが、本当に好きなんです。特に中学生男子が書いたような独特の文字を見ると胸がきゅんとなります。去年同い年の美容師さんから貰った直筆の手紙はそれはもう味のある下手加減で、ほんの数行のメッセージに危うく惚れ込むところでした。ボールペンを使った文字だったのですがヨレヨレ加減が絶妙で、シとツはほとんど同じ格好、更にはハートマークも下向きのおにぎりみたいな形になっていて、加点加点のオンパレード。こころの中の審査員が技術点マイナス100！芸術点200！ってどんどん失礼な札を上げていきます。その位、くううこの人はどこまでわたしを悶えさせるのよー、と一人じたばたしたのです。面と向かって「あなたの"下手な"字が好き」と言った事は流石にありませんが、高ぶる気持ちを胸に秘めきれず「あの手紙はベッドから見える所に飾って寝る前にいつも見ています」と伝えてしまいました。美容師さんは、えっ！？という顔をしていました。

というわけで長らくこの美容師さんがわたしの中の「下手な文字ナンバーワン」だったのですが、先日、王座を狙う刺客が現れました。この間原付を買った自転車屋のお兄さんです。年齢的にはおじさんと言った方が良いかもしれません。「そろそろ原付の初期点検の季節になりました。このハガキを持ってお店へ遊びに来てください」といった内容を判読するのに二日かかった程パンチの利いた文字で、ひとつひとつの字が大きくて四角い。これは……！とハガキを暫く見つめ、ノートパソコンの横のメモスタンドに飾りました。ハガキを持って行くとオイル交換代が500円安くなるそうなのですが、多分ハガキは回収されてしまいます。下手文字フェチの我が輩としてはいっそハガキを紛失したフリをするべきなのでは？ではでは？

西洋人が左右対称な完璧さを求める美意識を持っているのに対し、日本人は古来から左右非対称で不完全なものに美を感じてきたと言われています。たしかに建築物や盆栽なんかを見ても、敢えて中心点から外してバランスを崩したり、不揃いにする事で、そこにわびさびを見出していますよね。わたしの下手文字フェチも元を辿ってみれば、そこに通じるものがあるように思えてなりません。もちろん綺麗な文字は綺麗な文字として素敵だなあと思います。ただ下手文字は時として何かそれを上回る魅力を持っているように感じるのです。ああ、どうか全国の下手文字書きさんがポールペン講座なんか始めちゃいませんように。わたしは今自分のしょうもないフェチをアピールするためだけにポールペン講座を敵にまわそうとしています。いずれ倒さなくてはならない相手だ。むむむ。よろしく、よろしく。

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