14/09/02 22:26 (文章)
縁を切るお仕事



カニはカショカショカショカショ。毎日縁を切っては泣いていました。どうして僕は人と人のつながりを切らなければならないのだろう。こんなこと、ほんとはしたくないのに。ほろりほろりと涙を流しながら、カニは刃を合わせます。カショ、また一つ、赤い糸が切られました。


カニは泣きながらも、ハサミを動かさなければなりませんでした。それが彼の仕事であり、天命だったからです。カニが切った縁はさよならをします。カニは哀しくてたまらない気持ちをぶくぶくと吐き出しました。誰にも届かずパチンと消えてはまたぶくぶくと零れ出します。ぶくぶく。


ぶくぶく、零れた泡の一つが飛んでいき、神様の元に届きました。カニの泣き声を聞いて、神様はカニに会いにいきました。

どうして泣いているのですか?

僕が縁を切ってしまったせいで、皆サヨナラをするんです。笑いあった日々も、喧嘩した日々も、全て切れてしまうのです。
僕のハサミが無ければ、僕がいなければ、皆永遠にさよならしないのに。
カニはまたぽろぽろと泣き出しました。もうハサミを動かしたくありませんでした。
神様は泣いているカニにそっと触れると優しい声で語りかけました。



あなたの仕事は人との縁を切ること。
それはとても悲しいことですね。さよならは誰もが悲しいものです。しかしね、あなたが切った赤い糸は、こうしてまた別の糸と繋がり合うのです。あなたが切らなければ繋がらなかった縁があるのです。さよならをすることで、幸せになれることがあるのです。あなたのお仕事は人を不幸にすることじゃない。新しい出会いを与え、未来を作っていくものなのです。



神様は微笑みました。そして雲の下、幸せそうに笑う二人を指差しました。カニはまだ涙が止まりませんでした。しかし今度は哀しい涙ではありません。
自分の切った縁は、どこかに繋がっていた。新しいこんにちはに繋がっていたんだ。よかった…、良かったんだ。ぶくぶくと溢れる泡は飛んでいき、幸せの鐘の音を運びました。

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