薄れた記憶
2015/03/06 00:32
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生まれつき身体が弱くあまり外で遊べない上、親の転勤が続いたため、例え仲良くなれそうな同年代の子供と出会ってもすぐに離れてしまう。そんな彼にとって少年は、初めてとも言える友達であった。
走り回って遊ぶのが好きなはずなのに、体力のない自分のことを思ってお話に付き合ってくれる。面白いお話をたくさんしてくれる。そんな優しい彼に自分も何かしてあげたくて、本を読むのが苦手だという彼に、とっておきの本を読んであげると約束した。大事な、宝物とも言える本を抱えて、彼の待つ公園へ急ぐ。

「キキョウくん、喜んでくれるでしょうか…」

彼のことを考えるだけで、本を抱えた胸が高鳴る。少し走ったせいか息が切れているというのに、思わず笑みが溢れる。彼といるだけで、体の中から暖かいものが溢れてくる。

病弱な少年は、それが初恋だとはまだ気付かない。



さらさらと優しい声が耳に流れてくる。絵本でも3ページも捲らないうちに飽きてしまうのに、文字だけがびっしりと書かれた本が、少女の口から語られれば、たちまち物語の中に引き込まれた。
自分が好きそうな物語を選んできてくれたのだろう。怪物を倒すため旅に出る勇者の物語。少し持ち運ぶには重そうな本を抱えて来た少女の息は切れていた。病弱だという彼女は、あまり運動をしてはいけないらしい。そんな彼女が自分のために、そう思うとたまらなく嬉しかった。

「ナデシコちゃん、それでその続きは?」

続きを促すと、花のように綻んだ笑顔が自分だけに向けられる。柔らかで少し得意げな声が、自分のために発せられる。彼女といればいるほど、愛おしさを感じる。

その少女が少年であると知らず、少年は初めての恋をした。




ずっと昔、一緒に過ごしたほんの僅かな時間。
薄れて埃をかぶった記憶の話。



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しょたキキョナデが一緒にいた期間って一年いくかいかないかって勝手に思ってる。ナデシコの家が転勤族であっちこっちしてたっていう設定。離れ離れになってからも文通はしてたんじゃないかな。それもナデシコの両親が亡くなってから途絶えたけれど( ˘ω˘ )

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