あたしが泣く子も黙る坂の上に住んでるって話は、まぁ周知の通り。

最近じゃ坂っつってんのに、
崖の上ってジブリっぽいニュアンスで伝わってるけど、
まぁ、それはちょっと置いといてね。

その坂だか崖だかの住居にて、
いささか事件が発生しました。

あたし、二階建て四世帯のアパートに住んでるんですけど、
どっちかってーと二階の方に腰を据えてるんですけど、
二階っつっても三階くらいの地面との距離で、
下着ドロとかもれなく来れない感じなんですね。
きたらむしろ褒めるっつーか、頑張りを労うっつーか。

だからベランダに洗濯物を干す際なんて、
落ちたら大変ですから細心の注意を持って干すんですよ。
洗濯バサミを数えさせたら四世帯中一番だと思う。

とはいうものの、二年も住んでればイレギュラーも多々ありますし
どんなに注意しててもね、
落としちゃうことだってある。人間だもの。

一度だけ、スーツをまるっと落としてしまったことがありまして、
とんだ大捜査線を陽だまりの中繰り広げたことがあったんですけど、

今回、捜査どころじゃない。

文字のニュアンスだけで例えるなら戦場のピアニストっぽい。

激しく、そして切なく。


「拝啓 りっちゃん

先日は、久しぶりに会えて凄く楽しかったです。
あっという間の一日でしたし、
会わなかった期間を取り戻したようなひと時でした。

色々と、話を聞かせてくれてありがとうね。
りっちゃんと話していると、いつも驚きなことがいっぱいです。

ああ、そうそう、りっちゃんが寝巻きで持ってきたロンTね、
ちゃんと洗って保管しときます。

真ん中にでっかく「巨乳」って書いてあるから、
これからも内輪の中だけで着てくださいね。

それでは、次は2016年に。

ゆうこより。」






っていう、友人の忘れ物をですね。
洗ってた。ちゃんと洗って干してた。

「りっちゃん巨乳っつーか微妙の微で微乳だよね〜!笑」

「まじそれ乳か際どいみたいなニュアンス持っちゃってるから〜笑
紛れもなくっつーか紛れ難く乳だから〜!笑」


とかって会話をした思い出がある巨乳Tを、せっせと。


いつも通りの手順でいつも通りのハンガーでいつも通りの場所にいつも通りね、
干してたんですけど、
その日の夜に、いつもと違う風が吹き荒れまして、

朝起きたら見事にホームアローンなの。



え?みんな、どこ行ったの、、?


ベランダの隅とかかろうじて手すりに引っかかってたりとか、
なんとか、ほとんどのメンバーは無事回収したんですがね、

野球でいう、4番がいねぇ。。


はいはいちょっと!ちょっとストーップ!!
たんま!一回たんまねー!!

いやー、まじほんとさー、
小学校で習わなかったの?
どこか出かける時はお家の人に行き先と遊ぶ友達を伝えろーって。

んでもって、何時に帰るかの目安くらいまで伝えとけーって。心配すっから、まじで。

ベランダの下、一階の二部屋のちょうど真ん中あたりに、
巨乳がね、落ちてるんですけど。

そこねー。前もね、一回落としたんだけどねー。
もうね、あたしがどんなことして取ったと思ってんの?


軽く泥棒だったからね?


ほら、一階だから結構簡単にとれそうなんだけどさ、
最初に言ったように、三階建てくらいのテンションで建っちゃってるから、家。

地面と一階の距離感、半端ないのね。
凄く小さい頃に会った親戚の叔父さんみたいなよそよそしさ。

だからスーツをまるっと落としちゃった時なんて、
家からちっちゃいテーブルと椅子と分厚い本とクイックルワイパー持って、大捜査線
ですよ。

事件は現場で起きるねほんと、っつって。

しかも、クイックルワイパーで引っ掛けてとろうとしたら、
あいつ首の部分しか稼働しねーから全然戦力外だったしね。

サッカーにオコエ呼んじゃったよ的な。
腕の長さとか活かせないから。

ましてですよ、
アパートの裏側からベランダに登ろうとしてる奴がいたらですよ、
とにかく明るい安村だって血相変えてきますよ。安心してくださいとか全然通じないから。

そんな過去の実績をね、持ってして、
再トライしろと、、?


あれはもう、繰り返すまいと思ってたのに?

これが普通の、なくなっても問題ないような服だったら、
見ないふりって選択肢もあったのに、

保管しておく側の義務としては、
拾いに行くしかないわけです。
ちょっとした泥棒っぽくなったとしても。

例えばこれが、人に見られても問題ないような服だったら、
一階の人にちょいと事情を話して、
拾うのに協力してもらいたいんだけれども、

あたし、「巨乳T」を見られた後に、
通常フェイスを保てる自信がない。
「ちょっと友人の服が落ちちゃって」なんて理由を添えたとしても、
保てる自信がない。
むしろどんな友人だよって。
それこそ安村かよって。明るいかよって。



で、登りました。
ちっちゃいテーブルと椅子と分厚い本と、
今度はクイックルじゃなくてハンガーを持って。

ハンガーのね、あの引っ掛けるところでちょちょいと、
ちょちょいと取ろうと思ったんですけど、
全然ひっかかんないの。
むしろクイックル的な感じで結構な戦力外。

「、、、二の舞か!!!」って、
人生であんなに力強い二の舞を言ったの初めて。

最後に信じられるのは己のみって感じで、
ほんと気持ち程度な崖の側面のでっぱりを利用して、登りました。
登ったっていうか、ぶら下がったっていうか。
自分家の裏側登るって、そうそうない。

巨乳を救出してからの撤収具合ってったら、
すき屋くらいのスピーディさでしたね。
勤続5年目のエリアマネージャーくらいのスピード出てたと思う。

だって、何が怖いって、一階の人にうっかり出くわしでもしたら、
あたしも怖いけど、相手も怖い。

曲がり角で食パン銜えながら出会うのとじゃ、
わけが違うわけですから。

一度もお話したこともないですけど、
一つ屋根の下に住んでいる者としては、
そこは、親しき仲にも礼儀あり。と。
あくまで紳士に、迅速に問題解決を図らねば、と。

そんな思いで救いだした巨乳Tをね、
また洗って、その子と会った時に持ってってあげたんですけどね、
まぁ、まさかの

「別にあんまいらないからよかったのにー!律儀ー!」

って言われた時には、
あたしも戦場でショパン弾けそうなくらい、
胸にくるものがありました。
(2015年とともに忘年してぇ。)

皆さんほんと忘れ物には気をつけて。