話題:夏

中学１年の頃、わたしは陸上部とブラスバンド部の先輩達から勧誘を受けていました。だけど紫外線アレルギーがある自分にとって屋外で練習をする陸上部への入部は命取りになります。またブラスバンド部は上級生がとても厳しく新入生いじめがあると聞いていたので、なかなかイエスと答えづらいところがありました。それで部活をどうしようかと考えた時、絵を描く事が好きだったので美術部を覗いてみようと思ったんですね。

ある日の放課後に美術室へ行くと、黒板の前に３年生の女子生徒と先生が立っていました。女子の先輩が「あっ、その上履きの色は１年生！もしかして入部希望者！？」と目を大きく見開きます。「はい。ちょっと見学だけさせてほしいんですけど」「先生！先生！念願の入部希望者よっ！」「あっ、いえ、まだ入るかどうかは決めてないんですけど」「あなた可愛いわね。うちの部に入ったら先輩がアイスクリーム奢ってあげる」「入ります」わたしは即答し、その場で入部届けを書きました。

よくよく話を聞いてみると、美術部は３年生の先輩、つまり部長と、２年生の女子部員の２名しかおらず、この春に廃部寸前の危機を迎えているとの事。「誰か１年生連れてきてくれない？ハウちゃんの周りにアニメとか漫画とか好きな子いない？アイスクリーム奢るからお願い」わたしは食べ物に釣られ、なかよしで連載されていた「カードキャプターさくら」が好きな子と格闘ゲームの「ザ・キング・オブ・ファイターズ」が好きな子を引っ張ってきました。そこに２年生がもう一人加わり、何とか５人揃った美術部は存続する事になったのです。

美術部部長の蜜たんはとてもわたしの事を可愛がってくれました。毎日部活を終えると、自転車通学の蜜たんの横をわたしが歩いて帰ります。その時に「部長！わたしのバッグもカゴに入れて！」とわがままを言うと、「し、仕方ないわねっ。今日だけよっ」と答えながら必ず自転車の前カゴに荷物を入れてくれるのです。おかげで両手が自由になったわたしはあぜ道の花の蜜を吸ったり、トゲトゲしていて洋服にくっつく緑色の実を蜜たんのセーラー服の背中に投げ付けたり、こっそり持ち帰った給食の食パンを川を泳いでいる鴨の群れに放ったりする事ができました。

ある夏の日、帰りがとても遅くなって、空がすっかり暗くなった事がありました。畑の中の農道を蜜たんと歩きながら話していると、不意に流れ星が空を落ちていきました。「あっ！部長、流れ星！」「えっ、わたし見てないわよ」「本当だよ！わたし、見たもん」「ハウちゃんの見間違いじゃないの」蜜たんが笑いながら言うので、わたしは傍らのススキ畑から一本の穂を取って、頭の上で大きく真横に振りました。「部長のためにもっかい見せてあげる。ほら、流れ星だよ」「うーん、これもありかな。じゃあ願い事３回唱えるからずっと振り続けてて」自転車を押しながらうつむいて目を閉じる蜜たんに「何をお願いしたの？」と尋ねると「わたしが退部した後も、ハウちゃんがずっと美術部を守ってくれますように、って」との言葉。それは子供ながらに大事な約束のような気がして、結局わたしは中学３年間を美術部員として過ごしたのでした。

大人になって暮らす場所が変わった今、蜜たんとは年に１回か２回会って話をする関係になりました。それでも顔を合わせる度、わたし達は中学生の頃の姿に戻る事ができます。いつも話す内容は変わらないのだけど、懐かしいねという響きを共有できる相手がいる事はとても幸せです。蜜たん、今年は秋頃に会えるかな？楽しみだなあ。

拍手してくれた方々、どうもありがとね。

＞ひらめ☆さんへ
予想が当たっていてよかったです！文末にいっぱい音符マークが並んでいたから、ひらめ☆さんかなあと思って。１割負担はわたしも申請しています。診療代がぐっとおさえられるので助かりますよね。手帳はひらめ☆さんと同じで３級になりそうな気がします。どきどき。　

＞じゅんぺろ君へ
そんな、絶望なんて大げさだよ。ふつうの日常の事を書いてるだけなのに……。ちょっと恥ずかしい。でも、そんなに待っててくれた事が嬉しいです。どうもありがとう。わたしもじゅんぺろ君の日常を覗きに行きますね。

＞まーちゃんへ
えー、わたし、まーちゃんの夢に出てきたんだね。正夢になるかな？いつかなるといいな。それからおすすめの曲、早速動画サイトで聴いてみたの。Superflyは全然詳しくなかったけど、パワフルな歌声とメッセージ性の高い歌詞に聞き入ってしまいました。教えてくれてありがとね。

＞ずっと前に名無しで拍手したものです。の方へ
押し付けがましいだなんて、全然そんな事思ってないですよ。むしろわたしの方こそ、ブログを読んでくださる事にお礼を言いたいです。いつもすごく長くなるのに、目を通してくださってありがとうございます。